第10話「頑固なドワーフの店(改稿済み)」


 冒険者ギルドを出て数分。俺は初めて来た異世界の街並みを楽しみながら武器や防具が売っている店を探していた。


 正直、街並みが綺麗で途中、自分が武器を買おうとしていたことはすっかり忘れていた。日本じゃ見ないような西洋風の木造の建物やレンガで出来た建物も多くまさに歴史が生きているって言う感じで言葉にできないほどに凄かった。


 道はかなり整備されていて、コンクリート的なものではなくおそらく石レンガを使っているみたいだ。


 そして、そこを通る馬のようで馬ではない生物の馬車。色々と矛盾しているがとにかく不思議な生物が荷台を牽いている。中には人が乗り込んだりしていて、俺も昔、旅行で乗った馬車を少し思いだした。


 まぁ、そういう風景も現地民からしてみれば当たり前で声を出して興奮する俺の姿にやや懐疑的だったが——そんなことは俺には関係ない。


 貴族の時の記憶なんか外に出してもらえず部屋でひとしきり泣いているのしかないし、こうして外を見るのはレオンとしても初めてで開いた口がふさがらなかった。


 そんなわけで一時間ほどうろちょろしていると、たまたま眺めた裏路地に看板が見えた。


「ん……ガイアス武器防具店?」


 ドイツ語のような異世界語で書かれた文字を今さら読めることに気が付きながらも、周りの薄暗い雰囲気に息を飲む。


「……これって、入ってもいいんだよな?」


 アングラな雰囲気で飲み込まれそうになるも、扉には「OFFEN開店中」と書かれた木の板が書かれていて、扉を開けて中に入った。


 すると、その直後だった。


 まるで俺の往来を予期していたかのように真っ直ぐ目の前に腕を組みながら仁王立ちをする髭の生えたおじさんが立っていて、逃げ場もなく目が合う。


 あまりにきりっとした目で、それはもう目が合ったと言うよりかは睨まれている気分だった。その目が若干叱る時のお父様の目に見えて、胸がキュッと引き締まる。


 そして、野太い声で俺にこう訊ねた。


「——お前、見ねえ顔だな。誰の紹介できやがった?」


「え、えと……紹介は特に……その眼に入ったのでっ」


「あぁん?」


 何この人、滅茶怖いんだけど?

 それに背が低いのはドワーフからだろうか。正直、俺よりも背が高かったら即刻縮こまるレベルで怖い。何とか保った意識で答えるもそのドワーフのおじさんは目をより尖らせた。


「っほ、ほんとに目に入って……僕、その、武器とか揃えたくて来たんですけど……駄目でしたか?」


「ん? そうかよ。っち。裏路地に立てたのにこんな奴が来るとはなぁ。お前、冒険者になったばかりのガキだろ?」


 が、ガキって……怖いよ。俺がマジで14歳だったら卒倒してるって。


「一応そうですけど……その、無理だったら帰るので」


 その雰囲気から明らかに駄目そうで怒られない程度にそう言って踵を返す。


 しかし、そんな俺の言葉をかき消す様にドワーフは背中を向けてこう言った。


「あぁ? 俺は駄目だと言ってねぇよ。ほら、来な。なにがほしいかいってみろ」


「え?」


「え、じゃねえ。ほら、早くしろ。うちはあと30分で店じまいなんだ」


「あ、ありがとうございますっ」


 もしかして、この人って意外と優しいのか?

 ちょっとキュッとなった心臓が元に戻るような気がした。





 そうしてお店の中に入ると仲は意外に小綺麗にしていたようだった。

 壁にずらりとならべられた剣や盾に、奥に進むと全身の防具がこれまた木で作られた人形に着させてあり、性格に難がある実力派のお店という想像とは違っていた。


「えと、冒険者用の装備を買いたくて……その、要望とかは特にないんですけど」


「んじゃ、お前はいくら持ってる?」


「お金は今は……ここに入る時に銀貨2枚とられて、銅貨4枚だから、今は銀貨7枚に銅貨が6枚です」


「へぇ。全部使っていいのか? 宿代は?」


「あ、それは残していただけると……一応明日から受けようと思ってるので多少高くても大丈夫です」


「そうか、分かった。あとお前、見た目からするに魔法使いじゃなさそうだがどうなんだ?」


「僕はそうですね。魔法は使えないので……どっちかと言うと剣とかあった方が嬉しいです」


「魔法が使えない?」


「あぁ……まぁ、はい」


 ですよねと。

 さすがの頑固なドワーフのおじさんでもそこは見過ごしてくれなかった。

 いじめられるかなと考えてちょっと委縮しそうになるも彼はただ驚くだけで呟いた。


「珍しいな、お前」


「……え?」


「何んだよ?」


「いや、いじめたり差別してい来ないのかと……」


「はぁ。まぁ俺はな。だいたい、この街はこの国じゃ差別されるような種族が多いんだぜ? お隣のシュナイダー家が色々とやってくるおかげでルーナルダ家に守ってもらっているがな。そりゃ魔法が使えないくらいでいびったことはしねぇよ」


 いきなりの優しさに俺も心底驚いた。

 さっきの言葉を訂正したい。


 彼は恐い頑固なドワーフではなく、心優しき頑固なドワーフだ。


「や、優しいですね」


「魔法がなくても技術で何とかなる場面もある。それに、魔法に頼りっきりじゃ本物にはなれねぇ。そうやってどこぞの聖騎士も今やだれも適性が5を超える奴がいねぇしな」


「……で、ですね」


 魔法がなくても技術で何とかできる。そう言われると俺としても少しうれしかったが最後の言葉があの兄たちに向けられてると考えるとこの人の未来が心配だ。


 絶対に言いふらさないようにしなければ。



「まぁ、とにかくそれならこの辺の簡単な片手剣の方がいいか。盾は……?」


 そう言って元に戻ると、何やらテーブルをガサ後とし始めるドワーフさん。


 尋ねられて、ふと思う。

 今更な疑問だが、俺は本当に剣が必要だろうか。


 魔法は使わないが俺は科学を使う。

 正直、化学式や方程式を思い浮かべば使えるし、手から出すのもちょっと似ている。そんな俺が剣を使う必要はあるのかと。


 いや、ないかもしれない。


 必要なのは盾じゃないだろうか?

 盾、。それなら敵の攻撃を防ぎつつ攻撃に転じられる。


 なら――


「あの、やっぱり盾だけください」


「あぁん? 剣は?」


「や、やっぱりその盾でいいかなと」


「攻撃は?」


「す、スキルがあるので」


「……スキルねぇ。ふしぎな奴だな、お前は。まぁいい。短剣、銅貨1枚で売ってやるからつけてやるよ。それじゃあ盾と防具だったな」


「はいっ」


 何から何まで優しくて、結局俺は色々とおまけしてもらい、短剣に木の盾、そして防具を買い、銀貨2枚を支払った。


 残り銀貨5枚と銅貨6枚か。


「まぁ、あれだな。新人が増えるのはいいことだ。とにかく調子に乗らず頑張りやがれ」


「……はいっ」


 優しい言葉ではなかったが、俺は彼の言葉に背中を押され店の外に出る。

 最後、見えた看板でふと気が付いた「ガイアス」と言う名前は次会った時に残しておくとしよう。


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