20xx年8月19日


 20xx年8月19日 茨城県にある野外ライブ会場にて


 野外ライブ会場は、見たことのない、夏の灼熱を超えた熱気に包まれていた。


「メタル狂戦士バーサーカー共!我々が、コノ日本に!真実のメタルを届けに、キタ!!!」

 

 何故ならば、十数年ぶりに来日したアメリカのヘヴィメタルバンドが日本でライブをりにきたからだ。現在は、3曲終わりのMCタイム。何をやっても熱い状況で、ファンが大好きな渋い曲のセレクトで始まったライブ。これに興奮しないヘヴィメタル狂いは、この世に存在しない。


 ドシンッ ドシンッ


 一人の男がそのステージの上で、王者の風格を漂わせ、一歩一歩ステージを闊歩する。その足に合わせて、地響きのようなサウンドエフェクトが会場に鳴り響く。


「コノ、日本に、最強のベースアンプ、ギターシステム、そして、俺たちのメタルを全て、用意、シダ!」

 

 バンドのリーダー……閣下と呼ばれるベーシストが高らかに宣言をする。片手にはカンペ用のタブレットPCを持ち、片手には黒丸に金色の星が輝く缶ビール。閣下愛用の日本のラガービールと言えば、その缶ビールであり、狂戦士たちはその飲んでいる雄姿を眩しく眺めていた。

 ビールの飲み終わりと共に、閣下のありがたいMCが終ると、袖からボーカルが登場する。ヘヴィメタルの戦士として鍛えられた筋肉は惜しみなく見せつける。職人芸を極めたボーカルは、歌うこと以外喋らない。観客のボルテージは上がり、デスボイス、歓声、叫び、高まったものが、次の曲を乞い続ける。

 まさに、狂戦士たちの集いだ。


「我々がGOD OF METALだ!!」


 その狂戦士たちの雄叫びに応えるように、爆音で始まるギターサウンドは、狂戦士を煽る。これが欲しいのだろうと。

 魅せつけるギターを追うようにドラムが刻まれる。お前らの鼓動はこんなものかと、もっと激しく打ち鳴らせと。

 そして、閣下はベースの弦を弾いた。


 会場に、ステージに、所狭しと並ぶベースアンプが狂戦士の鼓膜を突き破る。まさに、殺人級の音量。並大抵の人間なら耳を抑えて赤子のように泣き叫ぶだろう。でも、飢えていた狂戦士たちは、涙、汗、鼻水、色んな汁を流す。そして、降ってきた殺意MAXな槍のような鋭い音に歓喜の声を上げる。

 

 この曲名は『Power』。

 狂戦士に何が必要なのかを示す歌。


 そう、閣下が用意したPowerは、この曲にて証明される。

 俺らはお前らをりにきたのだと。


 ボーカルの力強いデスボイス。これぞ、ヘヴィメタル。狂戦士たちは、手を突き上げ、頭を振り、全身を他の客にぶつけ合いながらステージへステージへと押し寄せる。

 それをわかっているのか、中央で歌うボーカルに寄り出すギタリストと、閣下。ボーカルも分かっているのか、大きく両手を天に掲げるギターとベースのヘッドがそれぞれボーカルの天に向けられる。ボーカルはそれを表情変えることもなく、両手でそれぞれのヘッドの直下のネックを掴み、持ち上げた。しかも、それぞれの楽器が美しいハの字になるように、だ。


 見せかけの筋肉なんかではできない、まさにエンターテイメントをするために鍛えられた本物の筋肉。

 楽器は握られた衝撃でとんでもない音ががなり続けるが、演者にとっても、観客にとっても、ボルテージあげる最強の材料にしかならない。しかも、演者はその持ち上げられた楽器を弾き続けるものだから、まさに伝説の光景である。


「Poooooweeeeerrrrrrrrr!!!!!!」

 

 ボーカルの魂を込めたシャウトが響き渡る。まさに、圧倒的なパワーの証明だ。だが、それだけではない。


「す、すげえええええ!なんだあの効果!!!」


 一人の客が興奮したように叫ぶ。

 まるで本物の雷が閃光、それがステージに何度も落ちる。そして、べースアンプの音に合わせて、会場が大きく震えた。


 会場のボルテージは最高潮、狂戦士たちはその神演出に歓喜の声を上げる。中には涙まで流し始めた。その光景を、ステージ上でただ一人演出担当の男だけが凍りついた表情で見ていた。


「何だ、あの雷、あんなの知らない……」


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