第4話 さくっと説明しろ

(気を失い倒れる寸前まで吸いつくれました。)


 気が付けば朝、外ではスズメ?がチュンチュンと合唱している。

 よく聞けば本当に合唱していた。


「ふあぁ~おはようなんよ」


「本当によく眠れました、永眠するかと思いました、アリガトウゴザイマス」


「?」


 無邪気な顔で首を傾ている彼女。

 その存在が吸血鬼で、ムラムラとは吸血行為であった。


 吸血行為により、下半身に向かう血液は吸い取られていた。

 噛まれた瞬間の痛みも、牙から伝わる快楽で失われていた。何より吸血行為で発生する快楽は予想以上であった。


(だが、これはムラムラの解消ではない!断じて違う。)


 男は心の底からそう思っていた。が、彼女の満足そうな顔を見ては文句も言えない。それどころか、それを言ってしまえば少女好きの男だと認識されてしまう。


 複雑な葛藤の末、男は昨晩の出来事は無かった事するのであった。


「そういえば飯とかどうするんだ?君は俺の血液だけで十分なのか?」


「ご飯は食べるんよ、吸血はご飯じゃないんよ。牙挿入が性行為なんよ?」


「ああああああ、キコエナーイ」


「もう、アタシの初めての牙を捧げたんよ?初夜なんよ?」


 頬を赤らめ、両手を頬に当て、イヤンイヤンと身体をくねらせている彼女。そんな初夜はいらないと真顔になる男。


「いやいや何なのその積極性、理解が追い付かないんだが…まあいいやで、朝食はどうする?」


「食事は全自動なんよ、注文すれば用意してくれるんよ、楽なんよ」


「なんだそりゃ……」


 言われて案内された場所、そこにはディスプレイが有り、様々な食事が画面に並んでいた。

 タッチパネルで注文する仕様だ。


「いや、どこの廻る寿司屋だって話なんだが…」


「意味わかんないこと言わないんよ、これで選択するとそこの扉から食事が出て来るんよ。やって見せるから見てるんよ」


 そう言うと彼女は、おすすめ朝食セットを選択。決定ボタンを押す。


「オマタセシマシタ。扉ヲ開ケ料理ヲオ取リクダサイ」


「いや、なんでそこだけレトロボットなんだよ!?」


 その台詞に突っ込みが入ってしまうは仕方がない、彼女は呆れた顔で男を見ながら扉を開けた。


 そこには先ほど注文した料理が現れた。


「いやお待たせしてねぇーから!一瞬だったから!」


「馬鹿な事言ってないでさっさと注文するんよ!一緒に朝食を取るのは初夜後の嗜みなんよ!」


「いやいやいや、吸血鬼式じゃねーか!人間式しか俺は認めんぞ!」


「朝チュンチュンもしてたんよ!」


「あれチュン合唱じゃねぇーか!どこで調達してきやがった!!」


 くだらない言い争いをしながら朝食を選ぶ男、テーブルに朝食を置き、文句を言う彼女。


 実にアホらしい。


 食事そっちのけで昨晩の行為を言い争う、決着はなかなかつかずエスカレートしていく。




 結果。




「今晩人間式の初夜をやるんよ!決定事項なんよ!」


「おう、覚悟しやがれ!」


 決着はついた。斜め上に。


 決着がつけば気持ちも落ち着いてくるし話も出来るだろう。


「飯食いながら今後について話をするぞ!」


「次の戦闘まで時間はたっぷり在るんよ!食べ終わってから話せばいいんよ!」


 すぐのすぐには無理の様だ…。興奮したまま男が喚くと、彼女もケンカ腰に答えるが、彼女の意見が正しい。男は世間話をしながら朝食をとる事となる。


「そういや君の名前は在るのか、俺は覚えていない」


 朝食のパンを齧りながら彼女に聞いてみれは返事は案の定。


「覚えてないんよ」


 やはりであった。話を聞いていくと、どうやら彼女の記憶も自分と似たようなものであった。


「俺は何故ここにいるのかも解らんのだがな…」


「アタシの記憶もそうなってるんよ、ただそこにアンタを護る、相手を殺す、武器の扱い方、それと……それとここでの過ごし方が記憶に植え付けられてるんよ」


「実際ここで過ごしたことは?」


「まったく無いんよ」


 結果、どうしようもない事が判明した。

 食べ終わった食器を片付けると、今後どうするかの話し合いとなる。


「生き残るしかない。その為にこれから如何するか、行動方針を決めないとだな」


「そうなんよ」


「それならまずは呼び方からだな」


「うぇぇええぇぇっへへへへ…じゅるり」


「それどんな反応?ねえどんな反応なの!?」


 突然の彼女の反応に思わず恐れおののく男。当然昨晩の事もあり身の危険を感じ後ずさる。


「なんか良いんよね~お互いの名前を決める、素敵なんよね~」


「いや、ロマンスは全く感じないんだが…」


「ダーリンとハニーが一般的なんよ」


「そんな古典的でコッテコテの呼び方なぞ必要ないな」


 彼女が顔を赤らめながらした提案は、真顔で男に却下される。


「何より戦場でダーリン呼びは長すぎる、もっと効率重視でお願いします」


 真顔のまま男は彼女にそう告げる。


「なんよ、つまらん男なんよ。それなら頭文字でDとHでどうなんよ?」


「種族的には君がDで俺がHだぞ?」


 ドラキュラとヒューマン確かにその通りであるが、ドラキュラは個人名だ。種族で言えばヴァンパイアはV。だがここにそれを突っ込む人物はいない。

 

 彼女にもまったく通じていない様子だ。


「何が言いたいのか良く分からないんよ、取り敢えずアタシには可愛い呼び名を付けるんよ」


 彼女は男に対しそう答えると、早々に名付けを丸投げする。


 男は考える、ここでいい加減な名前を付けたら殺される、と。


 ならばと本腰を入れて考え始める。


 じっと彼女を見つめる。イメージカラーは薄い青、薄い紫、濃い赤。男の視線を受け、モジモジし始める彼女の行動はガン無視しておく。


 色のイメージから思い付いたのは明け方の空であった。


 夜が明ける寸前、青と紫に染まる空。そこに昇る赤く輝く太陽。


(夜明け、あかつき、暁はサトルにギョウって読むんだっけ…可愛くは無いな)


 ならばともう一度考える。彼女の顔は見ない、絶対ヤバイから。


(夜明け、夜はイメージと違うかな…明けるメイ、メイか。うん合うな)


 男は考えを纏めると彼女に告げる。


「決めたよ、君はメイ、メイと呼ぶよ」


「メイ、メイ。今からアタシはメイなんよ!」


 その表情から、メイが満足している事が伺える。

 男はほっと一息入れるとメイに告げた。


「俺の名前はメイが決めてくれ、カッコイイので頼むぞ?」


 先程のお返しとばかりにそう言う男。実に嫌らしい。


 だがメイの反応は違った、満面の笑みを浮かべながら答えてくる。


「うん!任せるんよ!精一杯考えるんよ!」


 男と同じようにこちらを見つめるメイ。その顔は真剣そのもので、見られている男は恥ずかしくなってくる。

 先程の彼女の行動が理解出来た。


「グン、グンと呼ぶんよ!」


 前のめりに男に告げるメイ。


「グン。いいじゃないか、これから俺はグンと名乗るよ」


 グンの反応に満足そうに頷く銘。彼女的には会心であったようだ。


「ところで何でグンなんだ?」


 自分は生粋の日本人、何故そんな名前になったのか気になったのだ。


「理由?あるとすればその瞳と髪の色なんよ。群青色、とても綺麗なんよ!ジョウも良かったんよ、でもイメージはグンだったんよ!」


「へぇ~群青…色?」


 グンはゆっくりと立ち上がると洗面台まで小走りに向かう。


 昨日鏡は見ていない。この場所に来てからの自分を確認していなかったのだ。


「うわぁ~……」


 鏡に写る自分を確認し、そんな声が漏れる。


(物語にあるフルダイブゲームのキャラエディットだな…本人そのままで髪と瞳の色だけ変更ってな)


 グンの知っているゲーム機は据え置きか携帯ゲーム機、もしくはゲーミングPCだ。フルダイブ技術は未だ物語の中だけである。


 群青色に輝く髪と瞳。黒かった自分はずの髪と瞳は何処にも見当たらない。思わず生え際も確認するが、根本までまったく同じ色。染めた感じもカラコンでも無かった。


(本当に何なんだこの場所は、いつから俺はファンタジーになった?誰かさくっと説明してくれないかな…)


 鏡に写る自分を呆然と眺めながらそんな事を考えていた。




 







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