脚本無き戦い


 Side 楠木 達也


『確かに緊急事態だけど、何の戦闘訓練も受けていない高校生が・・・・・・二人はまぁ事故だったから大目に見るけど貴方達二人はどう言うつもりなの?』


『達也君をこの手で守りたいから』


『私は二人(薫、芳香)が大切だから。それに守れる力があるのなら守りたいと思ったから・・・・・・』


『はぁ・・・・・・上にはどう報告をすればいいのよ』


『愚痴はそこまで。とにかくこの基地から脱出するわよ』


『脱出って・・・・・・』


『た、戦わないんですか?』


『戦うって・・・・・・私達素人なのよ?』


『芳香の言う通り、今は生き延びる事を優先に考えた方がいい』


『僕も同じ意見・・・・・・』


 と、ここでマスクのバイザーにスーツを着た強面の男の顔が映し出される。

 達也を含めた高校生組は一瞬たじろいた。


『状況は大体把握した・・・・・・正直色々と言いたい事はあるが――避難民達と共に君達は格納庫に向ってくれ』


『あら、物分かりも話しも早いわね』


『司令? 格納庫にあるマシンを使えと?』


『そうだ。それで強行突破してくれ。後の事は我々に任せろ。頼んだぞ白墨君』


 そして通信が途絶えた。

 殆ど一方的な会話だが格納庫に脱出手段があるらしい事は分かった。


『さて、方針が決まった所でさっさと向うわよ。貴方は道案内お願い。ボウヤ達はお姉さんのお手伝いでいいわね?』


『わ、わかりました』


 軽そうな態度に反してテキパキと爆乳パープルは纏め上げていく。

 こうして達也達の脱出――そして初めての戦いは始まった。


 格納庫までのルートは勿論最短ルートを通ったがかなりの数の戦闘員がこの基地に入り込んでいるらしく、RPGのエンカウントバトルのように出会い頭の戦闘が始まる。


 だがその殆どはマリアやナオミが倒してくれて達也や薫などの学生グループの出番は殆どなかった。


 その後も幸運は続き、新手の怪人に遭遇する事もなく、広い天井と床の、学校の体育館とは比べ物にならない程に広大なスペースを誇る格納庫に辿り着いた――までは良かったがこの基地の防衛隊と戦闘員、怪人が入り乱れて激しい戦闘を行っていた。


 目的の乗り物であるカラフルなタンクと戦闘機らしき乗り物が置かれているが、この状況では悠長に乗せている暇は無いだろう。


『ちょっと!! ここでも戦闘が始まってるなんて聞いてないわよ!?』


『一体だけだけど新手の怪人までいる・・・・・・』


『どうしよう達也君?』


『どうするもこうするも、ここまで来て引き返す訳にも行かないでしょう・・・・・・』


『ボウヤの言うとおり、避難民は私に任せてチャチャッと制圧して来なさい』


『それが良さそうね――』


 そう言ってマリアがボウガンを構えた。ナオミもビームガンを構える。


『スーツの耐久性はどれぐらいですか?』


『少なくとも特撮物の戦隊並の強度は保証するわ。君達は四人一組になって私の援護をお願い!』


 そう言って駆け出す。

 確かに戦車怪人の砲弾を受けても大丈夫だったのだからスーツの耐久性は問題無いだろう。

 また、ここに来るまで感じていた事だが身体が嘘のように軽く、力が漲る感覚を味わっていた。


 これならばFPSゲームのキャラクターみたいに立ち回ればなんとか援護ぐらいは出来るかもしれない――と達也は考えた。


 最大の問題点は――彼女達とのコミュニケーションだ。オンラインゲームなどで複数人同士での対人戦をやる時などはチームワークが連携が物を言う。現実の軍隊だってハイレベルな連携でミッションを遂行する。それが例え初歩的な物であってもそれがあるなしでは大違いになる筈だ。


 チラッと三人を見やる。


 何故か桃井 薫だけは特別な感情を抱いてくれているようだが他の二人――特に神宮寺 芳香と上手く連携できるだろうかと不安になる。佐々木 麗子は接してまだ浅いが私情を持ち込むような事はしないだろうと思うし問題は無いだろうが――


(ともかくやるしかない!!)


 達也は覚悟を決めるように一旦深呼吸して・・・・・・


『行くわよ皆』


『ちょっと芳香さん!?』


(ええッ!?)


 芳香が先走った。

 慌てて麗子が後を付いていく。


『達也君? 私達も行こうか?』


『あ、ああ・・・・・・うん・・・・・・』


 ナオミの『はぁ、ボウヤに同情するわ』の言葉を耳に入れつつ達也と薫の二人も芳香達の後を追う。

 戦いはマリアを援護すると言うより、先走った芳香を救助――もとい援護するような形になった。

 

 達也は数々のFPSゲームよろしく遮蔽物を駆使して次々と戦闘員、特に芳香の死角にいる奴から撃退して行く。流石戦闘員、ガンシューティングゲームの弱い敵キャラのようにバッタバッタと倒れていく。よく小説などで人を殺した後に「オエッ」と吐き気する描写などがあるが達也は微塵もそんな気が起きなかった。


『何体いるのかな・・・・・・』


『さあ・・・・・・』


 その上怪人も複数と来た。

 セイバーVは初めての戦闘で敵の大幹部格と怪人複数体とやり合って生き延びたらしいが、同じ立場なら正直生き延びられる自信が無い。


 冗談のような話しだが目撃者も多く、動画サイトにその時の様子がアップロードされている。(それにしても戦場カメラマン並に度胸のある撮影者である)


 そのせいか一部ではセイバーVは秘密の機関が極秘裏に育て上げたエリート戦士説などが囁かれている。


 余談であるが達也はその説を「ありえるんじゃないかな?」ぐらいには信じていた。


『さて、雑魚は粗方片付けたわね!! 狙うは怪人一人よ!!』


『待って芳香――油断は禁物だよ!』


 異常な状況の連続な上に初の実戦なせいか芳香は冷静さを失っているようだった。


『あの馬鹿!? 桃井さん佐々木さん!! 援護お願いします!!』


『気を付けてね達也君!』


 芳香に続いて達也も、現在怪人を抑えてくれているマリアの元へ駆けつける。


『ちょっと貴方達!?』


 そこに新手が現れた。


『ちぃ! 役立たずどもめ!!』


 先程出会ったベンチの恐竜に戦車ロボット。

 そして今度の怪人はドリルロボットだ。頭部、肩に、両腕にドリルがついたメカ怪人である。


 先程の二体といいここを襲撃している司令官は戦闘ロボット軍団を率いている大幹部とか何かなのだろうか? それとも偶々そうなっただけであろうか?  


 ともかく敵であることには変わりない。


 ギュイイーンと唸り音を上げて両腕のドリルを振り回す。


 ついでに頭部と両肩の斜め上のドリルも回転しているが一体何の意味があるのだろうか。達也は設計者に一度尋ねてみたい気もしながら芳香に意識を向ける。


 芳香は極道映画に出て来るヤクザみたいな構えでビームガンをを乱射する。


 突然の参戦にマリアは呆気に取られていたが構わずビームボウガンを撃ちまくる。


 達也もこうなったら先程と同じように乱射して押し込むしかないと思い撃ちまくる。


 その意思が通じたのか薫も麗子も防衛隊の人々も一斉射撃。ドリル怪人は哀れ、体全身から火花を吹かすが録に反撃に移れずそのままサンドバックにされて倒れ伏した。


 戦隊物らしからぬ酷いシーンだ。


 だがこれは命懸けの戦いであるし相手は一般人も相応に殺している。


 情けなど湧かなかった。


 これを好機とみたのかナオミは急いで格納庫に置かれていた車輌に避難民を乗せ始める。


 バスよりも大きく、車高も高いこのキャタピラで走るハイカラな鋼鉄の箱。まるで変形合体ロボの胴体か下半身になりそうな外観だったが武器である事を主張するように砲身が二門伸びていた。


 恐らくこのスーツ本来の装着者を支援するためのメカだったのだろう。が、まさか初陣で避難者達の脱出に使われるなど開発者達は思いしもしなかったに違いない。 


『全員乗せたわよ!!』


 と、タンクに避難民が乗り終えた頃にはドリル怪人は哀れ原型を留めぬ程の歪なオブジェと化していた。


 色々と思うところはあったが気を抜けば自分もこうなるのだと達也は自身に言い聞かせる。


 それよりも今はこの地獄から脱出する事を考える。


『貴方達ももう良いわ!! 先に脱出して!!』

 

 と、マリアが叫ぶ。

 薫が『けど――』と何か言いたそうにしたがマリアが遮るように『私達の心配はしなくていいわ!! それよりも――』と続きを言おうとしたところで隔壁の一つが派手な爆発音と共に破られた。


 そこからワラワラと戦闘員、そして先程現れたベンチ恐竜と戦車ロボットが現れる。


『あの数相手に一人で勇敢に足止めするつもり? 一分も持たずに殺されるわよ?』


 ナオミに軽い口調でそう言われてマリアは『うっ――』と言葉が詰まる。


『大丈夫、ちゃんと手はあるわ』


 ナオミの言葉に応じるように戦車が動き出した。

 そして達也はハッとなる。


『そうか、あの戦車で――』


 考えついた矢先、轟音が鳴り響いた。


 戦闘員、ベンチ恐竜、戦車ロボットが支援マシンの砲火に晒されて吹き飛んで行く。


 発射された砲弾は達也達部外者は知る由も無いがゴーサイバーに使われている超電子エネルギー砲――つまりビーム兵器だ。


 その破壊力は最新鋭の戦車を正面に並べて複数台貫通できる程の威力がある。元々は敵の対大型兵器の破壊や敵の基地を粉砕を想定して設計されたのだ。


 ベンチ恐竜や先程までサンドバックにされていたドリル怪人、元々機動性など無さそうな戦車ロボットは戦闘員諸共吹き飛ばされた。


 そして達也達も爆風により少しばかりの空中游泳と共に堅い床へ叩き付けられる。それでも痛みは感じないのは奇妙な感覚だった。


 芳香は砲撃の勢いで倒れ伏しながらも『す、凄い威力――』と言っていたが、それはこの場の人間の気持ちを代弁しているかのようだった。


『基地内でぶっ放すような代物じゃないわねこれ・・・・・・ともかく進路は開けたわ。司令官? 聞こえてる?』


 と、すっかり現場指揮官みたいに立ち振る舞いながらナオミは司令官に連絡を取る。


『ああ。此方でも状況は確認した――この基地は遺憾ながら放棄する』


 この決断にマリアは『し、司令!?』と動揺する。


『そちらの状況は沈静化しているが敵は予想以上に戦力を投入して来ている。それに奴達は脱出路の殆どを封鎖している――陸路も同じ状況だ。それに何処で調べたかは知らんがこの機密エリアの入り口もガードが固められている』


『あの――他の避難民は!? 学校の皆は無事なんですか!?』


 薫は悲鳴をあげるように尋ねた。


『何とかだが――な。君達が引付けてくれたおかげで最悪の事態は間逃れたと行ったところだ。今はこの機密ブロックに退避させている』


 マリアは『彼達は?』と言って達也達を見やる。


『本音を言うと私はこのままお暇したいわね』


 ナオミは――正直何者なのかは分からないが命の恩人である事には変わりない。

 彼女の意志は尊重されるべきだろうと達也は思った。


『僕は・・・・・・』


 達也はどうするべきか悩んだが・・・・・・


『ボウヤはムリせず脱出しない。そこのお嬢ちゃん達も』


 と、ナオミが助け船を出してくれて達也は心底ホッとした。


 どうあがいても達也達はただの高校生である。


 このまま脱出した方が無難だろうと考えた。


 しかし女子高生三人組はと言うと――


『まだ避難民がいるのなら私もここで戦います!!』


 薫が決意し、麗子も『私もそうさせて貰う。芳香は?』と言って『私は・・・・・・薫と麗子がそう言うんならそうさせて貰うわ』と芳香もこの場に残って戦う事を選んだ。


(え~!?)

  

 女子高生三人の決断に達也は驚愕する。 

 

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