第3話 案ずるより産むが易し

「さあ、リンリ、挨拶なさい!」


 大きい方のモザイクがそう言った。


 こいつは母親のようだ。


 夢に出てきたヤツとそっくりだな。


「はじめまして。わたしは邦総ほうそう 凛理りんりです。よろしくおねがいします」


 小さいモザイクがちょっと舌足らずな感じで挨拶をしてきた。


 大きい方の半分くらいの大きさだ。


「はじめまして、純田すみだ ひとしです。こちらこそよろしくおねがいします」


 こちらも舌足らずな感じで挨拶をした。


 ふっふっふっ、子供のフリにも慣れたもんだぜ。


 まあ、本当に子供だけどな!



 って、そんなのどうでもいいんだよ!?


 なんなんだ、これは!?


 こいつは転生前日の夢に出てきたヤツだよな!?


 あれは予知夢だったのかよっ!?


 なら、こいつに触れると超必殺技で殺されるのか!?


 とりあえず、不用意に触らないようにしよう!!



「さあ、どうぞ、上がってください」


 母さんがそう言った。


「では、お邪魔します」


「おじゃまします」


 モザイク親子がそう言った。


 こいつらはどうやって移動しているのだろうか?


 床を滑るように移動しているな。


 ふーん、ああやって動くのか。


 玄関には段差があるのだが、そこはどうするのだろうか?


 うわっ!?

 なんか出た!?


 ふたりのモザイクの底面の部分から、細長いモザイクが複数本出て来た。


 もしかして、あれは足なのか!?


 そして、それを器用に動かして、段差を越えた。


 うわぁ、すごい光景だなぁ。



「さあ、ひーちゃん、リンリちゃんと遊んでらっしゃい」


「はーい、リンリちゃん、いこう!」


「はい」


 俺たちは子供部屋に向かった。



「ヒトシくん、わたしはぼでぃーがーどなんですよ」


 それ公言しちゃって良いものなのか!?


 ちょっとツッコんでみるか。


「ぼでぃーがーど? リンリちゃん、それなぁに?」


「うーん、よくわかりません」


 知らないのかよ!?


 まあ、まだ三歳だし無理もないか。


 敬語が使えているだけでも、すごいもんだよな。


「とにかくぼでぃーがーどなんです」


「それ、なにをするの?」


「うーん、よくわかりません」


「そうなの? なら、あそぼうか?」


「いいですよ!」


 さて、何で遊ぼうかな?



「ひーちゃん、リンリちゃん、おやつを持って来たわ」


 何で遊ぶか考えていると、母さんがやって来た。


 そして、母さんがクッキーを載せた皿と、オレンジジュースの入ったグラスをふたつずつテーブルの上に置いた。


「ありがとうございます。いただきます」


 リンリちゃんが母さんに礼を言った。


 礼儀正しいな。


「それじゃあ、ごゆっくり」


 母さんが去って行った。



 せっかくだし、食べるか。


「リンリちゃん、おやつたべよう」


「はい、そうしましょう」


 モザイクなのに、食事をするのか?


 どうやって食べるんだ?


 そう思っていると、モザイクのおやつと向き合っている面から、一本の細長いモザイクが伸びて来た。


 そのモザイクが皿とグラスを包み込んだ。


 あ、あれは何をやっているんだ!?


 なんかボリボリとか、ズズズッという感じの音が聞こえてくる。


 もしかして、あれはおやつを食べているのか!?


 皿とグラスごと捕食している!?


 怖っ!?


 ん?

 モザイクが引っ込んだぞ。


 皿とグラスが空になっている。


「ごちそうさまでした」


 もう食べ終えたのか。


 早食いなんだな。


 皿やグラスには変な液体とかは付いてないな。


 キレイな状態だ。


 おっと、俺もおやつを食べてしまおうか。


 俺は素早くおやつを食べた。



 さて、何で遊ぼうか?


 ゲームでもするか。


「リンリちゃん、ゲームする?」


「いいですよ!」


「はい、リンリちゃん」


 俺はリンリちゃんにゲーム機のコントローラーを差し出した。


 すると、モザイクの両側面から細長いモザイクが一本ずつ出て来て、コントローラーを受け取った。


 あれは手なのだろうか!?


 その後、リンリちゃんと楽しく遊んだ。



 夕方になり、リンリちゃんたちは帰って行った。


 とても良い子だったなぁ。


 性格は素直で優しいし、礼儀正しいし。


 ただ、種族の違いというものを、まざまざと見せつけてくれたなぁ。


 あれは見事なホラーだったな、うん。


 種族の壁というものを、思いっ切り感じたぞ。


 俺はこの世界でやっていけるのだろうか?



 と思っていたが、意外とどうにかなった。


 凛理りんりは聡明で好感の持てる素晴らしい女性だし、邦総ほうそう家は大金持ちで生活には困らなかった。


 ボディーガードもそれなりの人数を付けてもらえたので、犯罪被害に遭うこともなかった。


 人間とは明らかに違うところも、見慣れたら気にならなくなった。


 案ずるより産むがやすしだな。


 なので、俺は凛理と結婚することにした。



 報告を受けた凛理の母親は、狂喜乱舞していた。


 今の結婚の価値はすさまじく高く、いろいろと優遇されるからな。



 子供は生まれるのか?


 という懸念もあったが、なんの問題もなく産まれた。


 ある日の夜、俺は全身を凛理のモザイクで包まれた。


 その一か月後くらいに、凛理の妊娠が発覚した。


 あれが生殖活動だったのか。


 生命の神秘だなぁ。


 その日から九か月後くらいに凛理は出産した。


 見た目の変化がまったくなかったのに、突然陣痛がきて病院に運ばれて行ったので驚いた。


 産まれたのは人間の男の子だった。


 みんな大喜びだった。



 その後、人間の男の子がもうひとりに、モザイクの女の子がふたり産まれた。


 俺は専業主夫になり、子育てと家事に奮闘する幸せな人生を送った。



 めでたしめでたし。

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(主に姿が)ミステリアスな婚約者候補!? 三国洋田 @mikuni_youta

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