#6 詩(3)
十九世紀末現在、詩人をメーカー(Maker)またはクリエイター(Creator)と呼んでいるが、「吟遊詩人(Bard)」という言葉の起源は疑わしいと思われる。
ヘブライ人は、詩人を「予言者(Seers)」と呼んだ。詩人は、人より多くのことを知覚するだけでなく、人が見落としている多くのことに気づきを与えてくれるからだ。
古代ギリシャ人は、「吟遊詩人(Bard)」または「歌い手(Singer)」と呼んでいた。
詩は、本来なら隠されていたであろう『世界の美』のベールをはがして、身近なものに想像力の輝きと光輪を投げかける。
詩を愛する人が、自然から強烈な喜びを得られないことはない。
自然を愛する人にとって、自然はすべて「目には美しさ、耳には音楽」なのだから。
「自然は、詩人のように、大地を豊かなタペストリーで表現している。気持ちのいい川、実り豊かな木々、甘い香りの花々、他のどんなものでも、これほど愛らしい大地をさらに美しくすることはできない」[12]
もっとも煙の多い都市で、詩人は魔法のように、新鮮な空気と明るい太陽、森や葉や水のささやき、砂浜のさざ波へと私たちを
楽しい夢の中で、人生の苦悩や心配ごとを忘れることができる。
(※)煙の多い都市(the smokiest city):霧の都とも呼ばれるが、十九世紀のロンドンは産業革命の影響で、高濃度の大気汚染「ロンドンスモッグ」に覆われていた。
詩人は、人間のことだけでなくすべての自然について、他の人が持っている以上の真の知識を持っていなければならない。
クラブ・ロビンソン(Crabbe Robinson)によると、ある人がワーズワースの書斎を覗いてみたいと許可を求めたとき、女中は「ここは確かに主人の書斎ですが、あの方は野原で学んでいます」と言ったそうだ。
自然は、詩人の愛に応えてくれる。そう言われるのも不思議ではない。
「それを無駄とは呼ばない
詩人が死んだとき
静かなる自然はその崇拝者を悼み
葬儀を称えると言う」[13]
スウィンバーン(Swinburne)は、ブレイクについて次のように言っている。私は、完全に同意する。
「空と葉、草と水の甘さ——鳥や子供や動物たちの明るい光の生命——は、芸術家の手と心の中の良心と目的によって説明され、生き生きとした、どことなく重厚で誠実で神秘的な愛の感覚によって新鮮に保たれている。春の激しい芽吹き、花の生命と子供らしい力と喜びの輝きに満ちた騒乱は、これまでどんな詩人も画家も与えたことのないものだ。緑の葉、紅潮した手足、燃え上がる雲、熱い毛皮の輝きについて、言葉や形にすることができなかった」
詩を理解するには、ただ眺めたり、急いで読んだり、詩について話したり書いたりするだけでは物足りない。正しい心のあり方を身につけたい。
もちろん、人は動揺したり、悲しんだり、不安になったときに詩を読むだろうが、それはまた別の問題である。
詩のかけがえのない宝物は、またしても、すべての人に開放されている。
最高の本はとても安価だ。ビールやタバコを少し買うだけの値段で、シェイクスピアやミルトンを買うことができるし、一人の人間が一年間に読むことができる量の本を買うこともできる。
また、人間にとっての利点を考える上で、「詩の影響力」を過去や現在に限定してはならない。マシュー・アーノルド(Matthew Arnold)は、詩の未来について、次のように語っている。
「詩の未来は計り知れない。なぜなら、高い運命にふさわしい詩は、時が経つにほど、私たちの中に確かな居場所を見つけるからだ。しかし、詩にとっては理念(Idea)がすべてだ。それ以外は幻想の世界、神の幻想である。詩は、理念に情緒(Emotion)を結びつける。理念は事実(Fact)である。現在、私たちの宗教の最も強力な部分は、無意識にある『詩的な要素』である。私たちは詩を価値あるものとして、これまで以上に高く評価すべきだ。これまで以上に高い用途があり、もっと高い運命を求めなければならない」
詩は、「最も幸福で優れた精神の、最も幸福な瞬間」の記録だとよく言われている。詩は人生の光であり、まさに「永遠の真実に表現された人生のイメージ」だ。世界で最も優れていて、最も美しいものすべてを不滅にする。
「私たちの存在という神秘を覆い隠している、馴れ合いという皮膜を、私たちの内面から取り除く。それは、知識の中心であり周囲である」
そして詩人は、「未来が現在に投げかける巨大な影の鏡」である。
詩は、事実上、人生を長くする。もし、時間が分単位ではなく、理念の連続・継承として実現されるなら、詩は私たちに時間を生み出す。
詩は「すべての知識の息吹と精緻な精神」である。時間にも空間にも縛られず、人間の精神の中で生きている。
「人生とは、詩を実行に移すものである」
この言葉以上に、素晴らしい賛辞を贈ることができるだろう。
【原作の脚注】
[1] See Lessing’s Laocooen.
[2] Arnold.
[3] Coleridge.
[4] Horace.
[5] Wordsworth.
[6] Plato.
[7] Bacon.
[8] Shakespeare.
[9] St. Hailare.
[10] Arnold.
[11] Plato styles poets the sons and interpreters of the gods.
[12] Sydney, Defence of Poetry.
[13] Scott.
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