10話 私はシリウス・レナトゥス

レナトゥスはこう言った。

「これが、ある少年の一生だ」


ディスケレは困惑して、質問した。

「この少年にいつ会い、どうしてその意志を継いだのですか?」


「君の想像にはないかもしれないが、彼が私だ。彼の父親と彼は公安に消された。」


ますます困惑してこう言う。

「レナトゥスさん、あなたは現にここにいる、どういうことだ?」


「彼の存在は消えたことになったし、全て抹消されるか、書き換えられた。だが、公安部は予想していなかったことが起きた。新技術が彼を生かした。」


深く考えを巡らせ、質問した。

「そもそも、なぜ公安部に消されることになってしまったのでしょう?」


「父親は新聞記者だった。父親がその当時社会主義運動の取り締まりに関して調査を行っていたところ、情報公開制度で資料を得て、公安部が不正を行っていたことを発見した。そして、その内容をあらゆる手段で公開した。結果、公安部のAIがそれを検知し、処分(殺害)に至った。確かに父親と彼は処分されて、戸籍なども全て抹消された。しかし運が良かった、公安部のAIは最初は父親だけを処分するように指示を出した。しかし、それから7年経ってAI自身が学習データを更新した際に、彼を処分することに決めた。だが彼は死んではいなかった、運のいいことに新型の神経毒は、心臓と臓器をまず蝕むもので、脳は無事だった。これ以上のことを話すことは、彼を助けてくれた人物の特定を防ぐために述べないでおく。彼はその人物に助けられ、脳と両腕を人工体に移し、新しい名前で生きることに決めた。それがシリウス・レナトゥス、この私だ。どうかな、これで私の存在が公安部でさえもマークできていない理由だ。」


私は何も言うことができなかった。これを聞いて、何か言えるだろうか、いや、言えない。


「私は協力してほしいとは言わないし、この事をどうするかは君に委ねよう。別に大丈夫だ、私は復讐などという、暗いことはしない人間だ。ただ問題なのは、次世代に安心で、確実な未来を約束できるか。私が生前、いや彼と言った方がいいだろう。彼が実現したいと思った社会の実現だ。」


何も言えない、決断もできない。


「すまない、このような重大な決断をさせてしまって、とりあえずこの決断は保留にしてしまうのも良い方法だ。『自分が現状選択できないものは先延ばしにしろ』という格言もある、そうしますか?」


私は答えた

「そうします」


そうしているうちに、部屋のドアが開いた。私は驚愕した。「彼女は!」

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