無辜の民草。
迷宮内を俺はしゃにむに走っていた。
混乱して出口方向と間違えて逃げ出してしまったのだ。
俺の作戦上、マップなんていらないから下調べなんてしていない。
これ以上進めば迷って死ぬ。
そしてもうすぐスキル効果が切れてしまうことにも気づき、歩を緩め立ち止まる。
「……冗談じゃないぞ」
割とちっさな声で呟いてしまう。
迷宮が初めて。
彼女はそう言っていた。
つまり、レベル1。
そんなやつ、普通は特殊クラスしか入学できない! そして我がクラスにはそんな名前のやつはいない!
つまり、権力者の娘!
それに下位職でもいけねぇんだ! モンスターに見つかると美味しいことに気づかれてしまう! 何せ、俺は撒き餌としては一級品なんだからな!
しかもあの高級品の装備! 奴隷の未来しか見えない!
「あ、いたいた。もー足早いよぉ」
「うひょぉッ!」
なんで俺がわかる?! しかも通り過ぎる時の風圧…本当にレベル1か!? それともこのやべぇ装備のせいか…? 何せアラハナ社の1stブランドだしな…
もう一度スキルを…駄目だ、魔力を温存しなければ…
しかし…探知系の魔道具か…?
そんなの…あるの?
そんなの…そんなの…めっちゃ欲しい!
授業に彩りが生まれる予感!
手を上げても気づいてもらえる期待!
奴隷でも良い…いや待て。
確認が先だ。
「…あの、なんで俺が見える…ですか?」
「んー? なんでって…見えるから? 君おかしなこと聞くね…もしかして魔物? レイス? 折る? 折れるかな?」
なんだこいつ無茶苦茶か!?
「い?! いえ! …何か特殊な魔道具とか…」
「? 魔道具…? ちょっと待ってて。…ふっ!」
バゴォと鳴って…棍棒を…地面に突き刺したぞ…この子…
あ、ああ…たってるぅ…たっちゃってるよぉ。
大っきい棍棒がビキビキにたってるよぉ。
迷宮の床めっさ硬いはずなんだよぉ。
この子絶対下位職じゃないよぉ。
「よっと。これのこと?」
そして彼女がガチャリと籠手を外したら、めっさ綺麗で折れそうなくらいほっそいお手てが出てきた。
そこにキラリと淡く光る指輪がある。
そ、そ、それは願うだけで対の指輪が光るやつぅ! 馬鹿たけぇやつぅ! しかし手ぇ細い…指長え…荒事に向いてねぇ…なのに棍棒が立った…?
こいつやっぱり金持ちの令嬢で…何か高級なサプリでも食べてんのか…?
それにさっき折るって…ああ、祈るだな。
きっとそうだ。そうに決まってる。
「それは、迷子になった、時のやつだ…です…」
「んー? そうなの? あとは無いなあ」
…じゃあなんなんだ…?
スキルか…それとも…いやいや、この学園には来ないだろ…
「ふー、あっつーい〜兜もーいや〜」
「なっ……」
出てきたご尊顔はデラべっぴんだった。
しっとりとした長いウェーブヘアが頬に張り付いていて、デラ色っぽい。
ちなみにデラはデラックスって意味だ。
ああ、現実逃避してしまう。
この髪色…瞳の色…まさか…あり得るのか…?
「ちなみに君は…どんなジョブなんだ…ですか?」
「やっち? んー、ゆうしゃ? だよ?」
「おっふ…だからか…」
ホーリーブレイブ…どんな敵も逃がさないと言われる最上位職のジョブ、勇者。
魔を滅するこの国の剣、断罪の刃…
各年代に一人のみしか現れないという最強のジョブ。
「あ。言っちゃいけないんだった。内緒ね。約束」
「は、はい…約束……あっ…! …いえ、何でも…」
──いいかい、ひろ坊。勇者様とは安易に約束してはいけないよ。破ったのがバレたらめちゃくちゃに…されちゃうからねぇ──
と俺のばっちゃが言ってた。
ばっちゃ…俺してしまったよぉぉ…命をベットしちまったよぉぉぉ…めちゃくちゃって何されたんだよぉぉ…
でもそうか…そのジョブの特性で俺を見つけたのか…いや、もしくはあの名高いスキル、サーチアンドデストロイで俺を見逃さないのか…
でも俺、敵じゃないんだよぉ!!
お見逃しをぉぉぉ!!
「やっちね、困ったことに迷宮あんまり詳しくないんだ。だから一人だと辛くって。お友達もね、絶対一人は駄目だって。聖ナナナ様もそう言うし」
「そ、そう…ですか…」
…じぇんじぇん話が入ってこない…なぜならこの骨身にまで感じる強烈な寒気が奥歯をガタガタ言わせやがるからだ。
ということは今も凶悪なパッシブが二、三個運用されてるはず…
ああ、認識した途端にパッシブの圧がやばい!
冷や汗が噴き出る…!
これが、勇者…!!
つまり、即殺の予感、いや直感だ…!
超怖ぇぇえええッ!!
って待てよ…?
もしかしたら……俺も救ってくれたりするんじゃないのか…? なんだかんだ言っても伝説の勇者様なんだし…
無辜の民草代表、モブの味方…だよな…?
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