9 皇帝陛下のお願い④横断予定ルートの奇妙な一点

「そうなんだよ」


 皇帝はぱん、とレンテと手を叩き合った。


「陛下もしかして、鉄道もの凄く! 大好きなんですか……」


 それまでこの講釈に黙っていたマティッダがぼそっと口をはさみ――アルパカタもやや顔を引きつらせていた。


「いやだって、鉄道も、機関車も、凄いですよね?」

「そうだよ! 私だってあれを最初に見た時の感動ときたら……!」


 皇帝とレンテは二人して思い切り感動にむせび、ビートも「解らなくはない」と腕組みをしながらうんうんと頷く。

 馬好きのトイスだけが今一つ、という顔で二人を眺めていた。


「でも鉄道が大好きというおはなしのために私達をわざわざ呼び出したのではないですよね……」


 マティッダの口調が硬い。

 笑顔を作っているのだが、目がまるで笑っていない。

 彼女からしたら、とっとと案件を解決させて家族のもとに戻りたいのだ。

 男達のロマンなど知ったことではない。


「あ、ああ…… そうだな」


 女の押しには弱いのか、皇帝は話を戻すことに決めた様だった。


「まあ軌道の広さについてはまた後でゆっくり話すとして…… まあ、この太い線で描いたルートが、現在調査して、できるだけ平地で、広い鉄路が作りやすいんだ」

「できるだけ、ということはそうでもないところもあると?」


 アルパカタは問いかける。

 その辺りに自分達を使う目的があるのだろうかと。


「いつかは山をくりぬいてのトンネルも考えてはいるが、とりあえずは迂回路からだ。このまっすぐに見える範囲でも、山があれば微妙にそこを避けるのが現在の方針となっている。の、だが」


 来た来た、と皆で待ち構える。


「この一ヶ所」


 皇帝は草原と草原の間、山がところどころ続く地帯を指した。


「この辺りを細かく記した地図がこっちにある」


 二枚目の大きな紙が盤の上に載せられる。


「え」


 誰ともなく声が発せられた。


「何ですかこの地図」

「帝立地理院が作った最新のものなんだが、これ以上記述ができないんだ」

「記述ができないって」


 そういう彼等の目の前にある地図は、とある地点が全くの空白になっていた。

 地理院の作った最新の地図ということなので、等高線も実に細かくびっしりと描かれている。


「地図を作成する際に地理院から派遣される人員はそれなりに居る。信頼できる――というか、それこそ地図を作ること自体に血道を上げている様な者達だ」

「あ、旅好きでもあるんですね」

「わかるかい」

「わかります」


 ビートはにやりと笑った。


「それだけに、彼等は見たものそのものをきっちり記録し、計測し、絵に描きとまあ事細かに上げてきたんだが」


 空白部分に皇帝は指を置く。


「ここに関してだけは皆同様に『どうしてもわからない』と証言したんだ」

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