第55話 Eからの訪問者
江角首相は首都機能を一時的に移転した名古屋駅前のミッドランドスクエアのスカイプロムナードにいた。ここは地上220m、周囲360度を見渡すことが出来る場所だった。皇族は皇居から京都御所に移転した。遷都したわけではないが、放射能に汚染された東京に戻るには何年も先になる。
名古屋駅周辺で一番高いここからも江角の好きな富士山は見えない。首都機能の一時移転先には大阪が真っ先に候補に上がったが、江角は東京に少しでも近い名古屋にした。
江角は首都圏が核兵器で壊滅した瞬間を偵察衛星の映像で見た。首都圏を囲い込むように数十の核爆発の巨大な赤い炎が広がった瞬間、江角は号泣していた。
「首相、ブラウン大統領から電話です」中路首相補佐官が暗号化された衛星電話を渡した。
「江角首相、mRNAワクチンが完成しました。日本国民全員に接種できるだけの量を積んだ貨物機が今、日本に向けて出発しました」
「数ヶ月かかるという話でしたが、早かったですね」ブラウン大統領と極秘会談してから1ヶ月しか経っていなかった。
「COVID-19のワクチン開発で技術と生産設備が完備していたからな。それよりもう一つ約束していたことを実行したことを報告するよ」
「中国に払わせるという代償のことですか」
「オペレーション・ビジター・フロム・E(エンケラドス)の発動だ」Eからの訪問者という作戦名を聞いて江角首相は不吉なものを感じた。
「すぐに中国各地でウイルス感染爆発が始まる」
「中国からワクチン供給を要請されたらどうするのですか」
「友好国への供給が最優先だ。このウイルスを地球に持ち込んだ責任を中国に取らせる。ワクチン供給の前に中国は滅亡する」受話器の向こうでブラウン大統領の高笑いがいつまでも続いた。
Eからの訪問者 @Blueeagle
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