第12話 プロポーズ

「そんなの…」

 心愛が話し終えると、思わず僕はそう呟いた。

「そう、私には前科があるんだって。」

 重い雰囲気で心愛は言う。しかし…。

「いや今そんなのどうだっていいから!」

 僕は今前科とかそれどころじゃない。僕は思わず心愛の声を遮ってしまった。

「いや、類…?…前科って犯罪に手を染めたってことだけど理解してる⁉︎」

「してるよ!!」

「じゃあなおのことタチが悪いよ!え、今結構なカミングアウトしたつもりなんだけど?」

 あまりの僕の剣幕にあわあわとしながらも、心愛は少し期待をした表情を浮かべる。その顔を笑顔にしたくて、僕は話を続ける。

「僕のお父さんなんて人殺しだし今更というか…。」

「…あ、なんかごめん。」

 ハッとしたように心愛は項垂れる。可愛い。

「てか、そもそも心愛は心愛だし。どっちでもいいよ。」

「ど、どっちでも…。」

 心愛は拍子抜けしたように苦笑いする。きっと僕は突拍子もなくって、倫理に反したことを言っているのだろう。それでも良かったんだ。ただ、僕はこの事実を知って、心愛に言わなくてはいけないことがあるんだ。

「そんなことより、心愛。僕と結婚しよう。」

「は?」

「心愛、結婚しよう。な?いいだろ?」

「いや、圧がすごい。」

 だって、心愛が今好きな人は僕で、僕が好きな人は心愛で。やばい、両思いじゃん。心が春のようにポカポカとしてくる。冬にだって、春は来るんだ。

「婚姻届って最近ネットで出せるんだ。ほら、サインして。」

 パソコンを開いてカタカタとキーボードを打って、心愛に手続の画面を表示する。ネット社会、万歳。

「いや、今類に戸籍ないから。君死んでることになってるから。」

 なのに、思わぬところで邪魔が入った。

「…くそ、親父許さねえ。」

「え、本気でショックそうにしないでよ。」

 唇を噛む僕を見て、心愛はおかしくなったのか笑い出した。笑っている心愛が一番可愛くって、僕は好きなんだ。

「類、私がなんの犯罪起こしたのかも知らないのに結婚なんて…。馬鹿なの?」

「…心愛と結婚するためなら馬鹿だって罵られたっていいよ。」

「類…。」

 心愛はどうするべきか判断しかねているようだった。暫く考えた後、指輪を外すと、僕に差し出す。

「はめてみてよ、王子様?」

 彼女は目を細めるほどに、くしゃりとした笑顔を僕に向ける。それが、心愛の答えだった。

「…わかったよ。」

 指輪はピッタリと彼女の指にはまる。そしてまたニコッと笑うと心愛は僕の胸に飛び込んできた。

「大好きだよ。ずっと一緒にいて。」

 心愛はそう言う。その言葉を、きっと僕は二年前に聞きたかったんだ。

「…僕もだ。一緒に生きていこう。」

 しばらくそのまま抱きしめ合っていた。それが、あの日のプロポーズの答えだったんだ。心愛は最初から僕に答えを教えてくれていた。最初に出会った時、ドアを開けて二年ぶりに再会した僕を抱きしめてくれた時から。

「ねえ、類。」

 ふと、心愛が僕の声を呼ぶ。心なしか、その声は震えていた。

 幸せを絵に描いたような今の状況には似つかない声でこう言うのだ。


「類の胸から心臓の鼓動が聞こえないの。」

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