第四章 へんないきもの

カツアゲ

あれから数日が経過した。陸海は良く言えば平和な、悪く言えば退屈な日常を取り戻していた。しかし、字見花が彼に残したトラウマは相当に強烈だったようで…?

「サッちゃんよぉ、俺はこの前の一件で女性恐怖症になりそうだぜ…。そこら辺でタイプの女を見かけても、アイツの顔が頭をもたげるようになっちまった…!」

学校の帰り道、陸海は神妙な面持ちで、横を歩く薄井幸に重々しくそう告げた。薄井は興味なさげに言った。

「…お前、私が一応女なの忘れてるだろ」

彼女の言葉に、陸海は呆けた顔をした。

「あ~…そういやそうだったな、すっかり忘れてたわ。ハハ」

「………」

薄井は冷たい目でじろりと陸海を一瞥した。その無言の圧力に、彼はたじたじとなった。

「…そ、そうカッカすんなよ。あれ?」

陸海は視線の先にあるものを発見し、立ち止まった。電信柱の近くで、他校の制服を着たガラの悪い2人組が、1人の少年を壁際に追い詰めていた。

陸海は彼に見覚えがあった。確か別のクラスの生徒だったか、線の細い、弱々しい印象の目鼻立ちの整った中性的な少年だった。

どこからどう見ても穏やかな雰囲気には見えなかった。カツアゲというやつだろうか?そう思っていると、一瞬だが陸海は彼と眼が合った気がした。

あっちゃー、眼が合っちゃったよ。しかもメッチャ助けて欲しそうな眼してんじゃん、これ無視したら後味悪いヤツだよな~。

陸海は薄井と顔を合わせると、かったるそうに呟いた。

「…あれどうするよ、一応助けとく?」

「…好きにしろ、ただし加減はしとけよ」

陸海は3人の方へ挙動不審な動きで近づいて行くと、2人組にボソッと声をかけた。

「もすもすー、ちょっとさぁ…おたくら、そういうのダサいんじゃないの?」

「あ゛?何だこのバカ」

「テメーもカツアゲされてーか、オォン?」

2人組は彼にガンを飛ばしながら、詰め寄った。

「…やめとけって、俺そこそこ強いからよ」

陸海の人を食ったような態度が癪に触ったのか、2人の内、金髪の方が彼に殴り掛かった。

「ケッ!笑わせんじゃねえ、テメーみてーなシャバ憎なんざ2秒でノックアウトしてやらあ!」

「うおお!やっちまえリュージ!」



…1秒後、リュージの体は宙を飛んでいた。

「げろばああああ」

「リュ、リュージィ!?な、なんて強ェ野郎だ…!」

黒髪の男は背を向けると、脇目も振らずに脱兎のごとく逃げ出した。陸海は去り行く男の背中に声をかけた。

「おーい、コイツ忘れてますよ~」

「知らん!テメーにくれてやる!」

そのまま黒髪は姿を消した。なんとも薄情な男である。

「あ…ありがとうございます…」

少年は陸海に頭を下げながら、感謝を述べた。

「ああ…いいって、俺はああいう調子乗った奴をいじめるのが好きなだけ…痛テッ!」

得意そうに話していると、急に背後から薄井に頭部を小突かれた。水を差された陸海は怪訝な表情で振り返った。

「な…何すんだサッちゃん、決め台詞最後まで言わせろ!」

「加減しろと言っただろ、人間離れした動きしやがって」

「あれでもしたんだよ、うっせぇな…」

陸海は鼻を砕かれてのびているリュージとかいう男の側でしゃがみ込むと、何を思ったか、彼の制服をまさぐり始めた。薄井と少年は不思議そうにその様子を伺った。

「…何やってんだ、お前」

「いや、ちょっとついでにコイツの金を頂戴しようかと…。おっ、財布発見…ゲッ!何だコイツ、300円しか持ってねぇ…!」

「………」





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