第10話 料理

 彼女はほぼ毎日、僕のために料理を作ってくれる。

 うれしいことであるが、時々危なっかしい場面を見てしまうこともある。

 この前は包丁で指を切りそうになっていた。猫の手というのを意識しようとしても、集中するとやはり難しいらしい。

 ある日、僕は街中であるチラシを見つけた。

「料理教室......?」

 一応、彼女にその話をすることにした。

「え、行きたい!!!!」

「おう。食いつきがいいな」

 場所はスマホのメモアプリに書いてあったので、数日後、その料理教室に足を運んでみることにした。

 そして、4日経ち、料理教室が開かれた。

 昼からの開催らしい。

「いってきます!!!」

「いってらっしゃい」

 元気な声といい、頬を赤らめた少々の緊張を含んだ表情といい、彼女のことが好きなんだと実感する。


 そしてちょうどおやつを食べる時間帯に彼女は帰ってきた。

「ただいま〜」

「おかえり。楽しかった?」

「うん!!!」

 元気な声でそういう彼女はやはり可愛い。

 ということで早速晩御飯を作ってもらった。

 この日の献立は肉じゃがと味噌汁、鶏飯である。

 料理教室では、基本的な包丁の持ち方や道具の安全な使い方から、肉じゃがのうまい作り方や、味噌汁の味の濃さをどのように調節するかなど、かなり実践的な内容まで教えてくれたらしい。

 キッチンに立つ姿を見て、少しばかりか成長を感じる。

 包丁の握り方とか、手の置き方もかなりよくなった。

 そして、味はというと......

「うまっ!」

「よかった〜」

 かなり美味しかった。

 やはり、『彼女』の作ったご飯は美味しいのだろうか。どんなに不味くても美味しいと言える自信があるが、これに関しては本当に美味しい。

 共通のものに愛情は芽生える。これは誰しもが経験したことはあるのではないだろうか。

 僕たちの場合、それが料理の味として共有された。

 僕自身は、少食だったが、彼女と付き合い始めてから、だんだんと食べるようになってきた。

 そして、いつしか僕の胃袋は彼女に支配されていた。


「ごちそうさま」

「お粗末さまでした。じゃあ、片付けよろしくね〜」

「あいよ」

 彼女が”美味しすぎる”料理を作ってくれたので、流石に片付けをしないというのは義理が悪い。

 そして、皿洗いも完璧に済ませ、食器を片付けて、自室に戻った。

 すると、僕の部屋でクッションを持ってベッドの縁に寄りかかるように彼女が寝息を立てながら、静かに寝ていた。

 桜色のきめ細やかな肌は、少し触れれば崩れそうで、柔らかい印象を受ける。

 僕は彼女の髪の毛を撫でながらこういった。

「よくできました」

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