第26話 国籍
江角首相はしんかい6500から届いたばかりのビデオを再生していた。首相官邸執務室に同席しているのは腹心の中路首相補佐官だけだった。
「これほど明確な証拠はないな」魚雷で破壊され、大きく開いた船殻の穴の中で漂っていたのは中国人民解放軍海軍の士官だった。士官が身につけている軍服の肩章と徽章が沈没した潜水艦の国籍を証明していた。
「首相、ブラウン大統領にコンタクト取りましょうか」江角はすぐには答えず、数分間苦渋の表情を浮かべていた。こんな表情を見るのは中路は初めてだった。
「アルビン号が明日には現場海域に到着します。米軍もすぐに沈没船を発見すると思います」江角は決意を固めたようだった。
「ブラウン大統領は潜水艦が中国のものだという証拠を求めている。そして、最初に攻撃したのが中国であることを国連安全保障理事会で全世界に公表した後で戦争を始める気だ。米国は中国を叩くタイミングをずっと探していた」
「米国は宣戦布告すると思うのですか」「日本はこのままでは核戦争に巻き込まれる。中路、我が国が沈没した潜水艦の国籍の証拠を握っていることを中国側に密かに知らせるのに最適の人物は誰だと思う」
「思い当たるのはひとりだけです」「そうだな。俺もそう思う。すぐに首相官邸に来るよう連絡してくれ」
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