第15話 「好き」

 「好き」


 天音ちゃんの急な言葉に、心臓が跳ね上がるように鼓動が鳴る。


 す、すす、好きって……好き!?

 突然の事で、俺はもう何も考えれれない。


 今までずっとぼっち人生だった俺が、女の子からの告白なんて。


 しかも相手はあの・・天音ちゃん。

 セミロングの黒髪ストレートに、天使のように可愛い顔を持ったクラスの人気者、あの天音ちゃん。


 だけど、一つ気になることは。


「ふふっ」


 天音ちゃんが、俺だけに見せる小悪魔な表情なこと。

 この顔の時は大抵、天音ちゃんが俺をからかっている時の顔だ。


「そ、それって……!」

「んー?」


 本心なのか、からかっているだけなのか、確かめたい。

 聞け、聞くんだ!

 ここで聞かなくてどうするんだ俺……!


「天音ちゃんの本心なの!?」

「……さあ?」

「うぐっ」


 それでも天音ちゃんは表情を変えない。


「でも、一つ言いたいことはあるかな」

「え?」


 正面の少し先にいた天音ちゃんはゆっくりと隣まで歩いて来る。

 そうして、俺の耳元でそっとささやく。


「鈍いんだから」


 その時点で、俺の心臓は限界だった。

 この後は一緒に帰ったらしいけど、天音ちゃんの言葉が頭をぐるぐるしていて、何も覚えていなかった。

 






<天音視点>


「……はぁ」


 胸がドキドキして苦しい。

 

「どうしてあんなこと言っちゃったんだろ……」


 「好き」。

 わたしの口は、自分でも分からないままにそう動いていた。


 正直、自分でもよく分からない感情だ。

 なにしろわたしは、恋をしたことがない・・・・・・・・・


「……」


 テスト期間、テスト本番の期間も合わせると約二週間。

 わたしは奏斗君の勉強をずっと隣で見てきた。


 三十番以内というのは、からかいだ。

 その条件を提示した後に前回は百六十番だったことを聞いて、我ながら鬼だな~って思った。


 けれどその後の奏斗君、すっごく頑張ってた。

 わたしが言い出したことだし、最初は責任を持つつもりで勉強を見ていた。

 

「でも……」


 テストが迫ってくるにつれて。

 わたしはいつの間にか、頑張る奏斗君を誰よりも・・・・近くで見たくて勉強を教えていたんだ。

 その気持ちに気づいたのは何日目だっただろうか。


 そんな気持ちが抑えられなくて、テスト初日は奏斗君を連れて、つい二人で教室を出て行ってしまった。

 クラスの子達と会話をしているより、早く奏斗君の頑張る姿を見たかった。


 そしてさっき。

 自分でも感情が分からないまま言葉にしてしまった「好き」。


「~~~!」


 ベッドで足をバタバタさせながら、枕に顔をうずめる。

 今思い出したら、すっごく恥ずかしい!


 それが本当の気持ちかも分からない・・・・・のに、口に出してしまうなんて!


「誤魔化せていたかなあ……」


 自分で言うのもだけど、わたしの本性は小悪魔。

 だから多分、「好き」って言ってしまった時は小悪魔な表情になっていたことだろう。


 「鈍いんだから」。

 そう言ったのも、なんとか思わせぶりを演じられないか、というわたしなりの誤魔化し方だ。


 それで、いつものからかいだって思ってくれれば良いんだけど……。


「まあ……大丈夫か」


 帰り道の奏斗君は放心状態だったし。

 そのおかげで、わたしが実は動揺しているのもバレていなかったと思う。


「もう、そう思うことにしよう」


 これ以上は追及のしようがない。

 恥ずかしいけど、言った事を激しく後悔しているわけではない。

 さっさと切り替えよう。


 そう考えると、自然に体は起き上がる。

 そうしていつものように、勉強机に体は向く。


「!」


 けど、机の上にあった携帯に通知が来ていることに気づく。


 誰だろう。

 少しウキウキしながら覗いてみる。


『今日の報告をしなさい』


 ……はあ。なんだ、お母さんか。

 今日の報告、今日がテスト最終日だって知ってるからだろう。


 わたしはため息をつきながら、そっけなくメッセージを返した。

 

 わたしのいやしはどこかにないものか。

 そう思った時、


『テストお疲れ様! 自信はどう? 今回も一番取れそう?』


 相手は今度こそ・・・・わたしが求めていた人だった。


「……」


 何を思ったのか、わたしはメッセージを返さず「通話」を押す。

 彼はすぐに出てくれた。


「あ、天音ちゃん!? どうしたの急に!」

「ふふっ、別になんでもいいじゃん」


 今日、自分でも分からないままに言葉にしてしまった「好き」。

 案外本心だったのかもなー、とふと思った。


「それより自分の心配をしなよ。黒歴史公開の危機なんだよ?」

「それは、そうなんけど……うぅ」


 要するに、わたしは好きなんだろうなあ、奏斗君の事。





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