第5話 日常

 彼女との生活に不満はない。だが、どうしても彼女を見ると思い出してしまうことがある。彼女との小学校の記憶だ。

 彼女には散々ひどいことをしてきたという自覚がある。

 それは反省しているし、もうそんなことをどんな人にもしないと神に誓っていえる。

 だが、そんなちっぽけな意思でそんなひどいことを忘れることはできない。

 結構な頻度でそれを思い起こし、なんでやってしまったんだと後悔することがある。

 そのとてつもない後悔とともに襲ってくるのは、彼女がなぜ僕なんかを好きになるのかという疑問だ。

 それは自分では絶対にわからないだろう。なぜか了承してしまったからだ。

 了承したこと自体は別に悪いとは思っていない。

 だが、了承したこと自体と了承して得た後悔はまた別問題だ。

 変えたいとは思っていないが変えたくないとも思っていない。

 そんな不可思議な気持ちを抱えたまま、共同生活は過ぎていく。

 彼女が当時をどう思っているかなんて知る手がかりもないし、知ろうというモチベーションもあまり湧かない。

「ご飯だよー!」

「はーい。すぐいくー。」

相変わらず元気がいい。

 階段を駆け下りると食卓には綺麗なご飯が並んでいる。

 流石に一週間も一緒にいるとなると相手の趣味もわかるようになるのだろう。僕の好物もちらほらある。

 電球の光でキラつく卵焼き、ソースのかかっているトンカツも胃を存分に楽しませてくれそうなものばかりで食べるのが楽しみになる。

「いただきます。」

 彼女は食べている間、僕の方を希望を持った目でじっと見ている。そんな彼女は可愛げがあり、少し鼓動が激しくなる。

「どうしたの?」

「な、なんでもないよ!さぁ早く食べて!」

彼女は嫌なところをつかれたのか、頬を紅色に染めつつ目を少しそらした。

 そんな彼女の反応は珍しかった。彼女を今度は眺めて少しからかいながら、反応を楽しんだ。

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