第28話 雪氷と春蓬
*
春の野辺には花が咲く。
白い蝶、黄色い蝶。
ふわふわひらひら、互いに
わずかばかり、それらの
さらさらちょろちょろと、小川のせせらぎが背後から耳に届く。冬の内は、山から流れくる
冬を越えた土手には、萌え
「よいせ」、と、吐息交じりの独り言で、
一段高くなった視界は、何故だろう、それだけで世界を明るくきらきらしく見せてくれる。それはきっと、久芳がそれなりに穏やかな暮らしを送っているからだろう。一山越えたその向こうからはもう違う。一寸先は闇の戦場だ。
羽柴の手が伸び、国人と争い始めてから、もう幾年が過ぎたか。
慣れるべきではなかろう。しかし、戦の世は厭じゃと言うても
流れの中、身を潜めて、ゆっくりと歩く。
黙って、心の内など明かさずに、静かに類に害が及ばぬよう。
「さあて、帰りましょうかね」
のんびり
そうはならぬよう。
中庸をゆっくりと歩くのだ。一歩ずつ。一歩ずつ。
山野には若い緑が
田に水が入るにはまだ少し遠い。
この年、大家村の春は、殊の外あたたかく、そして穏やかだった。
と、「おおいおおい」と声がする。
「おや」と
「おおい、
思わぬ顔に、久芳はきょとんとした。
「栃尾様――」
「そんなに慌てて。どうなさいましたの」
「久芳殿。よき報せじゃ。よき話を持ってきたぞ」
「はあ、よき話ですか。どこぞにややでも生まれましたか? それとも戦が終わりましたか?」
「いやいや、そうではない。――いや。そうでもあるのか。戦を終わらせてくれる御仁との話だからな」
「はあ」
「御養父殿との話はつけてきたぞ。久芳殿。今から嫁に行ってくれ」
「―――――――はい?」
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