ふたごとふたこと 〜双子の兄弟、義理の妹が双子だった〜
しぎ
第一話 双子と双子、ひとつ屋根の下で暮らす
ささいなことじゃない違和感
――双子というのは、時々本当にシンクロすることがあるらしい。
今目の前にいる、可愛くて美人な、俺と同じ13歳の双子の姉妹も、きっとシンクロしたのだろう。
「えっ!?」
「えっ!?」
大きな瞳に、目立たない小さな口――何度見ても可愛い、そして見分けのつかない二人は箸を持ったまま、同じ顔で驚いて、動きを止めた。心底びっくりした、というのが出会って一週間に満たない俺でもわかる。
双子は互いに考えてることがわかる、とかよく言うけど、それはもう生まれたときからずっと一緒にいるんだから、ある程度分かってむしろ当然じゃないか、とさえ思う。
同じ屋根の下にいる兄弟姉妹じゃなくても、付き合いが長い幼馴染とかなら、それぐらいあるだろう。
ここでいうシンクロというのは、そういう分かるとかいう次元じゃなくて、文字通り反射的に――しばらく何も食べていないとお腹が空くとか、そのレベルで――同じ行動を取るということらしい。まるでそういうものだ、と言わんばかりに。
今のこの二人がまさにそうだ。
「えって……えっ?」
そして、彼女たちが驚いたことに俺は驚いて、声が出る。
スプーンで茶碗からご飯を運んでいた手を止める。
中学生四人しかいない夕飯の食卓の風景が、一瞬沈黙する。
「まあ……やっぱしこうなっちゃうか……」
次に口を開いたのは、隣に座る俺の双子の弟だった。
あいにく――同じ双子でも――今俺には、こいつの考えてることがわからない。
「修也。美沙さん。美菜さん。これは、僕らが共同生活していく上で、必要な衝突なんだ。……ああいや、衝突って言い方はまずいのかな」
我が弟……昇太はゆっくりと語りだした。
きっとこの状況をなんとなく予期していたのだろう。自分の茶碗には一切手を付けていない。
「なんだよ急に」
ついそう言ってしまったが、こういう時大抵昇太は正しいことを言う。
……それこそ、人生で最も長い付き合いなんだから、分かる。
本当はそれと同じぐらいに、彼女たちのことも分かっていかなきゃいけないはずなのだ。
出会って一週間足らずだが、これから家族としてやっていかなきゃいけないのだから。
***
彼女たちの名前は、双子の姉、
初めて出会ったのは、ほんの数日前の3月末。中学一年の3学期終業式があった、その次の日。
俺たちとの関係は、再婚する親の連れ子同士。そして当然のことながら、同居することになる。
そしてそして、とうの親たちは、これからも共働きでがんがん働くと言っている。夜遅くまで帰ってこない日がたくさんあるから、家事もどんどんお願いするという。
いや、俺らのために仕事をしてくれるのはもちろんありがたい。
だけど、出会ったばかりの人とひとつ屋根の下で過ごすこちらの気持ちも考えてほしい。
毎日同い年の女子二人となんて、緊張しっぱなしだ。それに……
双子の兄、
双子の弟、
俺たち兄弟は全く家事ができない。なんの自慢でも無いけど。
よって申し訳ないのだが、普段の家のことは美沙さんと美菜さんに現状任せっぱなしである。
さほど広くはない、東京郊外のごく普通の一軒家。
元々は俺たち兄弟と父さんが住んでいた家だ。
「ここは修也君と昇太君の家だから」
そう言って二人は俺たちの分まで洗濯や料理をしてくれるが、ここは美沙さんと美菜さんの家にもなったのだ。
四人で協力するのが、本来あるべき姿なはずなのだ。
――と、理想を述べることはできるが、現実はそう簡単じゃないらしい。
男女の差がある?
それだけじゃないようだ。今だって――
***
「なんだよ急に」
「えっとね……」
俺の言葉に、昇太は自分のスプーンをトントンと指で叩く。思案しているらしい。
今は夕食時だ。今日は美沙さん美菜さんがクリームシチューを作ってくれた。
現在、料理はほぼ二人に任せてしまっている。申し訳ないが……
今はどういう状況かというと、食卓に四人で座り、いただきますをして、俺がスプーンで茶碗の中の炊きたてご飯をシチューに入れようとしたところだ。
それだけのことをしただけなのに、なぜか驚かれている。
姉妹がそもそも茶碗にご飯を盛った時点で違和感はあった。どうせ一緒に食べるのに。
でも、ささいなことだな、と思った。
ところが、この姉妹にとって、これはささいなことではないらしい。
「ねえ昇太君……」
「あの……修也君は、いつもそうしてるの……?」
目の前の二人が困惑した表情で喋る。
同じ顔に、同じワンピースタイプの私服。同じ長さのセミロングの黒髪が、動くたびに同じように揺れる。
本当に、何が意外だったのだろうか?
いや、紛れもなく俺の行動に対してのものなのだろうが。なぜ?
「ああ……うん。僕らの母さんがいた頃から河井家ではずっとこうだったからねえ……シチューはご飯にかけて食べるものだった。僕も修也も、それをなんの疑いもなく食べてきた」
昇太が答える。
やれやれと言わんばかりに、少し肩を落とす。
短髪の俺と違って、女子みたいに伸びた髪がわずかに動く。
「……そうじゃないのか?」
「僕も初めて知った時は驚いたけどね。どうやら、世の中にはシチューというのはご飯のおかずで、分けて食べるものと考えている人たちがいるらしいんだ。しかも相当な数」
「えっ……えっ?」
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