バーゲンセール

「どわああああ」

陸海は悲鳴をあげながら、体操の選手のように華麗な3連続バク宙をして浅井のもとへと戻ると、前を指さして言った。

「で、出やがった!変異者だ!バケモンだ!」

「バケモン…?」

狼男は他人事のように首を後ろに向けた。

「オメーのことだよバカ!」

彼の言葉に腹を立てたのか、狼男は牙をむき出しにして獰猛な唸り声を上げた。

「…誰がバケモンだとォ~!食い殺す!」

狼男は頭を下げると、2人の方へと四足歩行で突っ込んで来た。その様子は誰が見ても立派な化け物である。

すかさず陸海は変身して応戦しようとしたが、隣にいる浅井亜那の事を思い出して、ギリギリで踏みとどまった。

しまった、変身したらこの女に変異者だってことがバレちまう!クソ、どっか行けよコイツ。

すると突然、浅井が一歩彼の前に出た。その顔に焦りの色は無い。

「お、おい…!」

「ちょっと下がってて」

そう言うと彼女は指で輪を作り、前方に向けた。次の瞬間、飛び掛かって来た狼男の顔に、向こう側が見える位の大きさの穴が開いた。

狼男は浅井の足元に倒れると、ピクリとも動かなくなった。

目を白黒させている陸海に、浅井は振り返ると、笑顔で言った。

「…これで安心」

コ…コイツもかァ~~!

陸海は心の中でそう呟いた。



それから数分後…。

「ここ、あたしの家」

浅井はグレーの二階建て家屋の前に立ち止まると、出し抜けに言った。

「ふーん、じゃあさっきはどうも…」

「…よかったら上がる?」

「…ナヌ?」

陸海は耳を疑った。

「今日は親の帰りが遅いんだ。それに…ホラ、さっきのことについて詳しく話したいしさ。ダメ?」

脈ありか?まさかの脈ありかこれ?まったく節操のないビッチだぜ、この俺まで喰う気かよ?いや待て、この前は調子乗って痛い目にあったからな。下手な期待は禁物だ。

「…いいけど上がった途端に豹変して襲って来たりしないよね?」

「あたしそこまで肉食系女子じゃないっつーの」

「…なら、いーけどよ」

陸海は安心したような、落胆したような、複雑な気分になった。



それから陸海は二階にある浅井の自室に案内された。室内はコーディネートが行き届いており、雑然とした様子の彼の部屋とは対照的だった。

…いや~女の部屋に入るなんざ、いつ以来だっけ?あ、初めてだったわ。

「つーか今更だけど、俺なんか家に上げちゃっていい訳ェ?彼氏に知られたら怒られるぜ?」

浅井はキョトンとした顔をした。

「彼氏?ああ、もしかして君野のことォ?ただの友達だって」

「あ、そーなの?」

「まあ、一回キスしたけど」

いや、したんかい。

「しかもディープ」

しかもディープかい、つーかわざわざそこまで言わなくていいから。

「それで…さっきの話だけどさ」

浅井はブレザーを脱いでベッドに腰掛けると、淡々と話し始めた。

「もう分かってると思うけど、あたし変異者なの。あんな感じで、なんにでも穴を開けられるんだ。ついこの間、あるキッカケでこの力に目覚めたんだよ。あ、誰にも言わないでね」

「言わねーよ、助けてくれたしな」

まぁ、俺だけでどーにか出来たけどよ。しっかし、まるで変異者のバーゲンセールだな。それはさておき、やっぱこいつスタイルいいよな…。ヤベ、欲情してきた。

陸海が悶々としていると、不意に浅井が言った。

「じゃ…そろそろやる?」

「…セッ!?」








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