別の人間、同じ人間
「ふうん、僕があのとき帰ってくる前にそんなことがね……」
俺が一通り話し終えると、昇太がぼんやり上を眺めながら答えた。
ちなみにあのとき、昇太はその直後に帰ってきている。
あろうことか瑠美さんも、俺らが双子の兄弟だと美沙さん美菜さんに言っておらず、制服のブレザー姿で入ってきた昇太と俺を見比べて、色々察するのである。
そしてその後帰ってきた父さんと瑠美さんを問い詰め、反省の言葉を引き出して、その日は終わった。
その後も、一切を報告した陸上部のチームメイトに散々からかわれたりとかあるのだが……
「……で、結局何なの? 美沙さん美菜さんは、まるで昔の僕と修也みたいだって言いたいの?」
「そう……なのかな……」
俺と昇太を、はっきりと趣味嗜好が異なる、全く別の人間として初めて認識したのはいつだっただろう。
小学校の作文コンクールで昇太が表彰されたときだろうか。
運動会で転んだ昇太の手を引っ張ってやったときだろうか。
昇太が床屋へ行くのを嫌がって髪を伸ばし始めた頃だろうか。
どれにしろ、気づいたら昇太の考えることは、予想して理解することはできても、無意識的にわかることは無くなった。
別に昔はそうだったという自信は無いんだけど。
美沙さん美菜さんは違うんだろう。
こうして同居が始まってから、二人一緒にいるときの方がほとんどだ。
姉妹の自室の中まではわからないが、風呂も一緒だし、買い出しに行くときも、どうも分担というものをしている様子がない。
必ず二人は、同じ作業をしている。それが当たり前だと言わんばかりに。
「別にそれが良い悪いの話でもないだろう」
「当然だ。けど……そういうものなのかな」
昇太の言う通り、俺ら兄弟の生き方に問題があるとかは思わない。けど……
「僕らがどうこう言えるものでもないさ。……修也は、僕ら以外で双子の人に会ったことあるのか?」
「……無いな」
「だろうな。僕もそうだ。――なら、美沙さん美菜さんは貴重なサンプルだよ。あるいは彼女たちを観察すれば、僕らの生活のヒントが得られるかもしれない」
人を実験対象みたいに言うんじゃない。
とは言いつつ、言わんとすることはちょっとわかる。
「そういえば、これ聞いてなかったな。……美沙さんと美菜さんは、部活ってどうするの?」
昇太の呼びかけに、姉妹が同時に振り向く。
――瑠美さんと姉妹は、こことは違う市から引っ越してきた。
公立の中学校に通ってた二人は、当然転校することになって。
同じ家から通うんだから、当然同じ学校に行くわけで。
……すなわち、四月から二人とは、学校でも顔を合わせることになるのだ。
ついでに言うと、俺らの中学校はひと学年3クラスしかないので、多分どっちか一人とは同じクラスである。
こんな可愛い二人が学校にも入ってきたら、間違いなく学年の男子共の人気をさらって行くだろう。
というか、学校でどんな顔して二人に会えばいいのだろうか?
昇太に会うのとはわけが違う。男女の差がでかすぎる。
クラスの女子相手にいちいちどう思うか、どう思われるかなんて考えたこともない。
学校で一緒にいる女子も、会うのは学校関連の場所だけだ。
もし気まずくなったとしても、俺は家に帰れば気持ちをリセットできる。
それは向こうも同じだ。
そして学校以外で特段仲の良い女子もいないので、女子の感情を必要以上に気にすることもない。
でも美沙さんと美菜さんは、家に帰っても、むしろ家のときの方が長時間顔を合わせるのだ。
年の近い女子が四六時中一緒にいる……思春期男子にとってこの環境は、あまりにも難関だ。
「部活は、前と同じのを続けようかなって思ってる。美沙は、引き続き陸上部でマネージャー?」
「どうしようかな。まあ、前のところは男子が5,6人ぐらいしかいなかったから、あんまり参考にはならないかもだけど」
「お、そうなのか。俺も陸上部だけど、規模的にはうちも男子だけだから大差ないよ」
美沙さん……まじか。思わず動揺してしまうのを抑え、言葉を返す。
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