第13話 語り

「いやいや、まさか…。」

 信じられないことを心愛は言う。なのに、なぜか僕は落ち着いていた。胸に手を当てる。本来なら聞こえるはずの鼓動が手に伝わってこない。

「類、もしかして本当に類は死んじゃったのかな?」

 彼女は冗談を言うかのように気楽に、そう言う。瞳からは涙がポロポロと溢れていると言うのに…。さっきまでの笑顔はもう、消え失せていた。

「私、やっぱり犯罪者なんだ。幸せになんかなれないんだ。」

「心愛…?何を言っているんだ?」

「類、病院に行こう。」

 グイと僕の手を心愛は掴む。彼女の手の温もりだけが、僕に伝わってくる気がした。

「やっぱり、類の手は冷たいなぁ。…えへへ。」

 家から出ると、外は風が吹いていて冷たかった。心愛は僕から目を逸らすようにただ真っ直ぐに歩き続ける。

「心愛、もしかして何か知ってるのか?」

「うん、知ってるよ。」

「⁉︎」

 あまりにもあっけらかんと言うから、僕は驚いてしまった。心愛は虚な目をしていて、どこか遠くを見ているようだ。そんな顔を見たことがない僕は不安になる。

「本当は知りたくなかった。でも、これは私の罪だから。」

「ええと…、心愛が何を言ってるのかわからないんだが。」

 今僕の心臓の音がしないように、意味がわからないことが沢山あって。言ってくれなきゃ、わからなくて。長年一緒にいる心愛のことだから、わかってあげたいのに僕じゃわからない。僕はそれがもどかしかった。

「類、随分固くなったよね。ぎゅーってしたからわかるよ。」

「…それ今関係なくないか?なんか恥ずいし。」

 心愛はまた、答えてくれない。そんな、今は関係ないような戯言を言い合いながら僕たちはテクテクと歩いていく。

 風が吹き、心愛は少し身震いした。僕は羽織っていたカーディガンを心愛の肩にかけると、心愛は少し意外そうな顔をした。

「類、昔はそんなカッコいいことしなかったのに…。」

「…だから僕はカッコいい大人になったんだよ。」

 昔、か。心愛は僕と再会してから、よく昔の僕と今の僕を比較している気がした。僕たちの間には厚い壁があるみたいで、この今吹いている風は隙間風なのかもしれない、と思わされる。

 そんなふうに考え事をしていると、不意に心愛が僕の体をペタペタと触った。

「類ったら、まるで鉄みたいに固くなっちゃってさあ。」

「そ、そんなに?筋トレそこまでしたっけ…?」

 記憶を掘り返す。しかし何故だかわからないが、断片的な記憶はあるのに心愛から電話がくる前のことが全く思い出せない。あれ、僕は一昨日の夕飯に何を食べたっけ?

「だって類、死んでるし。」

「あ、殺すなよ。なんか心臓は動いてないけどさ…。」

 まあ、今のご時世心臓が止まっちゃうこともあるのだろう。…聞いたことないけど。

 

「私、Mr.Xの正体わかった。」

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