第12話 あま~い天音ちゃん?

 土曜日の朝。

 待ち合わせていた図書館の前で天音あまねちゃんを待つ。


 そんな中、


「……」


 なんだかさっきから、ドキドキが止まらない。

 今日はただ一緒に勉強をするだけ。

 それなのに、どうしてこんなに胸の鼓動が激しいのだろう。


 お家デートに水族館デートもした。

 一緒に勉強するのだって、最近では毎日の事だ。


 それなのにどうして?


「……天音ちゃん」


 原因は半分、分かっているけど。


 思い出すのは「土日、一緒に勉強する?」と誘ってくれた時の彼女。

 目から上しか見えていなかったけど、あの時の耳の真っ赤さや可愛い声が自分の中で繰り返し再生されて、胸の鼓動を大きくする。


 今まで幾度となくドキドキすることはあったけど、その時の彼女の挙動が一番心に残っているんだ。


「ぷぷっ」


「!? うわあっ!」


 そんな考え事をしていると、顔のすぐ近くで笑いを堪える声が聞こえてきて思わずびっくりしてしまう。


「あ、天音ちゃん! いたなら言ってよ!」


「だって君が面白かったから。……天音ちゃん、とか言っちゃって」


「聞いてたの!?」


「わたしもびっくりしちゃったよー。後ろから驚かそうとゆっくり近づいてたら、急にわたしの名前を呼ぶんだもん」


「そんなあ……」


 朝から、天音ちゃんは天音ちゃんだった。


「それで? どうしてわたしの名前を呼んだのかな?」


「え、えっと……」


「んー?」


「……!」


 天音ちゃんのいたずらっぽい顔、今日も健在だ。

 なんなら、いつもより顔の距離が近い!


「あら、目を逸らした。君には今の距離が限界だったかな」


「うぅ……」


 あのまま近づかれたら、もうキスしちゃうよ!


「ふふっ、可愛いんだから。じゃあ行きましょっか。君が勉強する時間がなくなっちゃうからね」


「わかったよ……」


 朝から大変な目に合ったのだった。





 朝からドキドキさせられつつ、図書館内。

 二階のスペースは話しても良い場所なので、そこで二人で勉強をしていた。


「お~。正解だよ、奏斗かなと君」


「やった!」


 教科の中でも特に苦手な数学。

 天音ちゃんが帰ってからも勉強している成果か、最近はかなり正解できるようになってきていた。


「へえ、あんなに苦手だった数学がねえ」


「すごいでしょ。もっと褒めても良いよ!」


 嬉しくなって調子に乗っていたのか、そんなことを口走る。


「……そうだね。えらい、えらい」


「!?」


 そうして天音ちゃんがしてきたのは、頭をそっと添えるような“なでなで”。


「あ、天音ちゃん!?」


「あら、褒めて欲しかったんじゃないの?」


「それは、そうだけど!」


 ここは図書館内だ。

 周りには誰もいないとはいえ、見つかったら相当に恥ずかしい。


「別にいいじゃない。もし見られても、カップルに思われるだけだよ」


「カップ──!?」


 前の水族館の時といい、天音ちゃんはカップルに対して何か思うところはないの!?

 女の子だし、そういうのは気にすると思うんだけど……。


「ほらほら、続きをしないと」


「う、うん……」

 

 なんだか今日の天音ちゃんは違う?

 朝からいたずらはしてきたけど、どこか甘い要素が多いというか……。

 うーん、やっぱり気のせいかな?


 そんな思いは持ちつつ、この日は夕方まで勉強をして過ごした。







 日曜日。


「う~ん!」


「今日もお疲れ様、奏斗君」 


「天音ちゃんも!」


 今日も同じく、図書館にて一日二人で勉強をして過ごした。


「感触はどうかな?」


「自信ありだよ!」


「わーお。それは頼もしいね」


 この一週間、そしてこの土日。

 隣にずっと天音ちゃんがいてくれたこともあって、今までで一番ぐらいじゃないかってほどに勉強をした。


 時にはちょっかいをかけてきていた天音ちゃんも、この土日の勉強中は集中していて、二人で良い時間を過ごせたと思う。


「奏斗君、土日本当に頑張ってたよね」


「天音ちゃんのおかげだよ」


「そうかなあ。君の努力だと思うけど」


 いつもは俺だけに見せていた小悪魔な天音ちゃん。

 それが少なくて実は残念だったりもしたけど、勉強に集中できたのはとても良かった。


「わたしもね、楽しみにしてるんだ」


「俺の成績?」


「まあそれもあるけど……」


 あごに人差し指を当てて、少し見上げた天音ちゃん。

 そうして、なんだか久しぶりに見た表情。

 ニヤリとした小悪魔な顔を見せた。


「君の小説をバラまくのをね」


「ええっ!?」


 全く忘れていたわけではないけど、勉強に集中してどこか頭の隅にやっていたその条件。

 テスト初日の前日になって再び言い出してくるところが、また天音ちゃんっぽい。


「今の出来だと、三十番以内は厳しいかな……」


「さあ? わたし、一番しか取ったことないから」


「うぅ。一度は言ってみたいよ、そのセリフ」


 けれど、少し落ち込む俺に天音ちゃんは意外な事を言ってくれた。


「頑張ってね」


「え?」


「君の努力、ちゃんと見てたから」


「!」


 そう言いながら伸びてきた天音ちゃんの手は、俺の頭をそっと撫でる。

 昨日ぶりのなでなでだ。


 この二日間、たまに小悪魔があったとはいえ、全体的に見ればすっごく甘かった天音ちゃん。

 何かあったのかな? とは思いつつ、明日からのテストに気を向ける。


「頑張ろうね、奏斗君」


「うん! 天音ちゃん!」


 明日からはいよいよ、中間テストだ。





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~再度お知らせ~

明日(1/16)以降も、本日と同じ19:09に更新していきます。

今後ともよろしくお願い致します!

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