第4話 封鎖(2日目)

 宮島隊長の発したバイオセーフティレベル4への対応は現場海域の封鎖を意味した。重篤な症状を引き起こすこの疫病の正体と感染力が判明するまでは、封鎖海域からは誰も出ることが許されない。唯一のの例外は細菌戦用に開発された密閉カプセルに収納された遺体袋だった。念には念を入れて、密閉カプセルはヘリに積み込む前に3回消毒された。

 SH-60Kヘリコプターは埼玉県の陸上自衛隊化学学校のヘリポートに着陸した。ここには公表されていないバイオセーフティレベル4の病原体を扱うことができるBSL-4の施設があった。

 密閉カプセルは、慎重にBSL-4に運び込まれた。密閉カプセルはロボットハンドで開閉された。遺体を調べるのは笠原美夜子上席研究員だった。遺体袋を開いた瞬間に異常な事態が急激に進行していることを笠原は悟った。露わになった骨は黒く変色し、元が判別できない肉塊が残っているだけだった。笠原は手術支援ロボット「ダヴィンチXi」を使って、残った肉塊を切り取り試験容器に入れた。

 笠原は次に骨の一部を切り取ることにした。鎖骨の先端部分に鋭利なメスが触れた途端、骨はまるでバターのようにスッパリと切れた。分厚いガラスごしに作業の様子を見ていた山科一等陸佐はいつになく重い口調で話し始めた。

「笠原上席研究員、本件は最重要案件に指定された。人体に重篤の症状を引き起こしている物の正体を明らかにすること。そして、感染の拡大を止める方法を見つけることだ。君はリーダーとして、この研究所のすべてのリソースを最優先で使える権限が与えられた」

「すべてのリソースということは人員も機材もすべてということですか」

「そのとおりだ。24時間体制で取り組む」全権を与えられた笠原は試験容器の分析を担当する研究員を次々に指名していった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る