第5話 もしや海では

(おかしい。セラティーアが来ない)


 今日は外廷を案内しようと待ち合わせていた。


 王の私的空間でありその家族が暮らす内廷、そして国政の場であり、来訪者の多い外廷。

 ハルオーンの王宮はその二つの空間より、構成されている。

 基本、セラが外廷に入ることはないが、王宮の全容は知っておいた方が良いだろう。

 そう考え、人少なく儀式のない日を選んで、政務の場を見せてやるつもりだった。


 律儀な姫である。

 連絡なく遅れることなどない。


(何かあったのか?)


 心配になり席を立ったアキムは、その後、姫が王宮内のどこにもいないと報告を受け青褪あおざめた。

 どうやらセラと最後に会ったのは、マリエラだと言う。


(もしやマリエラとの関係ことを誤解した?)

 

 だとしたら早急に誤解を解かなくては!!


 あわてて姫を探すよう号令し、自らも探す中。

 ハッと気づいて、馬を出させた。


(まさか、海か!?)


 彼女は海が好きだと言っていた。

 何度も海が見たい、海に行きたいと言っていた。


 水中で煌めく魚の群、波に揺れる海草、こっそり隠れてるタコやウツボ。


 聞くたびに彼女の見ている海がいかに素晴らしいかを知り、ともに泳いでいるかのような錯覚を覚えた。


 けれど海は。

 大切な人を奪う。


 セラまで奪われたくない。


 とっくにセラに心を鷲掴みにされていたアキムは、セラを離したくない一心いっしんから、彼女の願いを蹴り続けてきた。



 なぜ許可してやらなかった。


 ひとりで見知らぬ国に来た。

 気丈にふるまうが、繊細な女性ひとだと気づいていたはずだ。


 彼女はギリギリだったのだ。


 ほんの些細なきっかけで、飛び出してしまう程に。


 頼む、無事で。無事でてくれ。

  



 そうして馬を駆ったアキムが目にしたのは、波間に髪揺らすセラの姿だった。

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