ゴーサイバーの誕生


 Side 楠木 達也


 避難誘導の最中、マリアとナオミは戦いながらも出来る限りの人々を救助して行ったためその人数の規模は倍以上に膨れ上がっていた。

 それでも今回この社会科見学に来た人数を考えれば少ないぐらいだ。


「そ、そんな・・・・・・死んでるの?」


「嘘よ・・・・・・こんなの絶体嘘よ・・・・・・」


 途中、事切れた死体を目にして薫が、芳香が、悲鳴を上げたりもしていた。その中には男子生徒や女学生、教師らしき人間までもいる。


 仲の良かった人や顔見知りの人間がこうなるのを見れば二人の態度は当たり前だろう。

 麗子だけは沈痛そうな表情をしていた。


(これが死ぬって事なんだな・・・・・・)


 その中で達也だけは何故か酷く冷静でいられた。過去に一度自殺を決行したせいで何か人として重要な部分が欠落しているのだろうかとか思いながらも後に付いて行く。


 やがて辿り着いた先は件の職員以外立ち入り禁止と言う表示がされた通路で、更にその奥――従業員用のエリアを通り過ぎて巨大なエレベーターに乗る。


 人が数十人以上入っても大丈夫なぐらいスペースにゆとりがあった。

 大きな資材を運搬するための搬入路なども兼ねているのかもしれない。


 一息つけるタイミングでマリアの腕時計がアラームが鳴り、「指令!?」とマリアが腕時計の真上の宙に浮かんだディスプレイに呼び掛ける。


『よし、そのまま地下の秘密基地に逃げ込んでくれ!!』


「いいんですか?」


『構わん。敵が何処にいるか分らんこの状況ではその方が安全だ』


「――機密よりも今は人命が大事ですよね」


『言いたい事は分る。その機密のせいで今後も危険な目に合うかも知れない。だが今躊躇えば死に追いやってしまう事になる』


「分りました――」


 と、マリアは渋々しながら承諾した。


「中々物分かりが良いオジ様ね。そう言う人嫌いじゃないわ♪」


 と銃口を天井に向け、片方の腕を腰に当てながら謎の爆乳ブロンド美女、ナオミはウインクする。

 

 そうしている間もエレベーターは下へ向って行き、辿り着いた先はまるで宇宙船の内部のような雰囲気の近未来的な通路が広がっていた。


 その雰囲気圧倒されながらも避難者はゾロゾロと降りて行き――


「な、なに!?」


「爆発音!?」


 爆音と震動が響いて悲鳴が上がった。


 Side コマンダールーム


 サイバックパークの地下奥深くにあるこの機密エリア。


 そこは新たな正義の味方「ゴーサイバー」の研究開発施設であり、また実戦の際は活動拠点として機能する筈だった。


 この多くの機材と職員が立ち並び、巨大なモニターが立て掛けられた宇宙船のブリッジのような内装のコマンダールームもゴーサイバーを支援する作戦指揮所として機能する筈だった。


 だが今はこの最初にして最大の危機を乗り越えるためにコマンダールームの機能をフル活用せざるおえなかった。


 髪の毛を丸刈りにした三白眼の強面の男がルーム中央の座席で指示を飛ばしている。


 彼はここの司令官、工藤順作(くどうじゅんさく)。

 この難局を乗り切るため必死に指示を飛ばしている。


「ダメです!! リユニオンは複数同時に大規模な攻撃を仕掛けているようです!!」


「セイバーVに救援を出して見ては!?」


 部下の提案に「無理だな・・・・・・」と返し、続けてこう言った。


「彼方も我々と同じような状況だろう。救援無用と伝えておけ」


「そ、それでは?」


「我々にはゴーサイバーがいる」

 

 サイバックパークの独力でこの難局を乗り切る事を決断した。

 その判断に意を唱えるようえに「ですがまだ――」と部下は漏らすが工藤司令は「出動をまだか?」と反論を黙らせるように静かにプレッシャーを与えながら催促した。


「いえ、既に向っているようです」


「そうか・・・・・・」


 再び爆発音と震動が揺れる。

 それも今迄より最も強い物だ。

 嫌な予感がした。


「て、敵!! 機密エリアに侵入!!」


「モニターに出せ!!」


 するとモニターには基地内に侵入してくる敵の姿が映し出された。


 しかも不味い事にその場所は――


「マズイ!! あの位置は――ゴーサイバーの保管庫と彼達がいる場所の――あれでは分断されてしまうぞ!!」


「敵二手に分かれました!! もう一方は装着員の、もう片方は保管庫へのルートを取っています!!」


「どうやら状況は最悪のようですね」


 と、硬そうな制服を着た若い青年が司令室に入ってくる。


 整った顔立ちと鋭い目付きが特徴だが流石のこの状況では冷静にはいられないのか、ポーカーフェイスを保っている顔には汗と荒い呼吸が滲み出ている。


 手に握り締めた銃もきっと長時間握り締めたゲーム機のコントローラーのようにベットリとなっているだろう。


 彼は寺門 幸男(てらかど ゆきお)、防衛隊の上層部から派遣されて来た人間だ。


「無事だったのか?」


「ええ――ですが命が長らえただけかも知れませんが・・・・・・」


 幸男の言う通り、このままでは全滅してしまう。


 早くゴーサイバーを出動して欲しいと言う気持ちを工藤司令は必死に心の内に押さえ込む。

 とにかく指揮官と言うのは慌ててはいけない。常に冷静沈着さが求められる物だ。

 ここで「出動はまだか!?」と叫びたい衝動に駆られそうになるが、だからと言って速まる訳がない。それに装着員達もバカでは無いだろう。今頃必死に出動準備に取り掛かっている筈だ。


「ああ!! 装着員が!!」


 そう心に言い聞かせていた矢先の凶報だった。


「クッ・・・・・・なんて事だ!! まだ戦いすら始まっていないと言うのに!!」


 だが現実は非情だった。

 モニターには本来ゴーサイバーとなって戦うべき装着員の最後が映し出されていた。

 工藤司令は両目を閉じ、司令席のテーブルを拳で「ゴン」と叩く。


「最後の希望が・・・・・・断たれたと言うの?」


 司令室の誰かが呟いた。


「いや、まだだ!! 諦めてはいけない!! まだ手がある筈だ――まだ手が・・・・・・」


 しかし司令は絶望の囁きを振り払った。

 諦めたら何もかもが全て悲劇で終わってしまう。

 必死に思考をフル回転させて――


『司令――状況は聞きました』


「白墨君・・・・・・」


 モニターに白墨 マリアの顔が映し出された。


『避難したのは良かったのですが戦闘員達と鉢合わせして・・・・・・今、ゴーサイバーの装着室に立て籠もっています』


「なに!?」


 まさかの展開に司令は席から立ち上がった。


 Side 楠木 達也


「ですから装着の許可を頂きたいんです!!」


 マリアの懇願に司令は『だが君は研究員だ・・・・・・』と撥ね除けるがナオミが話を聞いていたのか「残念だけどそう長くは保たないわよ司令さん」と真剣な表情で銃口を天井に向けて構えていた。


 ドアを強く叩く音がこの部屋に響く。


 部屋の壁に密接するようにカプセルやロッカーなどが並んでおり、これ達の機材を設置するためだったのか幸いスペースにも十分ゆとりがあったため、共に避難してきた人が入り込めたのは幸いだった。


 だが逆を言えばこの場所に閉じ込められた事を意味していた。


 ミサイルの直撃にも耐えられそうな分厚いシャッターが、まるでトラックが猛スピードで何度もぶつけてくるような音を響かせている。その地響きが鳴る度に、徐々にだがシャッターがへこんできていた。

 何時まで持つかは分からないが、この調子では長くは保たない。


 あの鋼鉄の扉の先に何が待ち構えているかは解らないがとても光線銃を持った女性二人で太刀打ち出来るとは思えなかった。


「ねえ、私達死ぬの?」


「芳香ちゃん・・・・・・」


 芳香が震えながらそう言った。傍にいる薫も心配そうだ。


「落ち着いて芳香。まだそうなると決まった訳じゃないから」


 諭すように麗子が言うが――

 

「だけどこのままだといずれ奴らに!!」


 麗子の気遣いを払い除けるように芳香が叫んだ。

 あの気が強かった芳香が嘘のように怯えている。

 対して達也は先程から同様に酷く冷静だった。 

 やはり中学の頃に自殺に失敗した影響なのかも知れない――などとノンビリと考えていた。


『・・・・・・やむおえん!! 装着を許可する!!』


「了解!!」


「じゃあ私も――」


 マリアの返事にナオミも続いた。


『き、君は――』


 と、司令は何か言いたげだったが「人数は多い方がいいでしょ?」とナオミにスルーされた。

 一先ず先にナオミが装着するためのカプセルに飛び込む。

 それに続くようにマリアも何が言いたげだったが空いてるカプセルに飛び込み、カプセルのシャッターが閉まった。


「ちょっと・・・・・・何が始まるの?」


 と、芳香は疑問を持つが達也は「装着を許可するとか何とか言ってた」とまるで傍観者のような態度で返事した。


「装着? 何を?」


「さあ?」


 などと芳香と達也は緊張感のない短いやり取りをする。


「・・・・・・アンタどうしてそんなに冷静なの」


 先程と打って変わって芳香は目を細めて達也を睨み付けてくる。

 達也としては説明を求められても困るのだが。


「シャッターに穴が!?」


 そんな時だった。

 誰かが言ったようにシャッターが遂に突破されたらしい。


「何あれ・・・・・・鋼鉄のアーム?」


 誰かがそう表したように、分厚いシャッターを食い破るように現れたのは鋼鉄のアームだった。

 まるで工具のベンチを巨大化したような物を想像して欲しい。


 一旦引くとアームが開き、破れたシャッターにアームが噛み付く。まるで巨大なベンチで無理矢理押し広げるように。


「ここがゴーサイバーの保管ルームか!? 手間取らせてくれるわ!! べ~ンチッチッチッ!!」


 奇怪な笑い声と共に両腕がベンチ、口もベンチの恐竜型怪人が現れた。

 その背後には戦闘員までもがギッチリと控えている。そのおぞましい光景に避難者達の悲鳴が轟いた。


 誰もがこの後、待ち受けるであろう惨劇を予感した。


 達也もそうだった。自分がどんな顔をしているかは解らなかったがたぶん朝の洗面台にある鏡で見た普通の顔をしていたと思っている。


 何を思ったのだろうか薫は立ち上がり、芳香は両耳を手で塞いで目を瞑り、麗子は恐怖に怯える芳香を我が子を守る母親のようにギュッと抱きしめた。


『お待たせ!!』


『あら、ナイスタイミングって奴かしら?』


 と、カプセルに入っていた二人が出て来る。


 現れたのはセイバーVに似た背格好の、まるで戦隊物に出て来るようなスーツを身に纏った美女二人だ。

 白い方はマリア。紫色の方はナオミである事は一発で解った。胸のボリュームで見分けが付く。巨乳なのがマリアで爆乳なのがナオミなのだから。


 セイバーVの場合はスカートだったが白い生地の上からそれぞれのカラーのレオタードを着込んでいるような扇情的なデザインだ。


 またベルトには電子的なデバイスが装着され、VSとデジタルで表示されている。左胸と額にはエンブレムと思わしきGに羽をあしらったVのマークが刻まれていた。


 ベルト右側のホルスターにはたぶん銃が収まっているのだろう。


 二人とも躊躇いなくそれを引き抜いた。


「なっ!? せ、正規要員は始末したのに――」


 ベンチ恐竜怪人がこの事態に驚いていたが、紫色の戦隊戦士となったナオミが『ま、非常時の緊急手段って奴よ♪』と軽く返した。


『もう貴方達の好き勝手にはさせないわ』


 マリアはホルスターから先程まで二人が握っていた光線銃とは違うビームガンが引き抜かれ、ここから敵を叩き出すように乱射した。

 ナオミも何時の間にか引き抜き、同じように適確に射撃してみせる。


「クソ――だがここで始末すればッ!!」


 戦闘員や鋼鉄の恐竜怪人の体に火花が起こる。 

 これで戦闘員は倒せたがベンチ恐竜怪人は怯んだだけ。

 ベンチ恐竜怪人は射撃を浴びているにも家蛙強引に突破しようとした。


(ふざけた外見なのにビーム兵器がビクともしてないのか――)


 これが怪人。

 これが普通の人間では勝てない絶対的な存在。

 達也が嘗て仮想敵にしていた存在。


(それ以前にどうしてそこまでして殺しに来るんだ!?)

 

 その異常性に達也は震える。

 普通の人間なら気付かない、当たり前すぎて分からない怪人の異常性。

 目的の為ならビームの的にされても続行すると言う精神に恐怖を覚えた。


『今よ!! 電子着装!! サイバーボウガン!!』


 敵が怯んだのを見計らうようにそう叫ぶとベルトのデバイスが発行しつつ、粒子が吐き出される。

 その粒子は形を成し、マリアの手には機械仕掛けの白いボウガンが握られる。 

 と、僅か一秒も経らずの出来事だった。


 それを向け、ボウガンのトリガーを引く。


『グゴオァ!?』


 激しい爆発と共に怪人の巨体が通路を滑るように吹き飛ばされる。凄い破壊力だ。後方に控えていた達也も一瞬吹き飛ばされそうになった。


――キュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラ


 と、ここで通路の奥の方から何やら工事現場などでよく聞く、作業重機のキャタピラ音が鼓膜に届く。


 この狭い施設内でだ。

 最初は何だろうかと疑問が湧いたが、その答えはスグに分かった。


 ベンチの恐竜怪人が吹き飛ばされた通路の側面から現れた小さな戦車だった。


 人型サイズにスケールダウンし、箱のような下半身に両脚をキャタピラになっていて、装甲が厚そうな胴体に両腕がついて手の指が遠目に見てもやたら太くなっているのが特徴で 頭部は戦車の砲塔を被っているような感じだ。


 つまり戦車の怪人だった。


――ウィーン


 頭部を回し、その砲身を此方に向けて――


『まずい、伏せて!!』

 

 ナオミが警告した瞬間。

 視界暗転した。



 どれぐらいの時間が経っただろうか?

 数時間? それとも僅か数秒?

 体感した時の流れが狂っているのを感じながらも達也はこれまでの事を考えた。


 突然の襲来。


 そして秘密基地への逃避行。


 立て籠もったはいいが怪人による絶体絶命のピンチ。


 お姉さんとブロンド美女が戦隊ヒロインに変身して窮地を脱出。


 かと思った矢先新手の怪人に新手の怪人が砲弾を発射して――


 急展開に次ぐ急展開で達也は思考の整理が追いつかなかった。


『・・・・・・?』


 意識が段々とハッキリしてきた達也は異変に気付く。


 視界が変だ。


 まるで何かを被っているように狭まっている。


 そして両腕にはグローブ。腰にはベルトを巻きバイザーを身に付けて――


(そうか・・・・・・咄嗟に僕は・・・・・・)


 生存本能がそうさせたのだろう。


 咄嗟にあのスーツを装着するためと思われる変身用カプセルに身を滑らせたのだ。


 今着ているのはマリアとあの外国人女性が着ている奴の同型――カラーは赤色。つまりテレビの戦隊物で言うならリーダーポジションの奴である。


『あれ? 私・・・・・・変身しちゃったの?』


 奇妙な事だが達也と同じ事をしてしまった奴がいたらしい。


 青いカラー・・・・・・この声はあの強気な芳香だ。


「二人とも、その姿は一体・・・・・・」


 薫を庇うように地面へ這いつくばっている麗子が目を見開いて達也と芳香の姿をマジマジと眺める。


 他の避難者達はあの砲撃を受けて奇跡的にも生きているようだ。


 そして先程変身した二人はと言うと避難者を庇ったのか苦しそうに膝立ちになっていた。


「ふ、増えただと!?」


「早いところこの格納庫を吹き飛ばすぞ。セイバーVの時のようになったら厄介だ」


 戦車怪人が激しい砲撃を続ける。

 あの金髪の女性が盾になるように前へ出た。

 苦悶の声を挙げず、戦車砲を防ぐためにサンドバックになると言う自殺行為をやってのけた。

 

『貴方――』

 

 そんなナオミの背中を見てマリアは何か言いたそうだったが。


『今よ!!』  


『ッ!!』


 叱咤するようにナオミが合図を送る。

 マリアは先程怪人を吹き飛ばしたボウガンを発射。

 再び激しい閃光が放たれ、二体の怪人に直撃した。


『お願い!! これで倒れて!!』


 今度は一撃では終わらず、相手をそのまま殺す勢いで乱射、乱射、乱射。

 反撃させる暇を与えない。

 マリアは相手の死を懇願しながら攻撃を続けた。


『ボウヤも災難ね。それと・・・・・・そこの女の子も』

 

 その隙にナオミが呼びかける。

 先程戦車砲を受け止めたとは思えない様子だったが胸回りが若干焦げていてヘルメットのバイザーに軽くヒビが入っている辺り、達也達を戦車の砲弾から庇ってくれたのが事実だったと言う事を物語っている。


『ええと・・・・・・私何が何だかサッパリなんですけど・・・・・・』

 

 と芳香が達也の気持ちを代弁する様に言った。

 達也は達也で『僕も・・・・・・咄嗟の事で何が何やら・・・・・・』と、返す。

 ふとナオミはゴーサイバーに変身するカプセルが空いてる事に気付き――


『まだカプセルがある見たいだし・・・・・・誰か変身してくれる人はいないかしら?』


『『はぁ!?』』


 芳香と達也は驚く。

 このブロンドの爆乳女性はとんでもない提案をした。


『敵もまだまだいそうだし正直私と彼女だけでもキツそうなのよね~それに、貴方達戦闘訓練受けてなさそうだし~だからと言ってこの場でそう言う訓練を受けている子は何人いるのやら・・・・・・』


『ちょっと、何勝手に話を進めてるの!? そんなの許可出来ないわ!?』


 と、マリアが一旦攻撃の手を止めてナオミにこの場にいる人間全員の気持ちを代弁するような反論をする。


『大丈夫よ。セイバーVだって元々は何の戦闘訓練も受けていない女子高生だったのに初めての戦闘を乗り切ったんだから――それよりもホラ、手を休めない。貴方達二人も攻撃に加わる』


 などと前例を持ち出して此方も反論しつつ芳香と達也に指示を飛ばす。

 

『え? 私も!?』


 芳香は当然な反応をする。

 達也も困惑した。


『けども私もじゃない。ほら、右のホルスターにビームガンがあるからそれであのお姉さんを援護射撃していればいいのよ』


 達也は『簡単に言いますね・・・・・・』と皮肉った。

 何だかこの女性が言うと簡単な仕事みたいに聞こえるのがとても恐ろしい。


『まぁ運が悪かったと思って諦めなさい。それに何か言われても秘密を漏らしたこの基地の連中が悪いんだから慰謝料請求したと思えばいいのよ』


 などと悪魔の誘いをするナオミ。

 マリアも『耳が痛いことをズバズバと言うわね・・・・・・』と内心ではヘルメットの奥で苦虫を噛み潰したような評定しているに違いないとか達也は勝手に考えた。


(まあこの人(ナオミ)が言ってる事も強ち間違いじゃないし――)


 とても修羅場とは思えないやり取りを交わしながらも二人はホルスターを引き抜き銃を構える。 

 外見はまるでヒーローが使うようなオモチャ風の銃に重厚感とリアリティを足したような形容だ。


 オモチャの銃さえ向けた事さえない二人はおそるおそる構え――発砲。引き金も反動も軽かった。


 シューティングゲームの要領で力の限り撃ちまくる。芳香も釣られたように乱れ撃つ。命中など考えられる余裕は無かった。


 その中でマリアは強力なボウガンを的確に二体の怪人へ交互に当て、また紫色のスーツを身に纏った外国人女性は的確な射撃を決めている。


 何かの有名な作品で「弾幕はパワー」と言う言葉があったが今の状況は正にソレだった。

 敵怪人を一歩も寄せ付けない。確実に敵を後退させつつある。


「達也・・・・・・なの?」


『桃井さん――』


 何故か尻目に涙を浮かべながら薫は言った。

 久し振りに達也は幼馴染みの名字を呟く。


「達也君が戦ってるの?」


『・・・・・・そう言う事らしい』


 眼前を見据えたまま答える。

 今は戦闘中。それも初戦闘。

 気軽に応対出来る精神的余裕はない


「だったら私も戦う!!」


『『「なっ!?」』』

 

 芳香も達也も驚く。 マリアも『え!?』となった。

 何を思ったのか薫がカプセルに飛び込む。

 それを咄嗟に麗子が引き留めようとするが遅かった。


「薫!? どうして貴方が戦う必要があるの!?」


 麗子の嘆きは的を得ていた。

 この唐突な展開にここまで避難してきた人々も言葉を失っている。


「・・・・・・どうしてこんな事に!」


 薫が入ったカプセルのドアをドンと強く叩くと麗子もまた何を考えたのか残っていたカプセルへ躊躇いを振り切るように飛び込む。


 この時、一体何を思って飛び込んだのかは分からないが彼女なりに正しいと考えて、もしくは譲れない理由があったのだろう――

 

 そして新たにグリーンとピンクの戦士が姿を現わした。背の高いグリーンは佐々木 麗子。年相応の背丈のピンクは桃井 薫である事が分かる。


 これでレッド、ブルー、ピンク、グリーン、ホワイト、パープルと六名。男一人と女五人の男女比率が逆転した戦隊が誕生した事になる。  


『もうメチャクチャだわ・・・・・・』


 マリアの気持ちはこの場にいる全員の気持ちを如実に現していた。


 何時の間にか怪人はいなくなり――恐らく一旦体勢を立て直すためにこの場から退散したのだろう。

 暫しの時間だろうが今後の方針を考える。


 これがゴーサイバーの誕生。


 そしてゴーサイバーの最初の試練の始まりであった。

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