その2 この児の容貌のけうらなること親バカ発現せり

 翁が連れ帰った小さな少女は、なぜか翁を大変警戒し、怯えていましたが、家にいる妙齢の美女とは比較的早く打ち解けました。

「どうしてこんなに怯えてるのこの子。誘拐されたから?」

 美女はさも不思議そうに翁に尋ねます。その間、小さな少女は美女の陰に隠れています。

「誘拐ではない。保護だ。儂が竹を切ったらその子が出てきたのだが、それから終始怯えっぱなしだ。よっぽど怖い目に遭ったのだろう。かわいそうに」

 翁は心底かわいそうに、と少女を(彼なりの)慈しみの表情で見やりますが、当の少女は目が合うたびにビクリと震えてしまいます。

 少女は終始「わたしのすぐ上をシュパッて…」とうわごとと共に怯えていましたが、美女の傍にいることでだんだんと落ち着きを取り戻しました。

 

 翁と美女は話し合い、少女を娘として迎えることにしました。

 少女は翁を「お父様」と呼び、美女を「お母様」と呼びましたが、美女はなんとなく気にくわなかったらしく、「わたしは……、そうだね、玉ってんだ。だから、玉姉さんって呼びな」と告げると、少女は「はい、タマ姐さん」と呼びました。

「あんたの名前はなんだい?」

「わたしは……」

 玉が聞くと、少女はとても言いにくそうにしました。

 これは何か訳ありだろうと感じた翁は、いかつい腕を組んで思考数秒、

「名がないなら、儂がつけよう。竹から出てきたのだ。竹子でどうだ」

 翁は厳然と提案しますが、

「………」

「いや、ないよそれ」

 少女と玉、二人に拒否されました。

「もっといい感じの名前つけたげなきゃ。そうだね……、ここは名づけ名人の、知り合いのあきちゃんのセンスで……、かぐやってどうだい?」

 少女は顔をぱぁっと明るくしました。

「ありがとうございます」

 少女—――かぐやは目に涙を浮かべて喜びました。

「あの、竹子……」

「さぁ、夕飯にするかね」

 翁がどこか名残惜しそうに自分の命名案を口にするも、もう誰も聞いてはくれませんでした。


 それからというもの、不思議なことが続きます。

 翁が竹を取ってくるたびに、竹から金が出てくるようになりました。

 ギリギリ生活できる程度であった翁の家でしたが、見る見るうちに家は屋敷と呼べるほどのものになり、着ている衣服もボロキレから継ぎ接ぎのないものへと変わりました。

 変化はかぐや自身にも起こりました。

 かぐやははじめ、翁の手に収まる程度の大きさでしたが、日に日に大きくなっていきました。ひと月でその背は翁の半分ほどにまで成長し、その様に翁も玉も驚いたものです。

 かぐやとの湯浴みを日々の楽しみにしていた翁が、かぐやから「もうお父様との湯浴みはしません。ひとりで済ませます」と言われてショックを受けた日のことは強く印象に残っています。あからさまにショックを受けていた翁を見た玉は、床をバンバン叩きながら爆笑していました。

 それから更にひと月経つ頃には、かぐやの体は出るところは出始め、引っ込むところは引っ込んできたりと女の体つきになり、うっかり着替えを見てしまった翁に対して「きゃー、お父様のエッチぃ!」とかぐやが騒いだことは強く印象に残っています。この時も、玉は床を転げ回りながら爆笑していました。

 かぐやが翁の家に来て三か月も過ぎたころには、かぐやはもう成人女性の姿になっていました。

 かぐやの成長に日々驚きながらも、翁は感慨深く呟きます。

「おなごの成長は早いというが、まさかこれほどとは……」

「まぁ、さすがに異常よね」

 天然ボケをかます翁と冷静な玉は、絶世の美女に育ったかぐやを見て感嘆のため息を漏らすばかりでした。

「あそこまで大きくなっては、もう『将来お父様と結婚する』と言ってもらえないではないか」

「いやそこかよ!」

 真顔で残念そうに、残念な発言をする翁を見て、玉は思わずツッコミを入れました。翁はこれまで子宝に恵まれてこなかったので、ここにきて親バカが発現したようでした。

 また、この頃になると、絶世の美女であるかぐやの噂は瞬く間に広がって、翁の家の周りはかぐやを一目見ようと人だかりができるようになっていきました。

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