第4話 悪人たちの嘲笑

電車を乗り継ぎ、事務所の前まで来た。

賑やかな大通りから一本裏道に入っただけで暗く静かだ。

『よし…!やってやる!』

事務所の前で決意を固めたときだった。


「そこのお嬢さん」

いきなり後ろから声をかけられて振り向く。

黒いコートにダーク系のスリーピーススーツ、黒いシャツに白いネクタイをしめた男の人が立っていた。

さっきまで誰もいなかったし、誰かが歩いてきた気配も無かったのに。

「このビルに用事かな?」

「はい……」

長めの前髪を垂らした美形……

でもなにか邪なものを感じる。

自分の奥底から警戒を訴えるシグナルを感じる。

知らないうちに私は半歩さがっていた。

「悪いことは言わない。このビルに入るの、今日は止めた方がいい」

「ど、どうしてですか?」

男の人は答えない。

「大事な用事があるんですけど」

「なら、お気を付けて」

その人が笑を見せたときに背筋がゾクッとした。

「だ、誰です?あなた」

私が聞いても答えずに、男の人は大通りの方へ歩いていった。

ふーっ……

なんだろう?あの人。

私、冷や汗なんかかいてるし……

なんか禍々しい雰囲気を感じたな……


気を取り直して、先日面接をした事務所の階に来るとドアを叩いた。

「はい。どちら様?」

ドアが開き、面接のときにいた若い社員が顔を出す。

「あ…私、この前面接した者ですけど、お話がありまして」

これが千春をはじめ、たくさんの女の子を食い物にしてるクズ野郎の仲間か。

顔を見た瞬間にムカッときたけど、ここは丁寧に話さないと。

「ああ、どうぞどうぞ!社長ー!」

私を招き入れながら社長を呼ぶ。

「ん?なに?」

奥のデスクでパソコンモニターを見ていた社長が、ひょいと顔を出すように私を見た。

「ああ!この前の!どうかした?」

「ちょっと、お話したいことがあって」

「うん。どうぞどうぞ。さあ、座って」

私をドアのそばにある応接スペースに座らせた。

この野郎~!いけしゃあしゃあとしやがって。

「今日はどうかしたのかな?」

社長がにこやかに尋ねてくる。

「動画を抹消してください」

「ん?動画?」

社長の眉がピクっと動いた。

「千春を暴行した動画だよ。あと二度とあの子に関わらないで」

「千春って誰?」

「えっ……覚えてないのかよ!?私たちをこの前、あんたに紹介しただろ!!」

「あー!思い出した!」

社長はパチンと手を叩いた。

その様子があまりにも軽くてふざけていて、私は驚いてしまった。

「ダメだよ。動画は気に入ってるんだから。なあ?おまえら」

社長がふると事務所にいる二人の社員が声を立てて笑った。

なんなんだろう?こいつらは。

「はあ?あんたらなに笑ってんのさ」

「そんな怒るなよ。もっと楽に行こうぜ」

「あんたら、あんなことしといて悪いとか思わないのかよ!?」

ダメだ。

頭がムカついてきた。

「全然。逆に何が悪いんだよ?」

社長はソファーにもたれると持論を展開した。

「おまえらガキは楽して儲かるバイトができる!客は楽しめる!俺たちは趣味のレイプができた上に儲かってウハウハ!みんなハッピーじゃねえか!」

社員がゲラゲラ笑う。

「ふざけんな!!」

思わず私は立ち上がった。

「なにがハッピーだ!脅してやらせてんだろ!千春は自殺未遂までしたんだよ!」

「勝手に自殺する奴のことなんて知るか!」

社長は言い切った。

「それよりおまえ、今から俺たちの相手していけよ。嫌なら千春の動画を世界中にアップするぞ」

「誰がおまえらの相手なんかするかよ!」

もうやるしかない。

「オラ!言うこときけよ!」

社長の一人が私の腕をつかもうとしたとき、バッグから警棒を取り出して手を払った。

「いてっ!!」

「私に触るな!!」

社長は素早くソファーから自分のデスクに移動する。

「こうなったらおまえら打ちのめしてでも動画を削除させてやる」

「いいね~!気の強い奴をやるのは最高なんだよな」

社長が言うと社員二人が私に掴みかかってきた。

「ハイ!」

「ぎゃっ!!」

「ぶげえっ!!」

左右二本の警棒で叩きのめす。

二人の社員は顔面を押さえながら倒れ込んだ。

「なめんなクズども!!」

私が啖呵を切ると社長が笑った。

「ハハハッ!はい、そこまでー!!」

「!!」

見ると社長の手には拳銃が。

「これがオモチャかどうか試してみるか?ん?」

くそっ……

「このガキ…よくもやりやがったな」

「ちくしょう…痛え…」

ふらふらと立ち上がる社員の手にも拳銃が。

「残念だったねー!友達のためにここまで来たけど、結局は俺たちにマワされるかー!ハハハーッ!!」

「ちくしょう……このダニ野郎!!ぶっ殺してやる!!」

「アッハハハハ!!やれるもんなら・や・っ・て・み・な♪」

「ハハハハハ!!」

やる…!!

私はやってやる!!

悪党どもが嘲笑う中、警棒を握る手に力を込めた。











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