第3話 戦いの余韻でムラムラします
「そんな事よりそろそろホームが現れるから、準備して」
準備と言われても、特に何か持ってい居たわけでもない。迎えの車でも来るのかと辺りを見渡す。
先程迄の気分を早く切り替えたい男は兎に角休みたかった。
黙って辺りを見回していると、突然目の前に黒く豪華な扉が現れる。
しかし扉だけだ、扉の後ろに部屋は見えない。先程迄戦闘していた景色が広がっている。
躊躇いなく彼女はそのドアノブを掴むと開け放つ。
扉を開きこちらを見てくる彼女。扉の先に見える景色は近未来的なマンションの一室、扉の先が何処かに繋がっているのか、その先に見える空間は広い。
(どうみても昔アニメで見た便利な扉だな。)
「……」
「何してるんよ、早く入るんよ」
彼女はそう促してくるが、非現実的な光景に頭が痛くなってくる。
「何よ?入らんのよ?」
「いや、入るよ……だたちょっと自分の常識が迷子になってね」
「ふ~ん、いいからさっさと入るんよ、アタシも休みたいんよ」
促されるまま扉に入る男。出会った当初は敬語に近かった男も、戦場では煩わしいと言われその言葉遣いも変えていた。
扉を抜けると、そこは先ほど扉から見て想像した広さを遥かに超える大きな部屋。
リビングとダイニングが一緒になった一室。扉がいくつか確認できる事から別室があるだろう。
正面の窓から見える景色は雄大な自然が広がっている。
地上数階の自然豊かな土地に建てられたマンション。そんな一室であった。
(ファンタジーだな…いや、仕様はSFで内容的にはバイオレンスか。)
目から光彩を失い佇む男、完全に現実逃避である。
「汗と埃まみれなんよ、先に温泉に入るんよ」
風呂ではなく温泉、随分と優遇された環境だ。
「なんだか至れり尽くせりだな」
「命の遣り取りしてるんよ、多少は優遇するんよ、てか当然の権利なんよ」
確かについ先ほどまで命の遣り取りをし、実際奪った。
だが何故そんなことをしないといけないのか、その理由が解らない。
「で、何で命の遣り取りをしないといけないんだ」
「さっきも言ったんよ。知らんよ」
「さっぱり解らんな」
「うん、アタシにもさっぱり解らんよ」
窓辺に辿り着き、外の様子を見る。窓を開けテラスに出てみれば300坪は有りそうな中庭となっていた。
テラスの端まで行き下の様子を見る。目算で地上30階は超えているだろう。
(この高さに意味があるのかな、逃がさないため?てか周囲に何もないんだがそれどころか上下左右に部屋も無いんだが!)
そう、上空にこの部屋だけが浮いていた。
地上からいきなり天空の部屋。
(いや、本当になんなんだろうか…)
取り敢えず現状を受け入れ、次の戦闘までにどうするか考えよう。できれば夢落ちが最適だ、などと男は早々に思考を放棄する。
「うーん、気持ちいいんよ~」
そんな声が聞こえてくれば、反射的にその方向を向いてしまう。
そこには温泉に浸かる彼女の姿。
薄青色ベースに薄紫色でメッシュの入った髪、透き通る程の白い肌にうっすら赤味を帯びている、背の高さは155cmは有るか無いかの感じだった。
肉の尽き方が成長途中の少女をイメージさせる、中学2~3年生位。これからさらに女性らしい体つきになるだろう。
(改めて見ると、とても可愛らしい少女だな、少しキツメの大きな瞳が彼女の美しさと可愛らしさを彩っているなぁ。そして…Cか?いやDか、Dなのか?)
マジマジとその入浴を観察する男。するとその視線に気が付いた彼女が男に向かって言ってくる。
「何よ?命の遣り取りで子孫繁栄能力でも湧いて来たんよ?エッチな気分になったんよ?」
「いや、そういう訳では無いんだが…なんだかこの光景ですら夢であれば良いなと思ってるところだ」
ジト目で口元だけニヤつく器用な表情の彼女。
この光景[裸体含む]自体夢であれば良いと口に出す男。
傍から見ればどちらも変であった。
「諦めるんよ、どう考えても今が現実なんよ」
「さいで~、んじゃ裸体鑑賞はここまでにしようかな」
「別にかまわんのよ、なんなら一緒に入るんよ?」
「いいや、遠慮しておこう。何をされるか…というか何が起こるのか考えると怖い」
この環境が異常すぎて信用できない男は、手を振りリビングへと戻ると目に入ったソファーに寝転がろうと考えたが、自身もかなり汚れている事に気が付く。
(このまま横になるのは頂けないな、シャワー室とか別にないかな)
いくつかの扉を開け、中を確認していく。
洋室が5、和室が2。意味の解らない部屋が1、トイレが3。
(二人しかいないのにトイレが3とはいったい…)
これから増え行くのだろうか?そんな事を考えながら目的の場所に着く。
風呂場、大きくゆったりとした浴槽にはすでにお湯が張られており、何時でも使用できる状態であった。
(なんでもデカくすればいい訳じゃ無いだろうに)
10人で入浴しても十分なスペースがある浴室。
さっそく脱衣所で衣服を脱ぐと、まず身体を洗い始める。
気が付くと男は何度も何度も身体を洗っていた。
人を殺した。
その影響だろう、何度あらっても何かが落ちて行かない。
直接ではない。間接的で在ったにも拘らず、その光景は目に焼き付いて離れない。
(はは、これはちょっとどうなんだろうな…)
自分の取る行動の可笑しさに自分自身で呆れる。
洗うことを止め、湯船に浸かればそのまま沈んでしまいそうだ。
危うい自身の行動を控えるため、洗うだけ洗うと浴槽を後にする。
「あら、お帰りなのよ」
そこにはバスローブのみで佇む彼女が立っていた。
「先に休んだ方が良かったんじゃないんよ?」
「いや、なんだか身体が汚れていたからさ。風呂に入って来たんだ」
「一緒に温泉に入れば良かったんよ」
ジト目ニヤケ口でそう言ってくる彼女。
「それは法律というか世間的にどうなんだろうな」
「常識とか知らんのよ。それに2人しか存在しないこの空間でそんな事考えんよ?まあいいんよ、あっちの部屋に布団敷いといたんよ」
そう言われてしまえば殺し合いまでしている、今更法律がどうとかも関係ないだろう。
世間の目などここには無いのだ、異常と思える彼女の考えがここでは普通なのかもしれない。
「ありがとさん、ちょっと横になるから後は適当によろしく」
「この空間は安全なんよ、しっかり休むんよ」
男の考えを見透かした様にそう言ってくる彼女。
そんな彼女が用意してくれた寝室は、先ほど見た和室の1室。そこに布団が敷かれていた。
襖を閉めると、男はそのまま布団に倒れ込んだ。
(話し合いは明日でもいいかな)
お腹が減ってはいたが、今何かを食べても戻しそうであった。
それなら寝てしまおう。
目を閉じれば元の世界に…、何度もそんな事を考えながら瞼を閉じる。男は疲れから、いつの間にか眠りについていた。
(なんだ……身体が重い)
時間の間隔が無い、それでも外の暗さから夜だと把握した程度。どれくらい眠っていたのだろう、そんな考えに至るが問題はそこでは無かった。
(なんだこれは…異常に柔らかく温かい…だと?)
下半身付近に感じる重みと柔らかさ、そして温もり。暗がりに目が慣れて来るとその存在に思い当たる。
「ここは安全じゃなのかな?」
「安全なんよ」
そう答えたのは彼女、その目が外から漏れて来る灯りで怪しく光っている様に見えた。
「ねえ、ちょっと聞いて欲しいんよ」
そう言いながら男の手を押さえつける彼女、その顔が男の目の前まで降りて来る。
「聞くのは構わないが、なんだか嫌な予感しかしないんだ」
「そんな事はないんよ、だってこれからお互い気持ちい事をするんよ?」
「倫理的観点から遠慮させてほしいのだが」
「うふふふふ、命の遣り取りでそういう気分になるのは何も男だけじゃないんよ、女もなるんよ……、アタシムラムラしてるんよ♡」
なんとも衝撃的で魅力的なセリフだが、流石にそんな気分ではない男。強引に掴まれた腕を払い除けようとするが全く動かせない。てか、動かない。
「ちょちょちょちょっまっ!何て力が強いんだ!?」
「うふふ、それじゃあ『いただきます』」
「待て、待ってくれ!」
男の言葉に耳を貸さず、その唇が男迫ってくる。これはまずいと抵抗するも全く動けそうにない。
彼女の顔は男の首元へ埋まる。彼女の柔らかな唇の感触が男の首筋に、次いで舌が男の首筋を這う。
舐められた。その感触で一瞬ゾクリとした感覚が腰付近を襲う。
(これは非常にまずい)
先程からの抵抗が薄れていく。雰囲気に流されそうになったその瞬間、強烈な痛みが首元で発生した。
「痛たたたたたた!!!ってえええ!えっ!?何してんの!?」
彼女は男の首筋に牙を立て、その血を啜っていた。その表情は実に恍惚としている。
「うふ、おいしいんよぉ~。たまらないんよぉ~」
「お前!存在がファンタジーかよ!!」
吸血鬼ですよね?w
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます