あの娘俺がダンクシュート決めたらどんな顔するだろう

爽やかな晴天の空の下、学生服を着た二人の少女が、品の無い笑い声を上げながら町を歩いていた。二人の内、肉付きのいい顔をした方が携帯を片手に言った。

「つーか聞いたー?昨日ウチらの学校の生徒が変異者に殺されたっぽいよー」

前歯の主張が激しい方の女子が答える。

「まぁねー、3組の奴等っしょ?まだ駆除されてないらしいじゃん、殺した奴」

「案外、すぐ近くにいるんじゃねェ?まぁ、どーでもいいけど」

対岸の火事とばかりに、肉付きのいい方が冷めた口調で言った。

「やだ、キモい」

「ぎゃはははは」

……いるんだよなぁ、すぐ後ろに。

陸海空は女子達の後ろを、持ち前の存在感の無さを存分に発揮しながら歩いていた。激動の1日を終え、またいつもの平和で退屈な日常へと逆戻りである。まだ彼は、昨夜の出来事は夢か何かだったのではないか、と頭の片隅で思っていた。

やがて校門が見えてきた。それを潜り、校舎の玄関へと向かうと、靴を履き替えている最中の薄井幸と鉢合わせした。陸海は咳払いすると、彼女に話しかけた。

「…よう、サッちゃんでねーの」

「その気色悪い呼び方はやめろ」

薄井は澄まし顔で呟くと、陸海の方を向き直って言った。

「いいか?一応忠告しといてやるが、昨日も言ったように、お前の身体能力は人間の時より、ずっと上昇している。それを誰にも感づかれるな、何かの拍子に人間じゃないのがバレる可能性があるからだ。変異者といえど所詮は生物だ、バレた時は未来は無いと思え。もし万が一、お前が追い詰められた時は…」

薄井は一拍置いて、続けた。

「私はお前を見捨てる」

「あら、酷い」

薄井は踵を返すと、足早に立ち去った。陸海はそれを見送りながらポツリと独り言ちた。

「なんだアイツ…?昨日、ジュース代立て替えさせられたの怒ってんのかな?」


陸海が教室に入ると、ほどなくしてホームルームが始まった。昨夜起きた凄惨な事件については、驚く程あっさりした説明で流された。

机を並べた仲である3人のクラスメイトの死に、生徒達は皆、涙一つ見せなかった。それは決して、気丈に振る舞ってるとかそういう訳ではなく、ひとえに無関心ゆえだろう。

それからしばらくして、大の運動オンチである陸海にとってもっとも憂鬱な時間である、4時限目、体育の授業が始まった。

今日の種目は男子はバスケ、女子はバドミントンだった。陸海は欠伸を噛み殺しながら、バスケットコートの中を手持ち無沙汰そうにうろついていた。

「陸海!パス!」

ゴールの近くで呆けていると、突然ボールが投げ渡された。

「えっマジぃ~!?」

残り時間は僅か、決めれば逆転のチャンス、試合の明暗は彼にかかっていた。

「クソ~ッ!ままよ!」

陸海は投げやりにそう言うと、両足に力を込め、勢いよくジャンプした。するとなんということでしょう、彼はバスケットゴールよりも高く飛び上がってしまった。

生徒達は一様に上を見上げながら、間抜けな表情を浮かべて呆然としていた。

そのまま陸海はゴールリングへと、前人未到のダンクシュートを決めた。

「陸海お前…飛び過ぎじゃね…?」

陸海の背後で、1人の男子生徒が引き気味に言った。陸海は薄井の忠告を思い出し、青くなりながら振り返ると、へらへらと軽薄に笑いながら言った。

「い、いや~ちょっと張り切り過ぎちまったかな?ハハ、ハハハ…」

クソッ、化け物でも見るような眼で見やがって…まぁ、実際そうなんだけど。


試合は陸海の活躍により、彼のチームが逆転勝ちを収めた。教室に戻ると、数人の女子が陸海のもとへ駆け寄って来た。

「すげーじゃん、陸海ぃ~」

「かっこよかったよ~陸海」

「意外と運動神経良いんだね、陸海君」

これまで経験したことのないモテっぷりに、陸海は舞い上がった様子で、赤面しながらニヤニヤと口元を緩ませた。

「そうでもない…事もないかなぁ~。ウン」

変異者もまんざらでもない…かもな、こりゃ。ん?何か視線感じるな…。

教室の隅の方に目をやると、薄井が椅子に腰かけながら、こちらへ冷たい視線を向けていた。陸海は思わず、また咳払いした。


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