#8 自然の美しさ(3)
ほとんどの季節、あらゆる場所に花がある。
春、夏、秋の花はもちろん、真冬でもあちこちに咲いている。
野原や森や生垣の花、海辺や湖畔の花、山肌を覆っている永遠の雪原の果てまで花がある。
しかも、花の種類は無限にあるといえる。
「水仙は、ツバメが来る前に咲き、
三月の風を美しく受け止める。
スミレは、ぼんやりとした紫色だが、
ジュノーのまぶたやシセリアの息吹より甘い。
淡いプリムローズは、未婚のまま死んでいく、
うららかな太陽の力強さを見る前に、
乙女につきものの病気のために。
大胆なオックスリップ(サクラソウ)と
クラウンインペリアル(ヨウラクユリ)は、
あらゆる種類のユリの中で、
フラワー・ド・ルース(アイリス)もその一つだ」[5]
(※)ジュノー(Juno):ギリシャ神話の女神ヘラ。ローマ神話ではユノ。
(※)シセリア(Cytherea):ギリシャ神話の女神アプロディーテ。ローマ神話ではヴィーナス。
花は、単に目を楽しませてくれるだけでなく、神秘と示唆に満ちている。
まるで魔法にかけられた姫君が、王子が来るのを待っているかのようだ。
ワーズワースは次のように語っている。
「私を最も悩ませる花は、しばしば
涙を流すにはあまりに深く横たわる
思いを与えてくれる」
すべての色、すべての種類の形に、何らかの目的と意味がある。
そして、花も美しいが、葉も自然の美しさをさらに高めてくれる。
北方に生息する樹木は、大きな花をつけない。セイヨウトチノキのような例外もあるが、それでも花は数日しか咲かず、葉は数カ月も持続する。
どの木も、それ自体が絵になる。
節のあるゴツゴツしたオーク(樫の木)はイギリス海軍のシンボルで源だ。ケルト時代のドルイド教で神聖視されていた。力強さを示し、イギリスを代表する木である。
チェスナット(栗の木)は先端の細い美しい木で、豊かな緑と光沢のある葉を持ち、おいしい実をつける。木材としての耐久性は、ウェストミンスター寺院の歴史ある壮麗な屋根によって証明されている。
バーチ(白樺)は木の女王と呼ばれる。羽毛状の葉をつけ、春にはほとんど見えないが、秋には金色の葉に変わる。垂れ下がった小枝は紫がかっていて、銀色の樹皮には黒と白の鮮やかな模様があらわれる。
エルム(ニレの木)は、秋になると美しい黄金色の葉を茂らせる、大きな葉の塊を形成する。
ブラックポプラは、まっすぐに伸びる葉をつける。風が吹くたびに音を立ててざわめき、森では他の多くの木々よりも高くそびえ立っている。
ビーチ(ブナの木)は、春は柔らかな緑に、夏は豊かな緑に、秋には輝く黄金色やオレンジ色に染まり、その色は上品な灰色の枝に映えて、地域を活気づける。さらに、秋には木そのものを彩るだけでなく、根本の草を覆うほど豊かな量の葉をつける。
ブナの魅力がその繊細な灰色の枝に頼っているとしたら、それ以上に美しいのは、スコッチパイン(アカマツ)の赤みがかった深紅色だ。葉の豊かな緑色とのコントラストが魅力的で、葉を隠すのではなくむしろ引き立たせる美しさだ。
緑の尖塔のようなモミの木とともに、冬の森をあたたかくしてくれる。
小さな樹木も忘れてはならない。
緑の葉を茂らせるイチイの木、半透明のつややかな実と色とりどりの葉で秋の森を照らす野生のゲルダーローズ(セイヨウカンボク)、ブリオニア(瓜科の植物)、ブライア(野ばら)、トラベラーズジョイ(クレマチスの一種)、その他たくさんの植物、もっと地味なものも、それぞれが素晴らしい美しさと品格を備えている。まるで森に音楽があふれているかのようで、時には、喜びと感謝の気持ちで心が満たされるに違いない。
「森は歌でいっぱいで、そこに悪を感じる隙間はない」[6]
冬になると森林地帯の美観が落ちるのは確かだが、それでも、葉が茂る季節は見えない繊細な枝ぶりが特別な美しさを持っている。
ときどき、霜や雪が銀のように枝や小枝に積もり、まるで妖精がフェスティバルに備えて魔法をかけたみたいに森を照らす。
私は、リチャード・ジェフリーズと同じようにこう感じている。
「昼でも夜でも、夏でも冬でも、木の下にいると『遠い空が意味する生命の奥深さ』に心が近づいていくのを感じる。理想と純粋な美しさの中にだけある
熱帯地域の森林は、私たちの緯度にある森林とは大きく異なる。
キングズリー(Kingsley)は「無力感、混乱、畏怖、恐怖以外の何物でもない」と表現している。
幹は非常に高くまっすぐで、枝がなく、かなりの高さまで伸びているため、最初は比較的開けているように見える。
例えばブラジルの森では、木は上へ上へと伸び、葉はおそらく100フィート(約30メートル)頭上で、切れ目のない樹冠を形成している。この地では、高いところに森の本当の姿がある。すべてが光に向かって伸びていくようだ。四足動物も、鳥も、爬虫類も、さまざまな種類の植物も、私たちが普段見慣れている木よりもはるかに大きな木に登る。
多くの未開な国で木を崇拝している。
もし、森の中で一人でいるときに木が私に語りかけてきたら、私は驚きよりも喜びと好奇心を感じるだろう。昼の森は神秘的だが、夜の森はさらにそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます