第11話 何とかなりそう

「ふむ、これとか良さげだな。メイどう思う?」


 一通り確認を終えたグンはメイにそう訊ねる。


「メイには良く解らんのよ、グンが決めたのならそれでいいんよ」


「いや、説明分に書いてあるじゃないか」


「…読めないんよ」


 そこで初めてグンはメイの言葉に驚いた、書かれている文章は日本語。会話が通じている事から不思議に思っていなかったのだ。


「あ、それも説明が必要だったなの」


 グンの反応にルリは画面のなかで頷き、説明を始める。


「2人の身体には言語理解のナノマシンがが入っているなの、初期状態での注入なの、教育していくことで進化していくなの」


「え!?俺って改造されてるの!?」


 気が付けばナノマシンを注入されている、とは聞き捨てならなかった。


「改造とは違うなの、言語中枢にちょっとした手を加えてるだけなの、ルリは元からコンピューターなの、ちなみにベースになっている言語は機人族なの、いろいろな言語は登録されているから理解できるなの」


 メイの言葉を聞きながら、それは十分改造なんだよな、などと呟きつつ、メイの言葉できになった点を聞いてみる。


「もしかして、メイとルリの言葉使いがおかしいのも翻訳しそこなってるとかか?」


「あるかもなの、特に母様は方言がきついなの、方言と認識する事で多少緩和されるかもなの」


「なるほど」


 そう言われればそうなのかも、そう考えてグンは方言について思考を走らせる。

 東北の人と、沖縄の人が方言全開で話した場合、まるで多言語のように感じる事もあると聞く。


 テレビ放送という標準語主体の情報源がなければ、今でも話が通じなかったかもしれない。


 かく言うグンもまた首都圏から少し離れた地域の出身である。

 自分が当たり前だと感じていた話し方が、実は普通ではない事もあったのだ。


「方言、認識、なるほどなるほど…、よし!メイここに書いてある説明だと、この格闘術というか、この場合戦闘術だな。戦場で生き残るため、相手を無力化するための兵士用の戦闘術と書いてあるんだ。俺はこれにしようと思う」


「そうなん?随分効果的に聞こえる技術なんよ、戦場で生き残る、とても大事な事なんよ」


 方言と認識したが、多少緩和できたのだろうか。緩和できてもこの程度なのだろうか、メイの方言はきつい様だ。


「無力化の中には当然相手を殺す手段もあるみたいだが、今は必要な事だと思っている。何より気に入ったのは、万全でない状態でどうすべきか、身近な物を如何に武器にするか、これが必要だと思うんだ」


「うん、グンがそう決めたのならメイは何も言わないんよ。で、さっそくインストールするん?」


「インストール…か、ますますこの世界の在り方が解らなくなってくるしな」


 言葉だけで捉えるならば、十分改造人間であった。


「父様に注入されたナノマシンの影響なの、そんな事を深く考えるより、利用する事を考える方が健全的で建設的なの」


 テーブルで紅茶を飲みながら微笑み答えるメイと、画面の中でサムズアップして来るルリ。

 二人の反応はそれぞれであったが、覚悟は決まった。


 グンは実行ボタンを押す。


 一瞬自身の身体が光った気がした。


「何だ?これで終了なのか?随分あっさりしてるな」


「そんなことは無いんよ」


 その言葉を最後に聞きグンは意識を失った。


 意識を失い倒れ込む寸前、メイはグンを受け止めた。糸の切れた人形のように動かなくなったグン。


 メイはグンがどういう状況になったのか理解はしている、それでも不安でいっぱいになっていた。


「母様、父様を頼みます。必要であれば例のゼリーを無理やりにでも食べさせてください」


「うん、任せるんよ」


 優しくグンの頭を撫でながら、メイはそう答えた。


 抱えたグンを介護用の車いすへと運ぶと、訓練施設を後にする。


 部屋に戻り、和室へと向かうと布団を敷きグンを寝かしつける。まるで死んだように目を瞑るグンのてをメイが握りしめると、触れた手が驚くほど冷たく感じられた。


 メイはグンの衣服を脱がすと自身もまた脱ぎ始めた。


「大丈夫だとかわかってはいるんよ、でも心配なんよ」


 布団をかぶり、身体を重ねるメイ。グンを温めるためぎゅっと抱きしめるが、身体の凹凸のせいで発生する隙間ですらもどかしかった。


んよ」






●〇●〇●〇●〇●〇●






「あれ?ここは……」


 目を覚ましたグンの第一声、天井を見つめながら、混濁した記憶を辿る。


「おはよう、グン。身体の調子はどうなん?」


「ぇっと、問題は無さそうかな」


「それならいいんよ、で?戦闘術とやらは問題ないん?」


「ふむ、問題は無さそうだ」


 まるで生まれた時から覚えていたかのように、その技術は頭の中に存在していた。


「目覚めたのならご飯なんよ、そしたら身体を動かすんよ。恐らく違和感だらけなんよ」


「そっか……あっ!俺はどれくらい意識を失っていたんだ?次のゲームは!?」


「次のゲームは明日、そう言えばわかるん?」


 グンは貴重な時間を無駄にした事だけは理解した。まいった、などと呟き苦い顔をしている。


「食事を取ったらルリの所に行くんよ、提案が有ると言ってたんよ」


「そっか、それならまず食事だな」


「起き上がれそう?」


「問題ない」


 そんなやり取りを交わし、食事をとる2人。

 メイの表情をいつも通りであったのだが、チラチラをグンを伺っている。


(随分心配を掛けたみたいだ。)


 メイの様子からそう感じるグンだが、ふと、本当に一瞬であったが何かが頭をよぎる。


(何だろう……いや、今はゲームだ。そっちに集中しよう。)


 今更慌てても仕方ない、そう自分に言い聞かせながら食事をとると思いの外お腹が減っていたのか、お替りまでしてしまった。


「寝たきりだったんだから加減したほうが良いんよ」


 メイの忠告を聞き、それもそうかと考えある程度抑える事にしたグン。


「よし!準備完了だ。ルリのところに向かうとしよう」


「うん」


 メイの話し方が少し変化していた、この場合は話し方では無く和訳機能が進化したのだろう。


「なんよが少なくなってるな」


「??」


 何とは無くそんな呟きをするグンを不思議そうに眺めるメイ。横を歩きながらルリの元へと向かうのであった。


「ようこそ父様、お身体は大丈夫な様子なの?」


「おう、もう平気だよ」


 そう言い軽くストレッチをするグン、その様子を微笑み見つめるメイ。


 そんなメイを見ていると、本当にAIなのか疑わしく感じられる。


「それで、次のゲームは明日だと聞いたんだが、俺は何をすればいいんだ?」


「父様にはD扉の先にある訓練施設でとにかく体を動かすことに慣れてもらうの、ただし、後半は模擬訓練用の戦闘人形を相手にしてもらうの」


「戦闘人形?」


「そうなの!人そっくりに動く人形なの」


 そんな人形まであるとは、ここはファンタジーではなくやはりSF世界ではないかと思ってしまう。


「前半で体の動かし方に慣れて、後半で戦闘を兼ねた動き方の練習ってところか」


「今は少しでも違和感を失くすことが優先なの」


「なるほどなぁ」


 そう言えばメイを言っていた、緊張した状態での動きのズレが命取りになる。


「メイにも言われてるからな、生き残るために出来る事はなんだってやるさ」


「いい心構えなんよ」


 横に立つメイからもそんな台詞を受ける。


「明日生き残るために頑張るんよ、そして」


「そして?」


「明日の夜は快楽に溺れるんよ!!」


「いぃぃや生存どころか命に係わる事案だろ!」


 生存できても性依存とはこれ如何に。


「セイを実感できるんよ」


「ねぇ?それって生なの性なのどっちなの?」


 やいのやいのし始めた二人はいつも通りであった。



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