返品

 沙綺羅がノートから目を上げると、真乎の声がした。


「後悔の深さ、自分でも知らぬうちに深く沈んでいた自分の真情。そこに付け込まれたのでしょう」

「だから、後悔を恨みがましく訴える妖怪に魅入られたってことですか」

「そう単純なものでもありませんが、いえ、単純だからこそ、認めたくなくて、それが弱みになったのでしょう」


 真乎は沙綺羅からノートを受け取るとぱたんと閉じた。

 そして、叶恵が置いていった中身入りの猫ちぐらを見やった。


「さて、この子、どうしましょうか」

「うちに置いておくわけにもいきませんね」

「売り主に心当たりはなくもないのです」

「同業の方とか」

「てりふりに出入りしてましたが、祖母が出入り禁止にした方かと」

「では、こちらから出向いて、返品ですか」

「返品ですね」


 二人は顔を見合わすと、うなづき合った。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る