第7話 やってやるぜ!

「はっ!?ここはどこだ!?」


「意識が戻ったなの!父様、ここは入り口の部屋なの」


「どうやら平気みたいなんよ、良かったなんよ」


 そう言われ、思考がハッキリとしてくれば、先程までの出来事がフラッシュバックしてくる。



 何周もコース走り続けるグン。

 時間の感覚はすでに無く、体力も限界にきていた。


 何度も転び、幾つもの軟式ボール攻撃を受け、幾度も川に流された。


 序盤、「彼らもこんな…こんな扱いを…」等と当時のアニメを思い出し、共感するだけの余裕もあった。


 永遠に終わりの無い周回行動、グンはいつしか思考を放棄していた。

 

 限界を超え、気力も体力も失い、その場に倒れそうになる寸前、メイから罵声が飛んできたのだ。


「そんな体たらくでどうするなんよ!そんなんだから貴様は”ピー”で”ピー”なんよ!貴様ごときは”ピー”て充分なんよ!”ピー”で”ピー”なんよ!この”ピー”野郎が!なんよ!悔しければ走るんよ!”ピー”がなんよ!!」


「ピーピーうっさいわ!何だそれは!?」


「ルリからもらった台本通りなんよ!このボタンを押すタイミングも書いてあるんよ!セルフ規制音?らしいんよ!」


 ルリから受け取ったらしい台本とボタンを掲げ、自慢げに胸を張るメイ。

 ルリの気遣いなのか、メイの台本は肝心な部分が全て規制される仕組みになっていた。


「そんな罵声とボタンがあってたまるか!規制は規制対象が居る場合だけだ!」


「突っ込む元気がまだあるんよ!まだ走れるんよ!」


「しまった!これはルリのトラップだ!思わずツッコミを入れてしまった!」


「まだ行けるんよ!ハリーなんよ!」


「ちくしょー!」


 ノロノロと、走り出すグン。

 ルリの仕組んだトラップは、ツッコミ体質であるグンに対し実に効果的であった。


 走り出したグンを見つめ、満足そうに頷くメイ。


 だが、この後悲劇が起こる。


 森林エリア。フラフラしながらも、何とかクリアする寸前。グンは軟式攻撃を頭部に受けてしまう。


 当たりどころが悪かったのだろう…。


 脳が揺れたままの状態で河川エリアに辿り着いたグンは、見事に足場を踏み外し転落する。

 すでに限界を超えた身体は、川の流れに身を任せるだけ。脳に受けた衝撃のせいで思考が霞む、身体は思うように動かない。


(あ、これ死んだかも…)


 プカプカと川に流され遠のく意識の中、グンはそう感じていた。




 そんな先程までの出来事を思い出し、遠い目をするグン。


「本当に良かったなの、下流で父様をキャッチした母様に感謝なの、これで次の訓練が出来るなの」


「そうなんよ、流されるグンを発見救出したんよ、素早く助けたメイを褒めるんよ、幸い息はあったんよ、人口呼吸のチャンスを失ったんよ、目覚めも早かったんよ、次の訓練に行けるんよ」


 和かに話し合う二人、ちょっと聞き逃したい台詞があったのでスルー。だがどうやっても聞き逃せない台詞があった。


「ナニイッテル?…ツギノクンレン?」


「なのなの!次の訓練は命の危険は無いなの、安心して続けるが良いなの」


「そうなんよ、足腰ガタガタなグンにピッタリな訓練なんよ、立って手が使えれば充分なんよ、安心するんよ」


(安心要素が何処にもら感じられないんだが、感じられないんだが!)


 グンには笑顔の二人が悪魔に見えていた。


 訓練したいと言ったのは確かに自分である。が、スパルタでやって欲しいとは頼んでいない、とはとても言い出せる雰囲気では無い。


 グンはメイに担がれ、次の訓練施設へと連れて行かれるのだった。




 新たな訓練場、それは射撃場であった。


「ここで射撃、銃の練習をするんよ、ひたすら撃ちまくるんよ」


「なるほど、確かに身の危険は無いかなぁ」


「そうなんよ、身体がガタガタなのは、かえって丁度良いくらいなんよ」


「その心は?」


「戦場でまともな状況なんて無いからなんよ。こんな平坦な場所で安全に撃てる方がめずらしいんよ、身体の不調くらいが丁度いいんよ」


 射撃場を見渡し、思わず納得するグン。

 昨日の戦った場所も瓦礫だらけであった。


「まずは撃つことだけに集中するんよ、弾倉の装填もしなくていいんよ、引き金を引けば撃てる状態で渡すんよ、メイが用意した銃をひたすら撃つんよ」


「了解」


「渡した銃の銃弾が切れたら、必ず命中率を確認するんよ。適当に撃つんじゃないんよ、しっかり狙うんよ。まずは一つの動作を身体に覚え込ませるんよ」


「的の、命中したかどうかってどうやって確認するんだ?」


「この画面に状況が映し出されるんよ、何処に当たったのか判るんよ」


 そう言いながら銃弾を的へと撃ち込むメイ。弾倉が空になるまで撃つ込むと、グンにドヤ顔を向けて来る。


 映し出された画面、頭部と胸部(心臓部分)に見事に命中していた。


「これ外した場合どうなるんだ?」


「右下に外れた回数が表示さるんよ」


 画面右下にBADの文字と0回の表示。


「なるほどね~、的の切り替えはどうやるんだ?」


「チェンジと言えばいいだけなんよ」


「音声認識かよ…」


 用意されている銃は、どう見ても渉のいる時代の物。システムは近未来。


(統一感がまったくないな)


「あ、グローブは必ず使うんよ」


「え?素手じゃないのか?」


「豆が潰れていたいだけなんよ、その程度の痛みで悲鳴を上げてもやめないんよ」


「サー!マム!」


 素早く用意されたグローブをはめるグン、満足そうに頷くメイ、上官と新米兵士は訓練に臨む。


「今回用意した銃はハンドガンなんよ、護身用なんよ」


 渡された銃を手に取り、その重さを感じるグン。


(思っていたより軽い、でも何かズシリと来るな…。)


「聞くんよ、そんな物でも簡単に相手を殺せるんよ、護身と言ったけど人殺しの道具なんよ」


 いつになく真剣な顔でそう言うメイ、ゴクリとグンの喉が鳴る。


「いい?グン。この場所では殺さなければ殺されるんよ。メイを助けようなんて考えないで欲しいんよ、グンが生き残るために見捨てる覚悟も必要なんよ、メイはグンが生きていればいいんよ、その為なら何だってやるんよ、出来るんよ」


「どうし「さあ訓練を始めるんよ!」」


 メイは敢えてグンの言葉を遮った、時折みせるメイの覚悟に困惑するグン。「どうして?」そう聞けたとしても、おそらくメイは答えてくれない。


「まずは両手で構えるんよ、狙い方はわかるんよ?」


「あ、ああ。それくらいは解る」


「銃の扱いや弾倉交換は明日以降にでも覚えるんよ、今は撃つべし!なんよ!」


 言われた通り、両手で構え、的に向かって引き金を引く。

 思っていた以上に軽い抵抗、軽い炸薬音が響き渡ると画面右下のカウントが1と出た。


「外してるんよ、もっとしっかり狙うんよ。将来的には感覚で当てられるようにするんよ」


 少し震える手を両手を再度持ち上げて構える。


(こんな簡単なことで相手は死んでしまうのか)


 再び引き金を引く、人型の的、その左方部分に表示が出ていた。


「その調子なんよ、両手での扱いに慣れたら右手のみでやるんよ、その次は左手だけでやるんよ、時間はあるんよ、兎に角どんどん撃つんよ!」


(そうさ、今は考えても無駄なんだ……出来る事、やれることをやって行こう)


「ほら!さっさとやるんよ!」


「おう、やってやるぜ!!」


 軽い反動、響く炸薬音、何度も何度も引き金を引く。


 弾倉が空になるまで一気に撃ち込む。装填弾数を理解していないグンは、銃弾の無い引き金を何度か引く。


 メイも言い忘れていたとばかりに説明してきた。


「あ~これには10発弾を装填してるんよ、数え易いんよ。残段数の把握ぐらいはするのがいいんよ」


「おけまる」


 1,2,3,4……数を取りながら再び引き金を引く。


 撃ち終われば画面確認、確認してる間にメイが新たな銃を用意してくれる、確認が終わればまた銃を構える、その繰り返し。


 グローブの中で潰れた豆が痛い。


(くっそ!絶対やりきってやるぜ!状況に流されてたまるか!)


 この場所で何が起こるのか。状況に、ただ流されるのは御免だった。


 覚悟を決め、その後も銃を撃ち続けるグン。その結果何が起こるのかを知らずに……。













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