8 皇帝陛下のお願い③大きな地図に描かれた筋

「さて今回君達に頼みたいのは」


 皇帝はそう言うと、自ら部屋の中央に大きな市松模様の卓を引きだした。


「これは将棋盤でもあるんだよ」


 ほぉ、と皆頷いた。


「そもそもこの『駒の間』というもの自体、我々の父上、先帝陛下によって作られたものだ。実に将棋をお好みになった。と同時に、その名手を集め、様々な軍略を研究された」


 ですよね、という顔でアルパカタとレンテは頷き、残りの三人はそうだったのか! という顔になる。


「まあそれが先帝陛下の方針ということだった訳だが」


 そう言うと、皇帝は卓の上に大きな大陸地図を広げた。

 四隅に水晶の文鎮を置かれたその上にはくねくねとやや太い曲線があちこちに描かれている。

 そしてその中でもひときわ太い、そして真っ直ぐ伸びた線。


「さて君等、これは一体何を示していると思う?」

「現在稼働している鉄道網ですか?」


 レンテがあっさりと答える。


「ご名答」

「だとしたら、その太い一本だけはまだ現在無いもの、と考えられますが」


 他の四人は何のことだろう、という顔になって顔を見合わせる。


「そう、この太い一本を、私の在位期間に通してみたいと思うんだ」

「何と!」


 レンテの表情がぱあっと明るくなった。


「ちょっと待って」


 そこでトイスが手を挙げた。


「レンテお前、凄く陛下の仰ることが解ってる様だけど、俺等にはさっぱりなんだけど…… アルパはちょっとは解るか?」

「私の範囲じゃ何とも。それにそうそう帝都を出ることも無いからこれが路線図ってことも解らなかったし。でも、路線図というのでしたら陛下、この太い一本というのは、帝国全土を横断する列車を通す――通したいとおっしゃるのですか?」

「その通り!」


 ぱちぱちぱち、と皇帝は手を叩く。


「現在の鉄道はこれだけ通っているんだが、これは殆ど民間が作ったものだ」

「ああ、色が違うのはそのせいなのですね。そうか、じゃあこの線と線の間に赤い区切りが入っているのは、つながりが無い、ということ……」

「その通り。困ったことに、鉄道とその駅はあるのだが、うまく繋がらないところが多いのだよ。何故だと思う?」

「あ、俺何となくわかります」


 ビートが手を挙げた。


「え? お前解るの?」

「うん。だって俺あちこち行ってるし」


 冒険家、旅行家と行った肩書きは伊達ではないらしい。


「たとえばこの山の辺りには、幾つかの線が入っているんですが、そもそも最初にこの鉄路を作ったのが、山道の荷物の行き来のためだったらしくって。はじめは馬とか牛が牽く鉄路だったんですよ。で、その後に補強して列車を乗せる様になったんですけど」

「けど?」


 トイスは眉を寄せた。


「そもそもが馬や牛のためだったから、この鉄路、幅が狭いわけ」

「あ、そうか!」


 ぽん、とレンテは手を叩いた。


「つまり、必要とされて作られた時期によって、鉄路の幅が違うから、連結させることができない!」

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