#3 健康(3)

 都市に住んでいる人たちは、外で過ごす時間を絶対に無駄にしないというルールを決めているかもしれない。

 新鮮な空気は、信じられないほど「美点の中心」なのだ。

 旧家とは、あらゆる意味で、都市の家柄ではなく田舎の家柄である。

 野ウサギやヤマウズラやキツネよりも、ホメロスやプラトンやシェイクスピアを好む人は、人間の本性に必要不可欠なこの「偉大な要素」を無視する誘惑に駆られないように注意しなければならない。


 ほとんどのイギリス人は野外が好きで、昔の巨匠を鑑賞するよりクリケットやゴルフの試合を楽しむ人が多いのも事実だろう。

 イギリス人の性格にスポーツへの愛が刻まれている。赤顔王ウィリアム二世は「彼はまるで父親のように大鹿を愛している」と言われた。


 ある東洋人の旅行者は、クリケットの試合を観戦したとき、プレーヤーの多くが金持ちだと聞いてとても驚いたと言われている。彼は、「なぜ貧しい人にお金を払ってやらせないのか」と尋ねた。


 ワーズワースは、毎日外出することを習慣にしていて、「天気に相談できないように、医者に相談する必要はない」と語っていた。


 窓から天気を見ると、いつも実際よりも激しく降っているように見える。

 冬であっても、暖炉のそばから眺めていると、風景は元気がなく荒涼として見えることが多いが、それでも、嵐を恐れずに外に出たほうがずっといい。

 外に出ると、土の感触と新鮮な空気の息吹が、新しい生命とエネルギーを与えてくれる。人間も木と同じように空気を吸って生きている。


 下り坂を疾走した後や、川でひと漕ぎした後、船旅の後、海辺や森の中を歩いた後に——


「上空の青、空中の音楽、大地に咲く花々」[6]


 アンリ四世と同じように「私はポンヌフ並みに元気だ」と言える気がする。



(※)アンリ四世とポンヌフ:セーヌ川にかかる橋ポンヌフの二つのアーチの間にある青銅の騎士像は、元はと言えばアンリ四世がモデルだったが、フランス革命期に破壊。一八一八年に再建された。



 ローマの格言にある「立って学べないことは子供に教えるべきではない」は極端の極みだが、少年が自分の足で学ぶことができるのはゲーム(試合・遊戯)だけであるかのように振舞えば、間違いなく、別の極みに陥る。


 少年たちのゲームへの愛は健康的な本能だ。

 いくつかの優れた学校では行き過ぎている面もあるが、クリケット、サッカー、ボート、ホッケー、水泳、鳥の飼育や巣箱作りは、少年にとって最高の楽しみであるだけでなく、最高の癒しになることは間違いない。


 常に、睡眠を確保できるわけではない。

 重要な決断をしなければならないとき、正しい決断を下すための自然な不安から眠れなくなることがよくある。

 十分な外気を取り入れることは、健康的な睡眠を促すために最も効果的だ。そうすれば、早朝の新鮮な生命を楽しむことができる。まさに 「香る朝のそよ風」である。[7]


「クロライチョウが桟橋で羽繕いをする朝、

 リンネット(小鳥)が輝く寝床を誘惑し、

 あらゆる自然の子供たちは復活する太陽とともに蘇り、

 生命の朝の源泉を感じている」



 エピクテトスは、自らを「死体を引きずる霊魂」と表現した。

 これは恩知らずな表現だと私には思える。たとえそれが虚弱で謙虚な仲間だったとしても、私たちは肉体をもっと大切にすべきだ。


 目は、この世の美と天界の栄光を楽しんではならないのか。

 耳は、友人の声と音楽の喜びを聞いてはならないのか。

 手は、かけがえのない道具をいつでも必要なときに備え、命令を忠実に聞いてくれる。

 足は、人生の最も困難で石だらけの道を、文句ひとつ言わずに支えてくれる。


 適切なケアを行えば、ほとんどの人は素晴らしい健康を享受できるだろう。

 それにしても、私たちの肉体を構成する組織はなんと複雑で素晴らしいことか!


 私たちは、実に恐ろしく、素晴らしく造られている。それはまるで——


「千本の弦を張ったハープが、これほど長く調子を保っているのは普通じゃない」


 肉体組織の驚くべき複雑さを考えると、生きていること自体が奇跡に思える。

 ましてや、無数の器官とプロセスが、毎日、毎年、規則正しく、摩擦もなく継続し、私たちは肉体を持っていることをまったく意識していないのだから。


 その肉体には、複雑で変化に富んだ形をした骨が200以上もあり、そこに異常があったり、傷ついたりすると、当然ながら、私たちの動きに大きな支障をきたすことになる。


 私たちには500以上の筋肉があり、それぞれがほぼ無数の血管によって栄養を与えられ、神経によって調節されている。筋肉の一つである心臓は、一年間に3000万回以上も拍動し、一度停止するとすべてが終了する。


 皮膚には驚くほど多様で複雑な器官がある。

 例えば、200万以上の汗腺があり、体温を調節し、全長10マイルにも及ぶダクトで表皮と連絡を取り合っている。


 何キロも続く動脈と静脈、毛細血管と神経を思い浮かべて欲しい。

 そこには、何百万もの血球があり、それぞれが小さな宇宙の縮図なのだ。


 眼球には、角膜と水晶体、硝子体、房水、脈絡膜があり、網膜で完結する。

 紙一枚ほどの厚さしかないが、九つの層からなり、最も内側は光の波長を直接受け取るとされる錐体細胞と杆体細胞で構成されている。その数は、片眼につき錐体が300万以上、杆体が3000万以上と推定されている。



(※)錐体細胞:明るい場所で感知する視細胞。数は500〜600万個。

(※)杆体細胞:暗い場所で感知する視細胞。数は1億2000万個。



 何よりも素晴らしいのは、脳そのものである。

 マイネルトの計算では、脳梁の灰白質だけで6億個以上の細胞があり、それぞれの細胞は目に見える数千個の原子で構成され、さらにそれぞれの原子は数百万個の分子で構成されている。


 合理的なケアを行えば、ほとんどの人はこの素晴らしい組織を健康な状態に保つことができる。長年にわたって、痛みや不快感を引き起こすことなく老年期まで機能させることができる。


「時間は、心臓(ハート)の上にそっと手を置く

 それを叩くためではなく

 奏者がその振動を和らげるために

 開いた手のひらをハープの上に置くように」



【原作の脚注】


[1] Herrick.

[2] Hamerton.

[3] Hazlitt.

[4] Francis.

[5] Hazlitt.

[6] Trench.

[7] Gray.

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