第8話「エーリカ・ルキュナス(改稿済み)」

 そんなわけで俺はエーリカさんについて行くような形で一緒に冒険者ギルドに向かった。


 いきなり始まった二人での遠足と言ったところか、魔物が出てくるかもしれないので不安そうにしていたエーリカさんも終えが隣に歩いていたら安心してくれたようでとても落ち着いた表情をしていた。


 ひとまず、全体的にはどうにかなりそうな感じだ。


「……」


「……」


 ただ、そうだな。

 それにしても……ちょっと気まずい。


 いや、ちょっとじゃないか。

 かなり気まずい。


 まぁ、考えてみたらすぐわかることだが俺は女の子との話し方を知らない。話し方と言うよりかは楽しませ方、いなし方? 言い方はッどっちにしろ、とにかく女の子に対してどんな話をすればいいか分からないのだ。


 無論、このような無言の時間にまず何から話しかければいいか分からないわけである。


 いや、言おうとしていることは分かる。そんなんだから彼女ができないのだと。俺は否定しない。その通りだ。


 それに今回は色々とバフが付与されている。俺はエーリカさんを助けた命の恩人だと言うことだ。


 あの謝られようからして、完璧に根に持たれてるだろうし……そのせいで俺が何言っても否定しないイエスマンになられてもちょっと困る。


 いや、イエスウーマンか。


「———―っ」


 なんてくだらないことに頭を悩ませる時だった。

 隣を歩く彼女が少しチラチラと、何か言いたげに俺の方へ視線を向けてくる。


 何か、言いたいことがある。それなら好都合。


 ココを使うほかない。そう思ってすぐに彼女に訊ねた。


「あの、どうかしましたか?」


「っあ、えと……」


 すると少し驚いた様に目をパチパチと開け始めた。

 その様子がまた可愛かったのは言うまでもないが、ちょっと怯えているようにも見えて心配になる。


「へ、変なことをお聞きしてもいいでしょうか……」


「だ、大丈夫ですけど、何ですか?」


「え、えと……さっき、私を助けてくれた時に使ったのはどういうものなんですか?」


「えっ?」


「あ、いやその……別に言いたくないとか言えない理由があるなら別にいいんです! た、だ、そのなんか気になってしまって……私が知っている火魔法と土魔法とはかけ離れていましたし……これでもその、火魔法と土魔法の魔法適性はあるのでっ」


「あぁ……いや、別に聞かれたくないとかではないんですけど。んと、その……なんというか説明しずらいというか……」


「な、なら私は別にいいんです。なんか、助けてもらってるのにおこがましいですよね。私……」


 彼女はまたしても悲しそうに俯いた。

 さすがに何度も辛そうな顔にさせている気がして、俺も俺で少し嫌だった。


 それに、この場合。

 俺はどう返せばいいのだろうか。


 あの火と鉄の塊は、固有スキル【科学サイエンス】を用いたものだ。別にそのままいえばいいじゃないかと思うかもしれないがルーナルダの領地の人たちが魔法が使えない人に優しいとは限らない。


 まして、この世界が魔法至上主義と言われてるのには魔法で支配されているという理由だけではない。


 この世界に住むほとんどの住民が魔法を使えるからである。

 そう、少なくとも彼ら彼女らは魔法適性1以上を付与されている。それも、俺の様に0だった場合は冒険者や闘技場の拳闘士などの特殊な仕事にしか就けない。


 つまり、この世界で魔法適性が0の人は圧倒的なまでのマイノリティなのだ。


 そして、この世界は貴族や王が支配している。マイノリティが幅を利かせるような現代社会とは違う。


 このエーリカさんだって俺が魔法を使えないと知れば兄たちの様に豹変するかもしれない。


 ただ、彼女の純粋な瞳を見て嘘をつけるわけもなかった。


「エーリカさん、俺は魔法が使えないんです」


「え?」


「文字通り、使えない。魔法適性0なんですよ」


「で、でも、それじゃああんな攻撃できるわけっ」


 しかし、彼女は俺に対して偏見を持つわけでもなく、ただただ驚いていた。

 

「あれは、俺の固有スキル【科学サイエンス】によって生み出した――その、なんて言ったらいいんですかね。まぁ、科学っていう概念で作り出したものなんです」


「かがく……?」


「僕の故郷には伝わる人類の英知的なものですかね?」


「……凄いですね。私、てっきり魔法だと。それに魔法が使えないのに生き生きしていて……あんなこともできるなんてレオンさんは凄いです」


「そんなことはないですって。でも……あれなんですね、エーリカさんは俺に対して卑下したりしないんですね」


 そう言うとエーリカさんの目が少しだけギョッとした。

 すぐに戻り、何か思い浮かべたかのように呟いた。


「私は差別をしませんから。それに、冒険者ギルドがあるアルテタの街はルーナルダ家が仕切っているので他の場所よりかは魔法適性が低い人が多いですし、偏見は少ない方だと思いますよ」


「そうなんですか?」


「はいっ。私だってそこまで魔法が得意じゃないですから。もう正直、諦めてますし」


 悲壮感漂う言葉。

 その眼は前世でも見てきた終わった人のそれだった。


 受験期、よくこういう人がいた。

 もう無理だと、努力しきったからと。それで無理ならば行けるわけがないと口癖のように言っていた人だ。


 結末としては彼はそのストレスに耐え切れず死を選んだ。

 親に迷惑をかけるなら死ぬと言って、いなくなった。

 

 あの時見た人の目と一緒。


 知らない人で声すらかけれなかったけど、今はそんな人が目の前にいる。


 それなら今度こそ、助けない手はない。


「——努力すれば、きっとできます。方法が違うんですよ、エーリカさんに合った方法がきっとありますから俺も出来ることがあれば手伝いますよ」


「……っ」


 目を見張る様に彼女は固まった。

 そして、視線を落して頷いた。


「……優しい人ですね」





 そして、俺達は小一時間話しながら、時には魔物と戦い、あっという間にアルテタの街に入った。入る時、検問所で身元不明による通行料銀貨2枚を支払い、色々とステータスを見られたがどうやら名前もレオンの実となっていて問題はなく、そのまま冒険者ギルドにたどり着いた。


「それじゃあ、私は先に宿屋に戻るので今日はここまで。何かあったらエルフの館の102号室にいるので来てください。」


 エルフ……そうか、多種族だもんな。


「はい。ありがとうございました。聞きに行きますね」


「命の恩人ですから、何でもしますよっ。じゃあ」


 そう言って手を振り、俺はエーリカさんと別れてギルドの中へ入っていった。

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