第7話「金髪ハーフエルフの冒険者(改稿済み)」

 白狼を倒し、俺は後ろで尻もちをついていた彼女の元へ駆け寄った。

 

「あの、大丈夫ですか?」


 こういう時はと、親に習った視線を同じにするためにしゃがんで声を掛ける――を実践しながら、彼女に手を差し伸べた。


 すると、俺の目と手を驚いたように見つめながら手を掴んだ。


「は、はいっ……」


 儚くも透き通った美麗な声に、優しく俺の恐る恐る手を掴む姿。

 正直、遠くで見た時よりも可愛すぎてしばし見つめてしまっていた。


 肌は白っぽくて、艶があり張りもあって化粧をした女優だって負けるんじゃないのかって言うほどの美貌。


 そして何よりも整った顔立ちに、汚れの付いた服装でなんとも言えない胸の奥底に眠った感情を帯び寄せてくる。


 体つきからして明らかに子供のそれだったが、正直そんなの関係ないほどに彼女は可愛らしく、そして美しかった。


 あまりにも固まって見つめていたものだから、少しジトッと怪訝な視線を向けられて、俺はすぐに頭を振って視線を逸らした。


 いかんいかん。

 初対面の子に発情するのはあからさますぎるだろう。


 邪念を抑え、口を開く。


「あの、えと……」


 うん、こういう時って何から話したほうがいいんだろうか?

 人助けするのはちょっと初めてで常套句が思いつかない。


 これはあれかな、迷子の子供に声を掛けるそれと一緒に接していいのかな?

 

 頭の中を全力でフル回転させて、ごもった口を再び開いた。


「えっとぉ……その、名前は?」


 ちょっと臭かったかなと思いつつも、彼女は俺の手をガシッと掴み起き上がるとハッとしたように呟いた。


「わ、私ですか?」


「まぁ、他に誰もいないですし」


「で、ですよねっ……私は、エーリカ。エーリカ・ルキュナスですっ……」


「エーリカルキュナス……それじゃあ、エーリカさん?」


「は、はいっ。え、えと……それじゃあ、あ、あなたのお名前は?」


 少し怯えながら尋ねる彼女。

 俺、そこまで怖いかな?

 これでも中学生の頃は女子からよく「良い人だよね」と言われていたんだがな。


 まぁ、良い人止まりでだれとも恋愛できなかったけど。


「——僕は、レオン……」


 と、名前を言い欠けて口を閉じた。


 待てよ、このままでいいのか?

 俺って苗字名乗っていいんだっけ?

 

 泊りながら、あらゆる考えがぎる。

 腐っても元貴族。

 その名を言えば彼女は驚くんじゃないか?


 念のためだ。

 念には念をとよく言うだろう。そこは伏せておくとしよう。


「レオンって呼んでください」


「レオンさん、ですね……か、かっこいいです」


「それは照れますね。ありがとうございます」


 なんか褒められたし、ていうか嬉しい。こんな美少女に。


「あぁ。それで、エーリカさんはなんでこんなところに?」


「……その、ぼ、冒険者をしてて。白狼一匹を追いかけていたらいつの間にか……それで、その……あ、私っ」


「ん?」


 すると彼女は思いだしたかのように俺の手を掴んで、それを両手で包み込んだのだ。


 あまりの近さに思考が固まるも彼女は止まらない。


「あ、ありがとうございます!! わ、私なんかを助けてもらって……死ぬかと思ってて……ごめんなさい」


 そしてすぐに頭を下げた。

 手を握られて頭まで下げられて、俺も俺でパニックになりそうだった。


 とはいえ、流石に美少女に頭を下げられるのは何かヤバいことをしている気分になってくるので急いで否定する。


「や、別に大したことは!! 頭は下げないで大丈夫ですから!!」


「——ほ、ほんとですか?」


「ほんとです! それに……困っている人がいたら助けてあげるのが紳士の役目ですから」


 何言ってんだ俺。自分でそう感じながらも身体が勝手に動く。

 どうやら腐っても貴族のたしなみが染みついているようだ。


 優しくそう言うと彼女はやや恥ずかしそうに頬を赤らめて目を背けた。


 ん、なんかあれか、きもかったかな。俺。


「……優しい人なんですね」


「え?」


「い、いや。なんでもないです。でもほんとに、一人で冒険者をしていて助けてくれる人なんて見たことなかったので……ちょっとだけ驚きました」


 首を振りながら、優しい笑みを浮かべる彼女。

 綺麗な女の子らしい笑みに胸がズキッと痛む。


 どうやら俺は心も14歳に戻っているのかもしれない。


 まぁ、それはいいか。もう一回やり直せるしな。ひとまずそれで、エーリカさんは冒険者をやっているというわけだ。


 にしてもそうか、冒険者か。


 冒険者、冒険者、冒険をする者って書いて冒険者————


「——え、冒険者!?」


「は。はい……えと、レオンさんも冒険者じゃないんですか?」


 あからさまに驚きすぎた。

 慌てて咳ごんで言い直す。


「あ、あぁ……僕はそうですね。冒険者じゃないです」


「じゃ、じゃあなんでこの森にいたんですか……?」


「んと……」


 どうしよう、不味いな。

 言い訳が思いつかない。

 

 貴族を追放されてきちゃって――なんて言ったら驚かれるのは明白だし、いっそここはそれっぽい職業で誤魔化してみるか?


「んと……俺はその旅人なんですよ」


「た、旅人?」


「旅人です」


「で、でも、レオンさんが着た場所はシュナイダー家の領地じゃ? 確か、シュナイダー家の領地は規制が激しく、身元が不明の人は入れてもらえなかったはずですっ」


 おいおいまじか。

 そんなのは初耳だぞ。

 シュナイダー家の領地ってそんなお堅いものだったんか。ていうか、そのくせ国土の1/4を領地として持ってるって。一回、街の方に行ったことがあるけど割と人多かったぞ。


 しかしまぁ、どうしたものか。

 適当に誤魔化すか。


「……ま、まぁ、貴族に知り合いがいて」


「知り合いが……それは凄いですね。シュナイダー家は地位が低い者には厳しいって聞きますし」


「あははは……僕も最初はきつかったですよ~~」


「でも、あんな簡単に魔物も倒しちゃうんですし当然ですよね」


 何とか誤魔化せた。

 とはいえ、エーリカさん。ちょろいな。

 騙されやすそうだし、ちょっと心配だな。


 って他人の心配もいいが、まずは俺の心配もしておこう。

 せっかくであった冒険者さんだ。出会ったからには意味があるはずだ。


 考えているとエーリカさんが少し上目遣いで訊ねてきた。


「冒険者、ならないんですか?」


 そう言われてハッとする。

 その手があったか。


 言われてみれば俺はまだ冒険者じゃない。ただの追放されたはみ出し者だ。

 これからどうやって食っていけばいいのか、そう言う心配も冒険者になれば考える必要もなくなってくる。

 

 何よりも、憧れだ。

 冒険者なんて、異世界の定石だ。


 それに、科学の優良性を説くにはいい機会だろう。

 このスキルは使い方だ。それを磨くにもいい機会になる。


「誰でも、なれるものなんですか?」


「レオンさんなら余裕ですよっ。それに、身分も何もいりませんから……」


 やや悲壮感漂う言い方だった。

 しかし、これは良いことを聞いた。


 誰でも、どんな階級でもなれる。

 それならば、手を伸ばさないなんてことはできない。


「じゃあ、なりたいです」


「……はいっ!」


「あ、でも、どうすればいいんですか?」


「ちょうど私も宿に戻るので冒険者ギルドまでお連れします……それと、私一人で魔物の森を移動するのは不安ですし……」


 苦笑を浮かべる彼女。

 任せてよサムズアップして、肩を掴んだ。


「へ?」


「エーリカさん。ありがとうございますっ!」


「は、はいっ」


「それに、エーリカさんは綺麗なので自信持ってくださいね」


「……っ」


「それじゃあお願いしますね」


「ん」


 コクっと頷いて、急にロボットみたいにカクカクしながら振り返って歩き始める。




 そして始まる。

 俺の冒険者生活の第一章が。





<あとがき>

現在、大幅改稿中です。

急に始めてしまって申し訳ございません。

第0話から編集していますが大幅に内容が変わるのは第6話からです。お手数ですが、確認いただけたら嬉しいです。


変更点→エーリカさんをギルド嬢から内気な美少女冒険者に変えました。

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