第4話

 「そうかぁ、そうきたかぁ。

こりゃあ一本とられちゃったなぁ。」


だから誰目線だよ。

今度は父親か。


 さて、どうするか。

と言うのもブロッサムさんが宇宙人とバレるのは、万が一広まってしまった時のことを考えると、かなりまずいことが起こる。

かと言って僕に兄妹、いとこやはとこなんていないということを、二人は知っている。

よってこれを言い分に使うことは出来ない。


本当は居候とかでも言いたいのだけど、僕は一人なので経済的な面でそれは不自然だと思った。


 だから、普段ならこんなことは絶対にしないのだけど、勇気を出して、僕はブロッサムさんに耳打ちをする。


「この二人がいる間は、僕の彼女として振る舞ってほしい。

お願い。」


「彼女ぉ!?」。


彼女は2人に聞こえない程度の声を出し、少し顔を赤らめたが、頷いてくれた。

かっこいい、凛々しい彼女が可愛く見えた。


 「もういいよ、さあ、中に入って。」


とりあえず、今朝朝食を食べたテーブルにちょうど4つ椅子があるので、そこで話をすることにした。


「糸魚川 博己だ。」


「梶屋敷 美宙だよ。」


「「よろしく。」」


2人はブロッサムさんに向かって聞き取りやすい声で挨拶をする。

宇宙から来たことを伏せて、彼女も挨拶をしたあと、美宙が話を始めた。


 「あたしが君たち2人のことを見極めてあげよう。」


なんでちょっと偉そうなんだ?

表情も、言葉も。


「どうなの〜?、こいつと付き合ってて。

やな所もあるでしょ、正直。

隠しごとも多いよ。

テストの点数も言わないし、どんなに辛そうなことがあっても全然あたし達に本音を見せてくれないし。」


「えっ、そうなん?」


僕も、えっ、そうなん?って言う感じだ。

よく分からないな。


あと、その2つは並列させるものなのか?


僕のことはさておき、宙美の質問にブロッサムさんは困惑の表情すら見せず、冷静に答える。


「とても良い人だと思うぞ。

初対面でも、脅すようなことをしても優しくしてくれた。

それに……隠すことは悪いことだと思っていない。


私の星ではな……」


「星?」


まずい。


「いや、その、国だ。

私の国では男がピラミッドの頂点だった。

だから私も男装をして生きていたんだよ。

この格好、わかるだろ。


女であることを隠して生きてきたから、それでうまく生きてこれたから、そうじゃないと生きていけなかったから、隠し事だってあってもいいって思ってる。」


星についてはなんとか乗り切ったようだが、この過去が本当だとしたら、ぞっとするものがあった。

彼女の星は宇宙旅行ができるほど、文明が発達しているはずなのだが……

今朝の彼女の言葉を思い出す。「一人娘だから、男物は慣れている。」

令和の地球より、業が深い。


 と思っていたのも束の間、なぜか美宙は席を立ち僕に「ちょっとこっち来て。」と言われ、ドアを開けてリビングから廊下に出た。

特にいつもと変わらず笑顔のまま、僕に問いかける。


「亮朔、あんたこの子の彼氏じゃあ無いよね?

なんか違う気がするんだけど。」


「なんでだよ。」


「女の勘。」


的は得ている。

受け入れられるか分からなかったから没にした居候案だが、向こうからそう見えるなら願ったり叶ったりなので、僕は「まあ、そんな所だ。」と頷いた。


 僕と美宙はリビングに戻り、椅子に腰を下ろした。


「もう彼女なんていう嘘、つかなくていいよ〜。」


美宙がそういうと、一瞬ブロッサムさんの表情は怪訝なものになったが、僕も頷くと、彼女の肩の力が抜けた。


「こんなこと言われたのは初めてだったもんでな。

緊張しながら喋っていたよ。」


そりゃあそうだろう。

今まで男のふりをして生きてきたのだから、誰かの彼女どころか、女の子として見られたこともなかったはずだ。


経験がないから、ふりをしてと伝えた時に

顔を赤らめたのだろうか。


あっても赤らめるか。


王子のようなふるまいだけど、強制されただけで、本当は普通の女子なんだろうな。


申し訳ない。

後で謝っておこう。


「えっ、彼女じゃないのかよ。

意味わかんねー。


なんでわざわざそんなことしたんだよ。」


当然だが博己には怪しまれたが、彼女の母国(母星)の話を交えながら、「事情があるんだ」と僕がなんとか誤魔化した。






 「ていうか俺をおいていくな、初対面だしお前らがいないと心細いだろ。」


少し語気を強めに、博己はそう言った。

僕も初対面の人とは2人で一緒にいたくないと一瞬思ったが、昨日の夜、がっつり初対面の宇宙人と喋っていたので自分は意外といけるのかもしれない。


そして、相も変わらず突拍子もないことを、美宙が言いだした。


「と言うわけで、ちょっとこの子借りるよ〜。」


どこに「と言うわけで」と言える部分があったんだ?


「何をする。

私には銃があるんだぞ。

おい、ちょっと待て!」


ドアをガチャりと開けた音が聞こえた。

行ってしまったようだ。


「引っ張ってかれちゃったけど、良いのかよ。」


「なんやかんや、美宙は信用してるから。

なんか面白いことでもするんじゃない?」




 30分くらいすると、再びドアの開く音が聞こえた。

リビングに繋がるドアを、ガラガラと開ける音がすると、そこには別人がいた。


「ただ今帰ってきた。」


言葉遣いは何一つと変わらないが、その容貌は大きく変化していた。


髪自体は短いままではあるが、右目を隠していた前髪は、眉の少々下あたりでバランスよく切り分けられており、顔の雰囲気が全体的に明るくなったようだった。


前髪以外も、かなり短く、整えられていない髪だったのだが、ショートボブになっている。


また、服も今までの王子様ファッションから、ジーンズのような色合いをしたオーバーオールの下に、黄土色の長袖シャツを纏っており、ボーイッシュな雰囲気はあるが、先程までとは、可愛らしさが一段階上がっているように思える。


要するところ、見惚れた。

美しかった。

可愛かった。


美宙は「ちなみに髪はウィッグです」と、誇らしげにつぶやいていた。


ただ、着こなす本人はこの格好が、慣れないからか落ち着かないようで、何処か上の空のようだった。


こんなことでさえ初めてなんだ、きっと他にも制限されてきたんだろうな。


彼女は「ちょっと待っててくれ」といい、結局先ほどまでの格好、つまりタキシード姿に、彼女自身の部屋で着替えてくると、僕たちに向かって話し始める。


「私には夢がある。

それは自分で自分のことを決めることだ。

マリオネットはもう嫌だ。

私は、自分勝手になりたい。」


男装も、王であることも、誰かの命令だったのだろう。

さらに、少し顔を紅色に染めながら話を続ける。


「それから、お、お願いがある。

みんな、私と、その、友だちになってくれないか?」


「もちろん!」


「いいぜ。」


「当たり前だよ。」


3人が3人、三者三様の肯定をした。

初めての対等なんだろう。


「ありがとう、皆。」


彼女は赤い顔から、笑顔に変わった。


「最後に、迷惑をかけるかもしれないが、これからよろしく頼む。

……亮朔。」


僕の名前……


「ブロッサム……さん、改めてよろしく。」

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