第5話

 「ふぅ~。」


 内容の濃い、豚骨ラーメンのような1日だった。

二人が帰ったあと、適当に夕飯を食べて、風呂に入りながら僕は今日を振り返る。


宇宙船が落ちてきて、宇宙人が家に来て、しかも居候してきて、友達になった。

少し順序がおかしいかもしれないが、小説でもありえないような展開だと改めて思う。


 と、同時に僕はあることに気づいた。

一日過ごしてみたけど彼女、人間と何ら変わらないのだ。


余り宇宙人ぽくないというか、そもそも宇宙人ぽいとは何かというと答えられないが、風貌も、常識的なものも、とにかくただの地球人のようだった。


実は秘密裏に何かの実験をしていた地球人、日本人じゃないのか?




 「本当に宇宙人かって?」


風呂から上がった僕は、湯船の中で考えていた疑問を、ダイニングの椅子に座っている彼女に投げかけた。

そんなこと言われても困るといった表情かおをしている。


「……そもそも逃避行の行き先に地球を選んだ理由は分かるか?」


 突然こんな話を始めてなんの意味があるのか分からないが、僕は答えを見つけることはどうにも無理そうだった。


「さっぱり分からないな。

なんで?」


彼女はやれやれと思ったのか、両手を軽く広げる。


「それこそからなんだ。

例えばそうだな、タコみたいなやつで星の人口が構成されているところに逃げたとしたら、なんというか、浮くだろ。」


確かにその通りだった。


そんなところに住んでいたとしたらきっと物珍しさに野次馬のような物が押し寄せて来るだろう。

たとえ異星だとしても何かの調子に母星まで、その騒ぎが波及してしまうことを考えると、やはり取るべき選択にはならなかった。


そういうことだろう。


「というわけで、違いが少ない地球に来たから、亮朔がそう思うのも当然と言う訳だ。」


「おー。

確かに。」


納得だ。

むしろ上手く出来すぎているので、疑いの感情すら覚えるくらいだ。

上手く言いくるめられたのかもしれない。


 理解もできたことだし、僕は彼女に風呂に入るように促した。


「じゃあ次、お風呂入ってきて。」


……

彼女はキョトンとしている。


「お風呂ってなんだ?」


……違いを感じる。




 「へー、そんな文化があるとは。」


 彼女は興味があるのかないのか分からないような声で、僕のお風呂に対する説明に返答をした。

他国では、シャワーのみで済ませることも多いようだが、彼女の頭には、シャワーという言葉も存在しないようで、それについても聞き馴染みが無いような顔をしていた。


汚れるという概念が、存在しないのか?


 と、いきなり彼女は一念発揮したように椅子から立ち上がる。


「まあ一回入ってみるか。

おふろとやら。」


開口一番、脱衣所に直行した。

そのまま突っ込んでしまいそうだったので、僕は彼女を呼び止める。


「ちょっと待て! 一応言っておくけど服は脱いでくれ。」


「ほーん、そうなのか、わかった。」


さっき風呂に関する説明は一通りしたはずなのだが、聞く気がないのかはよく分からない。


彼女は脱衣所のドアを閉めて僕と壁を隔てながら、会話を続ける。


「着替えはある?」


「ああ、リビングに大きなカバンがあっただろう。

そこに入ってるよ。」


僕はリビングに戻る。


「……これか。

あったあった。」


もう風呂に入ったのか、静かになった脱衣所のドアの前に戻り、青色のバッグを置いておいた。


「ドアの前にあるから、後で取っておいて。」


僕は後でと言ったのだが、いきなりガラガラと音を立ててドアが開くと、彼女のきれいな白っぽい肌と、小さな胸が、露わになっているのが見えてしまった。


「ありがとう。」


入って無かったのかよ!

僕は彼女を見ないように、向こうから見たらそっぽを向くような形で目をそらした。


「早く閉めて!」


「なんでだ?

私は別に気にしないぞ。」


「僕が気にするから、早く!」


もう僕が閉めた。


「じゃあ入ってくるよ〜。」


風呂場のドアが開く音がしたとき、僕はある種の安堵を覚えた。


はぁ。なんとか耐えられた。

手なんて出したら殺されるかもしれないが。


……距離感が異常バグってるって。

どんな星で生まれてきたら会って初日の男に裸を見られて平常心でいられるんだよ。

これが文化の違いってやつか……


「と言うか、僕の残り湯に入ってるんだよな、これ。」


耐え切ったばかりだったのだが、何か心拍数が少し上がった気がした。




 僕はリビングに戻ってテレビを見ていたのだが、三十分ほど経ったと思われても、未だにお風呂から上がって来る気配はなかった。


「ちょっと呼んでみるか。」


1人小さく呟いた僕は、脱衣所の方に向かって歩く。


扉越しに、僕は声をかける。


 「おーい、そろそろあがったほうがいいよ。」


……

返事がない。


「聞こえてるー?」


中で溺れていたとしたらまずい。

僕は、さっき彼女の裸を見ないようにした事なんて、気にすることなく風呂場に駆け込んだ。


湯舟から出たところに彼女はいた。

それも、最悪の状況で。

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