プロローグ 央香登場③


 怜人は拝殿に向き直り、財布から百円玉を取り出す。刹那、もう既に今日は五百円を入れているので、これ以上入れなくてもいいのではという考えがよぎったが、賽銭箱に入れてから祈ることが自分の儀式となっていたので、怜人は百円玉を賽銭箱に入れた。


 賽銭箱から黄金色の光が、怜人にはっきりと見える。


 これが気のせいなのかとしこりが残る怜人だったが、二礼二拍手一礼をし帰宅した。


 後日、怜人は家にある一眼レフカメラやデジカメ、タブレットPCなどで撮影を試みたが、発光現象を撮ることはできなかった。


 また他にも、快央神社の神主で、朝方たまに掃除している的場の爺さんや、沙織などにも一緒に祈って欲しいとお願いし、事情は説明せずに検証をしてみた。


 その結果、駿太の時と同様に光は見えないと言われた。


 ・発光現象を撮ることはできない。

 ・発光現象を怜人しか視認できない。

 この二つから全く進展がなかった。


『怜人、あなた疲れているのよ』

 駿太に言われたことが、怜人の脳裏をよぎった。


 某FBIの捜査官がどういう気持ちだったかはわからないが、怜人は段々と自信がなくなってきた。


「眼科に行こうかな」

 自嘲的に呟いた後、怜人はいつも通り百円玉を賽銭箱に入れようとしたが、間違えて五百円玉を入れてしまった。


 その瞬間、かなりの光が賽銭箱から放たれた。


 ……え?


 と怜人は目を疑い、百円玉を入れてみるといつもの光量に戻った。


 まさか、入れる金額で光量が変化するわけがないよな。


 そんなバカバカしいことがあるわけがないと思ったが、疑問を感じてしまったらやってみないと気が済まない。日を改め、賽銭箱に入れる金額によって変わるのか、怜人は検証をしてみることにした。


 一円玉、五円玉、十円玉、五十円玉、そして……五百円玉。


 財布へのダメージが結構あったが、検証の結果金額によってやはり光量が違うことが判明した。


 五百円玉は眩しく光ったが、一円玉なんかは瞬きするくらいで終わった。


 そこで、怜人は思い切って千円札を賽銭箱に入れてみようと思った。


 高校生にとって千円は物凄く大金である。


 賽銭箱へ千円札を入れようとする手が自然と震え、三分くらい入れようかやめようか迷っていた怜人であったが、ずっとモヤモヤするのは嫌なので意を決して入れた。


 すると、凄まじい光が放たれる。


「うおっ!」

 思わず声が出てしまい、怜人は眩しさのあまり目を瞑った。


 時間にして十秒ほど続き、賽銭箱から光は消えた。


 検証の結果、

 ・賽銭箱に入れる金額で、光量が異なる。

 が新たにわかった。


 この段階で、怜人は発光現象自体に疑いを持たなくなった。


 とはいえ、この発光現象を他人に見てもらうことはできない。そのことが致命的であり、怜人は行き詰った。


 怜人は次第に原因究明をすること自体に興味をなくし、日課の儀式で光が出ても何も思わなくなっていった。


 それから、あっという間に時が過ぎて年が明けた。


 一月五日。


 正月三が日にはそこそこ人がいたが、昨日からもういなくなった。


 ちゃんと神様がいるんだから、しっかり祈ればいいのに。

 と、相変わらずの不人気具合に内心ムッとしつつも、怜人は新年だし奮発して5千円を賽銭箱に入れた。


 二礼二拍手一礼をしてフーッと息を吐いた後、怜人は違和感を覚えた。


 賽銭箱から光が出なかったのである。

 もう慣れっこだったので光を直視してないとはいえ、光が出たか出てないかの違いはわかる。


 光が出るようになってから、このようなことは一度も起きなかった。


 ……変だな。


 眉を寄せる怜人。


 瞬間、また違和感があった。


 不思議に思った怜人は賽銭箱をよく調べてみたことろ、違和感の正体がわかった。


 それは賽銭箱が小刻みに揺れているのである。


「……え? 何これ? 地震か?」

 怜人は口に出し、幻かと思い目をこすったり頬をつねったりしてみたが、痛覚はあるし賽銭箱の揺れは強くなっていった。


 賽銭箱が壊れる? 


 怜人がそんな不安を感じた瞬間、賽銭箱からとてつもない光が放たれ始める。


 光はいつもの黄金色だったが、光量が半端じゃなかった。


 怜人は咄嗟に目を瞑り、両手で顔を覆う。徐々に光がなくなり、怜人は両手を下ろしてから目を開けた。


 視界にまず入ってきたのは、賽銭箱の上に立っている人の足。


 その足は、草鞋をはいていた。


 怜人が顔を上げると、草鞋をはいている人と目があった。


 草鞋をはいている人は腰まである長さの黒髪ストレートで、前髪は眉毛のところで綺麗に揃っており、二重の大きな目に高い鼻、顔は小さく整っている。


 丈が膝上までの着物を着用しており、柄は紺色ベースで帯は白色だった。また、細身で着物なのに胸が結構あるように見受けられ、スタイルもかなり良い。


 突如現れた人は、超一流のモデルにも引けを取らないほどの美女だった。

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