012.レアネームドモンスターとレアドロップ②

『それじゃあみなさん、もうすぐ時間ですので準備をお願いしますー!』


アイテムの拡声器で拡張されたあたしの声が、夜の砂漠によく響く。


言い出しっぺの法則で進行はあたしが仕切っている。


誰かに頼んでもよかったんだけど、そもそもそんな都合よく知り合いがいるわけでもなしに、赤の他人にわざわざお願いするくらいなら自分で雑に仕切った方が楽だななんて結論になったのだ。


リサでも呼んどけばよかったんだけど、わざわざエンドプレイヤーを呼び出すほど超うま味なコンテンツって訳でもなかったし。


あとノゾミちゃんたちとリサを会わせて、はいよろしくって紹介するのがめんどくさかったのもある。


進行は注目されるけど、やること自体は先人たちから受け継がれてきたものがあるから手間もないしね。


時間の設定、直前になったら告知、あとパーティー斡旋だ。


『ソロだと貢献度が足りなくて報酬ランクが一番上までいかないかもしれないので、パーティー組みたい方は手を挙げて近くの人とテキトーに組んでくださいねー』


貢献度というのはネームド倒すのにどれだけ頑張ったかという度合いで、これによって報酬の豪華さが決まる。


とはいえ数人で組んで普通に殴ってれば自然と最高ランクは取れるくらいに設定されているのでそこまで必死になる必要もない。


事前にあたしもノゾミちゃんたちとパーティーを組んでおいた。


「なんだか緊張してみました」


拡声器を下ろしてノゾミちゃんの顔を見ると、言葉の通りにちょっと緊張している感じだ。


「あのネームドはそんなに強くないから気楽に戦えば大丈夫だよ。レベルシンクでみんな同じレベルになるから高レベルなら楽できるってわけでもないけど」


「そうなんですね」


とアリスちゃんは頷きながらほどよくリラックスしているように見える。


「アイさん……、今日は黒魔なんですね……」


「うん、クロちゃんとお揃いだね」


「その杖……、かっこいいです……」


「これは特殊コンテンツで作れる杖だね。ちょっと大変だけど作れるレベルまで上がったらまた教えてあげるね」


「お願いします……」


ぺこりと頭を下げたクロちゃんは帽子がずれそうになって慌てて抑える。


はー、かわいい。


「ネームドは大人数で戦う分、近接だとごちゃっとしてめんどくさいから遠距離に着替える人が多いの」


「なるほど、だから黒魔なんですね」


勉強になったという顔のアリスちゃん。


「遠距離で殴れて一番火力が出るのが黒魔だからね」


全ジョブ使えるならその場面場面に一番向いてるジョブを使うのは自然な選択だ。


「あの、私はどうしたら……」


この中で唯一近接ジョブのノゾミちゃんが、いつぞやと同じように不安そうな表情をするので、笑顔を作ってぐっとサムズアップする。


「がんばって!」


「またですかー!?」


いつぞやのIDボスに続いて嘆くノゾミちゃんには悪いけど、特に解決策はないので頑張ってもらおう。


早くも彼女に不憫属性が付与されてきている気がしなくもないが見なかったことにしておいた。


まあ遠距離が楽なだけで、近接が大変すぎるってこともないから大丈夫だと思うけどね。


なんて話しているうちに時間が目前となったので、再びアナウンスを始める。


『10…、9…、8…、7…』


システムのカウントダウンはネームド戦では流せないので、あたしの読み上げに合わせて、ネームドの探知範囲に引っかからないギリギリを狙って、じりじりと周囲の円陣が狭くなっていく。


『3…、2…、1…、攻撃開始ー!』


うおおおおおお!!!


夜の砂漠に地鳴りのような雄たけびが響いた。


あたしは女子ですけどね。




『みなさん、おつかれさまでーす』


ゴールデンキマイラの盗伐が終了して、参加していた人たちが近くの人と挨拶をしている。


ライドを出してそのまま帰ろうとする人、クリアランクと報酬のドロップで盛り上がってる人、結局キャンプファイヤーの近くで寝たままだった知り合いを起こしている人、二次会を始めようとする人まで様々だ。


「三人とも、おつかれさま」


「おつかれさまです」


三人が揃ってペコリとお辞儀をする。


あたしたちのパーティーも無事に最高ランクを取れたので一安心。


システムログで拾得品を見ると、ゴールドが直で20万ほど、あとは素材が全部売れば追加10万くらいになるだろう。


素材は見た目装備とか、ハウジングアイテムのクラフトに使ったりするからそこそこの需要があったりする。


報酬は多少のバラツキがあるんだけど多分三人も総合すれば似たような報酬具合になるはずなので、これでプレイヤーホームを買う足しになるかな。


なんて説明をみんなにすると、アリスちゃんが自分のシステムウィンドウを弄ってからこちらを見た。


「アイさん、これってなんですか」


んーん?


ある種の予感を感じつつ彼女の横に並んでシステムウィンドウに表示されるアイテム欄を覗く。


【キマイラテール】


レアドロップじゃーん!


表情には出さずに内心で叫ぶあたし。


どうせなら発見者のあたしに落としなさいよと既に光の粒子になって消えかけているキマイラに文句を言いたくなるが、そんなことしてもしょうがないので諦めた。


「アリスちゃんおめでと、これレアドロップだよ」


「そうなんですか」


「具体的に言うと300万ゴールド」


「えっっっ!?」


まあ実際売るかどうかはアリスちゃんが決めることだけど、売れば家を買うのに大分近づくのは間違いない。


キマイラテール自体は蛇の尻尾を模したアクセサリーで性能的に見るところはなく、ぶっちゃけカワイイとかカッコイイとかって感じでもない。


なんていっても普通に蛇だしね。


たまにチロチロって舌出してるし。


ただしレアドロップなのと、意識すると尻尾を動かせるという特徴と、あと一周回ってその見た目が一部の人間にウケてるって理由で需要はあったりする。


動かせるって言っても見た目が面白いだけで攻略に役立つとかじゃないんだけど。


暇とゴールドをもて余したプレイヤーが、レアアイテムを身につけて金持ちアピールを始めるのはどのネトゲでも一緒ね。


「でも本当にそんなにするんですか?」


という独特な見た目のキマイラテールを見たアリスちゃんのセリフは、見た目以外の付加価値要素を知らなければもっともな疑問。


帰ってバザーを確認すれば一発なんだけど、折角だからと思い付く。


『みなさーん』


再び拡声器を使うと視線がこちらに集まる。


さっきまで仕切ってたから怪訝な視線は向けられなかくて良かった。


『レアドロの尻尾落ちた人いますかー?』


あたしが質問しながら手を挙げると、釣られてアリスちゃんだけが手を挙げて自然に注目が集まる。


つまり、ここにまだ残ってる数十人超の集団で一人しか拾えていないくらいのレアアイテムってことだった。


そんなラッキーガールなアリスちゃんが、皆に囲まれる。


「えー、すごい!」


「おめでとー!」


「ねえ、ちょっと装備して見せて!」


「これ動くってほんとかな?」


「うわ、キモッ」


「キモくはないでしょ、いややっぱキモいわ」


「キモいけど欲しいかも~」


「触っていい? ねえ触っていい??」


催促されてキマイラテールを試着したアリスちゃんが、試しに尻尾の蛇の頭をくいっと持ち上げるとわっと歓声が上がる。


少し離れた所でノゾミちゃんとクロちゃんと並んでその様子を見ていいるあたしは満足の結果だった。


「アリスちゃん人気だね」


本人が女子なのと物がアクセサリーなので囲いはだいたい女性キャラだけど。


「羨ましいです!」


ネトゲーマーはレアドロゲットして自慢するのが大好きなので、逆説的にレアドロゲットしたプレイヤーは全力でお祝いしてくる。


そうすることで、自分がゲットした時も自然にお祝いしてもらえるというサイクルが形成されているのだ。


「そういえば、あれ売れば目標金額に届くんじゃない?」


「そうかもです。でもお金出すなら三人で三等分した方がいいですよね」


「先に多目に出してもらって、後で返してもいいと思うよ」


「なるほどー」


ゲーム内のみの関係だとトラブルの引き金になりそうなやり取りはなるべく減らして予防した方がベターだけど、リアフレの三人なら大丈夫だろう。タブンネ。


あれ、よく考えたら三人がリアフレなのはあたしの推測で本人たちからは聞いてないんだっけ?


ま、いっか。


「まあでも売るかは本人の意思次第かな」


あたしなら即売るけど、折角の初レアドロップは記念として手元に残して自分で使いたいなんて意見もあるかもしれない。


それはどちらが正解とかでもなくプレイスタイルの差だけど、目先のゴールドより思い出の方が大切って意見は理解できる。


あたしなら即売るけど。


「あとでアリスに聞いてみます」


「うん、それがいいと思う」


遠巻きにアリスちゃんを眺めながら、そんな結論で落ち着いた。




それからしばらくして、解放されたアリスちゃんが戻ってくる。


「おかえりアリスちゃん」


「疲れました……」


「あははっ」


ネトゲ特有のノリとそのノリのあしらい方を知らない彼女は若干ぐったりしてて笑ってしまった。


「それはそれとしておめでと」


「ありがとうございます」


「ちょっとあたしも触っていい?」


「ちょっとだけなら」


ということで、彼女の後ろにまわってしゃがみ込む。


「噛まれても大丈夫かな?」


カッと開いてる口に指を挿れてみると、歯の感触はあるけど当然痛みはない。


でもはむはむされてるような緩い圧迫感はある、かな?


「んっ、ちょっとくすぐったいです」


「触られてる部分に感触がある感じ? それとも尻尾の付け根だけ?」


「前者ですね」


「へー」


実際存在しない器官がどんな感覚になるのかはちょっと気になる。


そもそもこのゲームのキャラクター自体が架空のものだし、猫耳族とかもいるから技術的には普通に可能なんだろうけど。


「ぎゅって掴んだらどんな感じかな?」


「やらないでくださいね?」


「ちょっとだけなら……、だめ?」


「……、やっぱり駄目です」


「そっかー」


本人NGなら諦めよう。


代わりに今度自分で買うかリサに買わせて試してみようかな。


首を捻ってこちらを見ながらそわそわしてるアリスちゃんはかわいかったけどその様子を弄るのは性格が悪いかなと思ったのでスルーしてよいしょと立ち上がる。


「それじゃ、あたしたちも解散にしよっか」


「はい、今日はありがとうございました」


「ありがとうございました」


「ました……」


三人がめいめいにお辞儀をしてくるので手を振って応える。


「それじゃあまたねー」


ライドに乗ってからテレポートを実行して、三人に見送られながらあたしはマイホームへと帰った。


たまにはこういうMMOっぽいイベントも楽しいかな。




☆本日の成果:フレンドリスト+2――。

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