04:仁義を切る、なんて古風な言い回しでも忘れちゃなんねぇ心意気

 十九年前 一九九九年五月

 七本槍ななほんやり市 七本槍中央公園 野外音楽堂


 つい先ほどワルタと玲香れいかが帰ってきて、どうやら玲香がワルタにラーメンを奢ったらしく、全く良い迷惑です、と可愛げのない可愛いことを言っていた。おれはというと我が最愛の妻、涼子さんの愛妻弁当をありがたく頂戴し、水筒に入れてきたこれまた愛妻珈琲とともに至福の一服を堪能しているところだ。午後からは若いバンドたちのリハーサルをゆっくり楽しめる。

「もううんざりだ!ざけんじゃねぇよ!てめえとなんかやってられっか!」

「は!こっちのセリフだ馬鹿野郎!」

(な、なにぃ!)

 穏やかではないなんてレベルを軽く飛び越してもはや物騒でしかない言葉の応酬。少し離れた位置で、リハーサルを待つバンドの一組が言い争いを始めていた。周囲を見ると、他にバンドがもう一組、我関せずってツラだ。ワルタは雉を撃ちに、玲香はこちらを一瞥してまたノートに目を落とす。どいつもこいつもこなれていやがる。

「んだてめぇ!」

「てめぇじゃねんだよクソが!」

 どう見ても高校生ほどの男が二人、感情に任せて取っ組み合った。こ、これはいかん。怪我でもして楽器が弾けなくなった、なんてことになったら大事だ。ワルタの評価も下がってしまうかもしれない。

「おぉ~?ちょ、待て待て!なんだどした?」

 取っ組み合う二人の間に足から入って、大分強引に一人を押さえつけた。こうすれば背中側のもう一人の方も殴り掛かっては来ないはずだ。

「るっせんだよ!関係ねぇ奴はすっこんでろ!」

 おほぉー!何かたぎってくるねぇ!こういうの久しぶりすぎてオラわくわくすっぞ!

(い、いやいかんいかん……)

 取り押さえたおれの両手をぐいぐいと動かして引き剥がそうとする。これがそこいらの道端で起こった、ただのしょーもない喧嘩なら一発小突いて黙らせてやるところだが、今日のおれはスタッフで、演者はお客様だ。当然手を出す訳にはいかない。

「や、めっちゃ関係者。スタッフ」

 おれの力には敵わないと判ったのか、おれが取り押さえた方の男はじたばたするのを諦めた。おれは身長こそ低いが結構馬鹿力なんだ。男に反抗の意志がないと判るとおれも腕を放し、それでも二人の真ん中に入ったまま、とりあえず嘆息。

「もうやってらんねんで出演キャンセルします」

「え、当日に?ドタキャン?」

 背後の男の言葉に思わず素で返してしまった。相当頭に血が上っているようだが、原因なんぞ解明したところですぐに仲直りしてライブしますとも言わないだろう。

「金は払いますよ」

「そういう問題じゃないでしょ」

 ともかく、原因なんぞ知ったことじゃないが、運営側としてはドタキャンは困るのだ。非常に。今日の演奏さえ終わってしまえば解散でもなんでも好きにしたら良いけれど、あと数時間、我慢してくれねぇかなぁ。

「音楽性の違い。もうこいつとは組んでやれねぇ」

 おほぉ、コイツいきなりプロみてぇなこと言い出すからオラ思わず笑いそうになっちまったぞぉ。

 ……危ない危ない。

「そいつは判ったが、今日一日だけは我慢してくれよ。この通り!」

 ぱん、と頭の上で合掌して頭を下げる。こんな本番数時間前だとさすがに代わりのバンドなど奇跡でも起きない限り見つからない。こいつらの中違いはワルタのせいではないけれど、イベントに一つ穴をあければワルタの責任は問われる。まぁ事情をきちんと話せば夕香も諒も判ってくれるけれども、本番前に喧嘩をして怪我をしてしまったり、機材の破損ともなれば、ワルタの監督不行き届きになる。可能性として低いものでも危険な可能性は潰しておかなければならない。

「できっこねぇだろ!んなもん!」

「こっちこそ願い下げだぜ」

「そういうことろは息ぴったりだなぁ。あのね、いきなり穴開けられるとこっちも困るんだ。慈善事業じゃないんだし、君らだって友達とか呼んでんだろ?」

 どこかで行き違ってしまっただけで、本当は息もうまも合うんじゃないのかなぁ。もう少し落ち着けよ、とも思うけれど、こんな血気盛んな年頃の男達には返って火に油になりかねない。

「あんたに関係ねぇだろ!」

 そう来るか。スタッフだから関係あるって言ったのに。仕方がない。それならちょいとばかりお灸を……。

「あぁ?てんめぇごら!ガキが貴さんになんて口の利き方してやがんだ!ぶち殺すぞごるぁ!」

 ずかずかずか、と大股がに股のヤンキー歩きで近付いてきて、おれの正面にいる男の胸倉を手加減なしで掴み上げるとワルタが凄んだ。キレる方向性を著しく間違えているあたりが流石としか言いようがない。いやいや、落ち着いてる場合じゃないぜ!

「ぎゃー!ワルタ!え、ちょ、ま、まてー!」

 恐れていたことが!これがあるから夕香もワルタを独り立ちさせるのに不安が拭えない。これはバンドの小僧どもよりもまずワルタを抑え込まなければ、おれの信用失墜にも繋がってしまう!

「あぁ!コラァッ!ガキが!この野郎!てめぇ今、貴さんになんつったっつってんだよオラ!」

「な、んだよてめぇ!」

 おでこの脇にぶくぅ、っと血管が浮き出ている。相当頭に来ているのだろうが、お前は何もされてないだろうが。流石にナマイキを言った小僧もワルタの迫力には圧されているようだ。

「スタッフに決まってんだろうが!てめぇ稼ぎもねぇガキのバンドがスタッフ舐めんじゃねぇぞごるぁ!大体このお方はなぁ!」

 い、いかん余計なことを。許せワルタ!

 ぼぐ。

「いってぇっ!な、なんすか貴さん!」

 おれはワルタの後頭部を、ほんのうっすら手加減して、ぶん殴った。しかもぐーで。眉はハの字になりつつも、目ん玉をひん剥いておれに突っかかってくる。

「いいから少しの間へっこんでなさい。玲香ぁ?玲香さん?」

 一応こういう時に、おれの言うことなら黙って聞くのがワルタの素直なところだ。はぁー、ワルタが馬鹿で良かった。ともかく、おれには無理だから理詰めが得意そうな玲香に説明してもらおう。

「はい、何ですか元The Guardian's BlueガーディアンズブルーTAKAタカこと、水沢貴之みずさわたかゆきさん」

 言わなくても良いことを言いながら玲香はノートを閉じて立ち上がった。

「説明口調どうも。はい、今この場でキャンセル出た時の説明、超めっちゃ詳しく宜しく!」

 もう三年も前に解散したバンドのメンバーだからって何の力があるもんか。今じゃただのぷー太郎だ。

「え、た、TAKAって……?う、嘘だろ……」

「うん、嘘」

 おれは三回ほど頷く。仮にばれたところでこの件に関してはおれがどこの誰だろうと何の関係もない。

「あなた方はGuard Savageガードサベージですね。前売りで処理できているチケットは十二枚。ノルマ不足分は一万六千円。その前売りもあなた方が出ないことによって裁けず、総額で四万円になります。仮に当日売りがあったとして、十五、六人ほどの流入が無くなり、出店関係の売り上げ減にも繋がります。全員ではないにしても、例えばベビーカステ……いえ、たこ焼き一つ五百円を十人が買ったとして五千円マイナス。一つの店舗においてわずか数時間での営業時間で五千円マイナスはかなりのものです」

 うーん、淡々とした説明。まずは当日キャンセルになるので、満額支払いは当然として、払える金額の損害の補填も例え話で判り易く説明する。まぁぶっちゃけ出店の損害は全部嘘だけれど、でもこんなものは多分まだ序の口だろう。正直、こんな騒ぎ、一度や二度ではないのだ。

「その五千円も払えばいんだろ」

「さらに、主催である我が社、株式会社GRAMグラム、それと協賛していただいている株式会社EDITIONエディション、七本槍南商店街、北商店街に被害を出したとして、最低限の損害賠償、その上で小渕正臣おぶちまさおみさん、中路浩なかじひろしさん、小野寺大地おのでらだいちさん、石崎崇いしざきたかしさんの四名は、EDITIONの出入り禁止、各ライブハウスにもこの情報は共有、となります」

 小僧の言葉尻にわざと被せて玲香は続ける。美人ってこういう時すげぇ顔怖いよね。夕香ゆうかもそうだけど。

「はぁ?何でそこまでされなきゃなんねんだよ!」

 まだ高校生くらいじゃ判らないよなぁ。おれもそうだったもん。だから良い機会だ。おれも大人としちゃまだどうなんだよって自分では思うけれど、大人が教えてやらなきゃならないことだってある。少なくともおれはそうして少しずつ理解を深めていった。

「考えなしの無鉄砲がしでかした馬鹿の報いかなぁ」

「あぁ?」

 この期に及んで、と言っても仕方がない。大体バンドをやるような若い子たちはこのくらい元気で良いんだ。何せおれだってハコのスタッフに噛み付くことはなかったけれど、そんなおちゃめな一面はあった訳だし。いろんな、面白くないことにいちいち牙を剥いて吠えて、時には噛み付いて、それがどれだけカッコ悪いかなんて事は、もうちょっと年月が経ってから判るようになるもんだ。だから、数年後に思い出せるようにおれはくさびを打っておいてやる。

「は?じゃねんだよ坊主どもが。お前らの客が今日、お前らの仲違いでライブ見れなくなったらどう思う?逆にお前らが楽しみにしてたバンドが、ライブ当日に喧嘩別れしたので今日はライブできません、つってライブ中止したらどう思うよ」

 少しだけ語気を荒げて言う。もちろん演技だ。いや、ちょっとムカついてるのもあるけど。

「そんなもん」

「知ったこっちゃねぇか?ならこっちもお前らのことなんざ知ったこっちゃねぇよな。てめぇらの仲違いの原因が何なのかは知らんが、それを押して今日までやって来といて金さえ払っときゃいいだ?悪いことして迷惑かけたらごめんなさいなんざ今日日幼稚園児のうちの娘だって知ってるぜ。そんなことも判んねぇようならとっととお家に帰ってママのおっぱいでも吸ってろよ」

「るっせ!」

 さらに小僧の頬を片手で挟む。ひょっとこの面のような口になり、小僧が言葉を発するのを止めたことを確認すると、おれは続けた。

「それにな、これ以上一緒にやれねぇほどいがみ合ってんのが判っててライブ決めたのはてめぇらだろうが。それこそこっちは知ったこっちゃねんだよ。それをどうにかできねぇのはてめぇらの責任だ。てめぇらで決めたことの責任はてめぇらのできるやり方で果たせ、つってんだよボクチャン達」

 今この場で、以前からあったのであろう仲違いで溜めてきたものが爆発したのは、野外音楽堂のせいでも、ワルタのせいでも、おれのせいでもない。自分たちの責任だ。メンバー同士がいがみ合っていて、それをどうにかしようとしなかったバンドメンバー全員の責任だ。

「ちなみに、出演バンドに穴が開くということは、EDITIONにもGRAMにも多大な懐疑が向けられます。信用失墜のため損害賠償請求も考えさせていただきます。その場合、あなた方には最低でも百万から二百万円程度の請求はさせていただくつもりです」

 もちろん出まかせだ。まぁスタジオの出禁くらいはするかもしれないが、たかだかドタキャンで二百万なんて聞いたことがない。少し賢ければ判ることかもしれないが、おれが高校生の時分だったなら絶対に騙されるだろう自信がある。

「ひゃ、百万?」

 そりゃあビビるよな。

「ちなみに言っておきますが、屋台を出されている的屋の皆さんは、あなた方にも判り易く言葉を選ぶのならば、極道の方々です。脅す訳ではありませんが、それなりの仁義を切らなければこの街で出歩くことも難しくなりますよ」

「……」

 これは本当のこと。何しろ仕切っているのは的場組という、玲香の言葉よりももっと平たく言えばやくざだ。仁義を重んじる連中なので堅気の人間に対して下らない悪さなどは絶対にしないけれども。さらにそこの頭はおれと諒の高校時代の同級生で、こうした出店などの協力関係ができているくらいにはおれも諒も個人的に仲が良い。

「てめえらが気まぐれにライブでもすっか、つってどんだけの人間が動いてるのか想像したことあるか?てめえらは押しも押されぬ人気アーティストにでもなったつもりか?こちとらどんだけ有名になったとしたって、アンプ一台運ぶローディーにも感謝の気持ちの一つとして頭下げてんだぜ。おれらは彼らがいなきゃステージには立てねんだよ。でも彼らは、おれらなんかいなくたってほかにバンドはいくらでもいるんだ。そういうこと、考えたことあんのか?」

 裏方、と言われるスタッフがいるからこそアーティストは輝ける。ほかの職種でも同じだ。花形だと言われる営業マンが誇らしい売り上げを上げられたとしても、それは営業マン一人では成し得ない結果だと、何人の人間が判っているのか不思議に思うことがある。そう、連邦の白い悪魔に乗っていたかの人だって、公国の赤い彗星だって、必死に白い悪魔や赤いマシンを整備していた人間がいたから最後まで戦い抜けた。

 ……多分。

 さて、そろそろ仕上げだな。変な茶々を入れられても困るので、おれはワルタの表情をちらり、と確認した。ワルタはおれの言いつけを守り、おとなしくへっこんでいる。素直な奴め。あとでお前が大好きなコーラ買ってやる。

「それが判んねんならさっさと帰れ。スタジオ出禁と的屋との情報共有、損害賠償の請求は後でこっちで時間と人材をそのために割いてきっちりやっとくから心配すんな。高くても二百万なら、一人五十万だ。分割でもいい。払えねぇ額じゃねぇさ。ママンにでも払ってもらえ。んじゃワルタ、後は任せた」

 おれはひらひらと手を振って、テントに戻る。愛妻珈琲がまだ残ってるんだ。早く飲まないと氷が解けてどんどん薄くなってしまう。

「は、はいぃ!」

 おれに任せた、と言われたのがそんなに嬉しいのか、ワルタは張り切って小僧共の前に立ちはだかった。ちょっと偉そうにしてて面白い。

「す……した」

 ぼそり、とおれが最初に取り押さえた小僧が言う。

「あぁ?聞こえねぇなぁ!」

 だん、と足踏みしてワルタが楽しそうに声を張り上げる。

「すみませんでした!ライブ、出させてください!」

 土下座までして小僧が喚いた。わはは、愉快愉快。おれとしては連中が今日のライブさえしてくれれば、存続しようが解散しようがどうでも良いのだ。大体こんな子供たちのバンド一つを指名手配するほどどこもかしこも暇じゃない。やったところでEDITION出禁くらいなものだろう。

「危ないところでしたね」

 テントに戻ってきた玲香が少し苦笑気味に言った。イベントのことではなく、もちろんワルタのことだ。変な話だが、おれがいなければワルタはあそこまで暴走しなかったのかもしれない。おれが侮辱されたから許せなかったのだろうことは判っていたし。

(いや……)

 判らないか。いくらか年下の小僧どもにあんな口の利き方をされたら、縦社会で揉まれてきたワルタでは我慢が利かなかった可能性だってある。ああいう、口の利き方を知らない非常識な馬鹿はどこにでもいる。いちいち腹を立てていてはそれこそ諍いの種になるからおれは放置するけれど、それが我慢ならない人間だっている。そういうことを知る良い機会でもあるのかもしれない。

「まったくだ……。まぁワルタも悪気があってやってんじゃねぇのは判ってんだけどさ。おれの方こそ助かったよ玲香、ありがとな」

 あとでベビーカステラ買ってこないと。

「どういたしまして」

 どことなく、玲香がワルタを見る目が暖かな視線なような気がして、おれも少し優しい気持ちになる。

「そっちの小僧はぁ!」

 俺が奴を取り押さえたときに、背後にいた男をびし、と指さす。そもそもはこの二人の諍いが原因だ。この二人からの言質を取るのがまず始め。

「お、おれも!すみませんでした!今回の件は」

「んなこと聞いちゃねんだよ。ほかのメンツは?まさかケンカしてたのはこいつらだから関係ねぇとか思ってんじゃ……」

 うむ、良く言ったワルタ。バンドはチームだ。お互いがお互いをフォローしあってこそ、良い関係が出来上がる。誰かが誰かを貶めるようなバンドなんかやる意味なんてない。

「すみませんでした!」

「すみませんでしたぁ!」

 ワルタが言い終わらないうちにただ傍観していた残りの二人も、ベキィ、と音が鳴りそうな会釈をワルタに返した。

「……だそっす、貴さん!」

 くるりとこちらを振り返ったので、おれは水筒を机の上に置く。

「じゃあこっちも」

「……は?」

 おれの言葉に不思議顔を返す渡瀬わたせワルタ。誤魔化そうったってそうは水沢が降ろしません。

「判ってんだろ?ワルタくん……」

 テーブルに肘をつき、組んだ手を鼻の下あたりに。少しだけ眉間にしわを寄せて、顔の向きは少し下に。でも視線はワルタの視線をばっちりと捉え、不敵な笑みを浮かべる。まるでどこかの特務機関の司令官だ。

「あ……あ……。ぶ、ぶっ殺すとか言ってごめんなさい!」

 バキィ!

「たいへん宜しい」

 人間素直が一番です。



 二〇一八年八月二〇日

 七本槍ななほんやり市 七本槍南商店街 バー Ranunculusラナンキュラス


「男の人って何でそういうやんちゃなところ、抜けきらないんですかね」

 コカレロのソーダ割りのグラスを傾けて、嘆息混じりに六花は少し呆れたようだった。

「そうじゃない人間もいるけど、まぁ大体はそういう生き物だからね……」

 棚上げする訳じゃないけど、学生時代、おれの周りはそんな奴らばっかりだったな。

「そこが可愛いところでもあるのかもしれないですけどね」

「それ言われちゃうとねー」

 実も蓋もないと言いますかね、所詮男なんぞ女には頭が上がらない生き物だけれどもさ、そう、立つ瀬がないよね。

「貴さんも諒さんも昔はそうだった、って奥様、楽しそうに言ってましたよ」

「昔の話です」

 本当に、中学三年生まで。まぁその後も色々巻き込まれちゃいるが、おれの興味は完全にロックバンドへと移っていた。

「今となっては武勇伝ですか?」

「や、どっちかってぇと黒歴史」

 馬鹿なことをしでかして得た反省やら後悔は、教訓として胸に刻み込んではきたけれど、それとこれとはまた少し違う。腕っぷしの強さと言やあ少しは聞こえも良くなるかもしれないけれど、その実人を黙らせるまで暴力を振るうなんてのは、本当に、何の自慢にもならない。

「そうなんですね」

「えぇ、もう恥ずかしくてたまりません」

 この年になってまで腕力や権力を傘に威嚇したがる気違いもいるけれど、他人事ながらまったくみっともないったらありゃしないよ。

「後悔するくらいならやらなきゃ良いのに、って思いません?」

 そりゃ確かに、言われてしまえばぐうの音も出ないんですけれどもね。

「やらないで後悔するよりやって後悔した方が良くない?」

 うん、間違えた。

「そうかもしれませんけど、それ、今使う言葉じゃないですね」

 ぷくく、と笑いを堪える六花を見ると、何とも和んできちゃうね。

「ごもっとも……」

 おれも笑顔を返し、ノアーズミルを飲み干した。


 04:仁義を切る、という古風な言い回し 終り

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