第4話 いきなりのお家デート!?

 「あの、姫野ひめのさ──」


「違う」


「あ、天音あまねちゃん!」


「はい。なにかな?」


 天音ちゃん呼びにはまだ若干慣れないが、周りの状況を見渡して、今一度天音ちゃんに聞いてみる。


 俺たちがどう見ても変な行動をしているからだ。


「どうして雨も降ってないのに相合傘してるの?」


「だって君が書いてたんじゃない。『雨の中二人は相合傘で帰った。それは雨が止んだ後も』って」


「は、恥ずかしいから読み上げないで。というか、今日は最初から雨降ってないよ」


「いいじゃん、細かい事は気にしないでさっ」


「いいのかなぁ」


 変な行動で注目を集めそうだけど、反対に傘のおかげで顔が見られにくいってのはたしかにある。

 こんなにも可愛くて目立つ天音ちゃんの隣を冴えない男が歩く、それがバレにくいならまあ良い……のかな。


「それより、どこに向かってるの?」


「え、君の家だけど」


「ええっ!? どうして!?」


「どうしてって、さっきから言ってるじゃん。君の小説に書いてあるからだよ。もしかして自分の書いたの覚えてないの?」


「覚えてるけど……」


 本当に天音ちゃんが来るとは思わないじゃないか。

 それに俺の書いてた小説だと家でラッキースケベがあって……いや、今はそれは考えないでおこう。


「だから少し後ろを歩いてたんだ」


「そっ。君に付いて行くためにね」


 うちは両親も共働きだし、夕方まで帰ってこない。

 空いていると言えば、空いているのだ。


「一応聞くけど、自分ちに帰る気はないんだよね?」


「ぜーんぜんないっ!」


「わかったよ……」


 まあこの調子なので、家に上がってもらうしかないだろう。





 そんなこんながあり、俺の家。


「お~、良い部屋だね」


「本当に思ってる?」


「思ってる思ってる!」


 とうとう連れて来てしまった。

 あのクラスの天使、天音ちゃんを俺の部屋に。


 エッチな本や小説は……大丈夫だ、最近隠したはず。


「よいしょっと」

 

 俺の部屋をめながら、天音ちゃんは床に体育座りをする。

 足を少し上げた瞬間に、


「……」


「もう、えっちだなあ」


「……! い、いや見えてない!」


 パンツはギリギリ見えなかった。


「ま、君がえっちなのは知ってるけどね」


「あ、天音ちゃんっ!」


 教室では清楚せいその代名詞であるあの天音ちゃんが、そういう単語を口にするとかなり調子が狂う。

 屋上から帰ってくるまでで多少慣れたとはいえ、俺にはまだ信じられない彼女の裏の顔なのだ。


「で、なにする?」


「そ、そうだなー」


 両手を前に着いてこちらに身を乗り出してくる天音ちゃん。

 今度はかかんだ姿勢から繰り出されるお胸が危ない。


 下から上から、お家デートは色々危険だ……。


「ほらほら、何でもよいから言ってみなよ」


「そんなこと言われても……じゃ、じゃあ勉強でもする?」


 って、おいー!

 自分で言った後に、自分が腹立たしく思える。

 他にも色々とあるだろ。


「……。まあ、いっか」


「?」


 あれ、今一瞬、天音ちゃんの顔が暗くなったような。


 それに「いっか」の時の表情は、彼女が教室でよく見せる笑顔の表情だ。

 その表情は、普段見慣れている天使の笑顔のはずなのに、今はなぜか違和感を感じてしまった。


「ほら、しないの? とりあえず今日の宿題、終わらせちゃおっか」


「へ? あ、うん」


 いや、俺の気のせいだったのだろうか……?

 うん、きっとそうだ。





 時々軽く話しつつ、床に置かれた木机で向かい合って宿題をする。

 とは言いつつ、進んでいるのは天音ちゃんの方だけだ。 


 なぜなら、


「……」


 俺は、近くにあるその可愛い顔につい目移りして、正直宿題どころではない。


 勉強中の天音ちゃんは、よく横の髪を耳の後ろにやり、普段は隠れている耳をあらわにする。

 教室でも萌えポイントとして日々眺めているそのご尊顔を、こんな至近距離で見られるなんて。


 真正面から眺める貴重な天音ちゃんに、たまにふんわりとした女の子の良い匂い。

 日々天音ちゃんを妄想している俺が、こんな状況で集中して宿題をできるはずもなかった。


 だが、それもいずれバレる。

 

「宿題、ちゃんとやってる?」


「え! や、やってるよ!」


 天音ちゃんがふと顔を上げて、こちらを上目遣いで覗いてきた。


「ほんとかなあ。君、全然書いてないけど」


「いやー、これはちょっと問題に悩んでて……」


「ふーん」


 そう言うと天音ちゃんは、机を回って俺の隣に寄ってくる。

 つやつやの髪の匂いがふんわりと伝わって来て、俺の鼻をくすぐる。


「勉強は苦手なんだね。文章は書けるのに」


「ま、まあ小説はただ妄想してるだけって言うか……」


「それでもすごいと思うけどなあ」


「それはどうも」


「で、ここが分からないの?」


 じとっとした横目で天音ちゃんに尋ねられて、思考を巡らす。

 これは教えてもらうチャンスなのでは!


「わ、分かりません! ぜひ俺に教えてください!」


「うーん、どうしよっかなあ」


「ええ?」


 てっきり教えてくれる流れかと思ったけど、天音ちゃんは焦らしてくる。

 が、その数秒後にぴーんときたのか、彼女は今日よく見せる小悪魔ないたずらっぽい顔でニヤリとして言ってきた。


「君に勉強を教えたら、何かご褒美くれる?」


「ご、ご褒美かあ……アイスとか?」


「うーん、却下。物じゃない何かで」


「ええー?」


 物じゃない何かだと!?

 そんな難しいこと急に言われても……。


「ほらー、はやくー」


「えっとー」


 一つ、思い付いた。

 けど正直、天音ちゃんのご褒美かと言われるとそうではない。


 いや、思い切って言ってみるか!

 言うだけならタダだ!


「デ」


「で?」


「デートとか、どう……?」


「!」


 今までは小悪魔気味だった天音ちゃんが一瞬目を見開く。

 だけどそれもほんの一瞬。


 すぐに小悪魔ないたずらっぽい顔に戻り、


「良いよ。そんなにしたかったんだ、デート」


「……え、えええ!? 良いの!?」


 ニヤついて答えてくれた。

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