第25話 暗闇ノ中ヘ➁

「何の話?」


 いつも興味無さそうにしている京香さんが珍しく反応した。それに続き、南姉妹や夜、白馬くんに美和くんまでもがそれはどういうことだと未来くんを責めたてた。

 転校してきてから今日まではとても短い時間だったが、俺は全員とではないがある程度、少しの信頼関係を築くことができていたようだ。


「黒板を借りて時系列を少し整理させてもらうよ。」


 未来くんは黒板に白チョークで直線を引っ張り、厄災に関する主な出来事を書き出した。



・1年秋、幽夏死亡(レイナと真白はこの日の記憶を消失&クラスに来れなくなる)。


・その直後、安土ほたるが委員長に儀式のことを提案&副委員長が「安土姫ノ神」の本をみんなに説明し、クラス全員に協力をお願いする。


・「安土姫ノ神」を信じる者、そうでない者でクラスに対立が起きる(儀式を始めてから1年の終わりまで、死者は1人も出なかった)。


・2年春、クラスに出雲彼方が転校してくる。


・真司死亡。


・今朝、委員長と副委員長死亡(真白の撮影していた動画により、厄災は真なるものと判断した)。



「つまり、真司くん死亡と今朝の間で、何かが変わったということだ。俺はソレが出雲彼方の転校によるものだと思っている」

「あ? 賢人、自分でそんな時系列まとめといて何言ってる? 彼方が来たのは真司が死ぬ前だろ。その間じゃねぇ」

「それはこれを見てほしいんだよ美和くん。2年3組の学級日誌。俺と弥生くんが毎日交互でつけていたものだ。真司くんが死んだ日の次の日、出雲彼方の名簿が正式に登録されている。これが正式な転校日と捉えてもいい」


 つまり――。



・真司死亡。


(・出雲彼方が2年3組の生徒として正式に登録される。)


・委員長と副委員長死亡。



 未来くんはそのように書き直した。


「――――っ」


 ――こういうとき。俺自身が大きな声を出して違うと言わなければならないのだろう。俺はこうやって今も生きてる、普通に訳あって転校してきただけだと。だが、俺は何も口に出せなかった。それは、未来くんの理論の筋が通り過ぎたものだったためである。


「……私の儀式は生に混じった死者を、他の死者を出さずに成立させるために私が死者の肩代わりをする、というものだ。簡単に言えば1:1交換……出雲彼方という新たな生に混じる死者が現れた。だから、儀式が通じなくなった、と言いたいの?」


 儀式のルールでこれまで一言も喋らなかった安土さんも今回ばかりは黙っていなかった。


「そうだ」

「……出雲彼方が既に死んでいるという証拠は?」

「ないよ」


「「なら、その話は無しだな」」


 凪沙たちが未来くんにはっきりと言ってくれた。


「他に考えが? 厄災を止める方法は?」

「既に死んでいるヤツが誰なのかをちゃんと見つける。そしてそいつを供養してやる。ついでに言うともう安土ほたるの儀式は中止にしろ。俺たちは仲間だ。誰かの犠牲の上で成り立つ平和なんていらねぇ……綺麗ごとかもしれないがな」

「はぁ……時間はないぞ?」

「分かっている」


 そのまま今日のクラス会議は指針があやふやなまま幕を閉じた。


 俺は、帰り道がたまたま一緒になった凪沙に「ありがとう」と1つお礼を言った。自分のせいでまたしてもクラスの意思が分かれかけてしまったことには「ごめんなさい」だが、シンプルに自分を庇ってくれたことに俺は、真っ先に感謝を伝えたかったのだ。


「賢人は自分が思ったことを包み隠さずに言う。悪気はないんだ……気にしすぎるなよ」

「うん、それはわかってるよ。でも、正直さっきは何も考えられなかったよ……反論もできなかった」

「安心しろ、お前は死んでなんかいない。少なくともさっき彼方の代わりに反論していた奴らはそう思っているだろう。そして……私と夜が初めて心を許した友人……だからな」

「あぁ……ありがとう……!」


 厄災……クラスに現在紛れこんでいる死者が2人いて、それが誰なのか判別できないため、起きた事実から未来くんはそのうちの1人を出雲彼方だと疑った。

 これらの現状を打破するには、やはり、死者と生者を識別できるナニカを確立しなければならないというわけだ。


「どうすれば……3組に紛れ込んだ死者2人を探せるかな?」

「私と夜や白馬は乱暴な手段しか思いつかない……。さくらに聞いてみたらどうだ? 最近修人と2人きりでこそこそと何かを探っていたからな」

「あぁ~儀式人形だよ。ほら、あの本の最後の絵にも描いてあったでしょ?」

「なるほど。それは考察の余地がありそうだな」

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