Dance battle


 

 初っ端かますのは、Breakin'。

 軽快で豪胆なステップからウィンドミルという回転技で足の遠心力で背中を付けて回る技を初っ端に使い、そこから切り替え、今度は両手のみで回り続けるパワームーブへと続ける。そして、片手ポーズを取ったあと、次の技へと繋げる。しかも、ただの技の連鎖ではない、しっかりと音に合わせて動きのスピードや、おちゃめなポーズを決めたりと、ダンスを楽しんでるのがわかる踊りだ。


 後攻のキングはそれを受けてか、立ち上がった青年に体が触れないように、Krumpで力を表す。ストンプ力強い足の踏み鳴らしと、アームスイング殴るように振り下ろされる腕の動きに、普通の人間ならば恐れひれ伏すところだ。


 しかし、青年は楽しそうにKrumpのアームスイング腕の振り下ろし某ホラー映画の悪魔に取りつかれた少女のようにブリッジ退場をする。

 青年から繰り出されるおちゃらけと、実力。キングの調子は、翻弄されて思わず崩しそうになるが、持ちこたえてハットトリックという、帽子を使った技を繰り出す。投げられ回され、蹴り上げられ。縦横無尽に操られる帽子は最後、待機していたの横をヒュンと投げられた。1回目のターンは終わった。しかし、ダンサーたちは、もっと欲しいもっとくれと、ジャッジ数人も勝敗を止めることはしない。

 2回目のターン、少年はKrumpした。それには観客たちも呆気にとられた。なにせ、青年はトーナメントでは、HIPHOPかBreakin'、たまに手わざで華麗にポーズを決めるように踊るVoguingというジャンルしか使用していない。

 しかも、そのKrumpは凄まじい。まるで錯覚に陥る足の踏み鳴らし、アームスイングの風は観客の髪の毛を吹き飛ばす。そして、まさにジャングルの王を思わせるチェストホップ胸を弾く動きとドラミングは、その鼓動が観客を揺らす。なによりも、そこから青年は自分の靴を蹴り上げると、キングが行ったハットトリックを靴で再現する。特に難しい箇所を軽々とこなす青年に、キングは自分の足元が砂のように崩れていくのを感じる。30秒が終わる。

 次の後攻、勢いを失ったキングはBreakin'を選択するも、上手く曲を掴むことが出来なかった。


 ターン終了後のジャッジの判定を見たMCの声が、高らかに響く。


「ニューキング・イトリアキラ!」


 新しいダンス王者の誕生の瞬間だった。

 周りは熱狂の渦に包まれる。連覇していたカンナギを倒した青年がどんな伝説を残すのか。皆、この瞬間を目に焼き付けて、後世に伝えていこうとしている。

 しかし、青年は大きく喜びを見せず、それよりも何かを探しているのか焦ったように周りを見渡した。


「……さっきの、絶対いる。効果エフェクトだ!」


 何かを確信した青年は、周りの声掛けを無視して、必死な顔で会場のDJブースで休憩していたDJに向かって叫んだ。


「DJ!!!!!」


 ドロップ。曲をかけろ。力強く迷いなくまっすぐに叫んだ。


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