第3話 花瓶の絵画


 マダユキは土木建築の仕事に就いていた。

 今日も大勢の先輩たちと共に、山の中で一つの家を建てていた。

 未完成の部分は二階と地下、一階はほぼ完成している。

 そして奇妙なことに、一階には既に家具が運び込まれており、

 ソファーや壺、絵画などが乱雑に並んでいた。


 白い窓枠を二階部分に運んでいたところ、

 庭に軽トラックが入り込んできた。

 トラックの荷台には角材が二本積んであった。


「マダユキ! これも二階に運んでくれや!」

「はーい!」


 先輩に呼ばれて一階に降りて、庭に出て行く。

 荷台から角材を下ろして作りかけの家を見上げたところ、

 先程まで作業に従事していた先輩たちの姿が消えていた。

 音もなく、前触れもなく、マダユキを残して誰もいなかった。


「親方……?」


 親方や先輩たちを呼ぶが返事はない。

 彼は地下を覗いてみようと、地下に続く階段に足を乗せた。


「やめた方がいいですよ」


 右側から声がした。

 離れた場所で、青いワンピースを着た女が立っていた。

 長い黒髪と色の白い肌、真っ赤な唇。

 木々の緑の中には妙に浮いた、目立つ女だった。


「壁にかかった絵画より足を下に出してはいけません」


 壁にかかった絵画と言われて、今度は左を見た。

 黄と白の花が挿してある花瓶が描かれた油絵があった。

 白銀の額縁に入れられた、大きくて豪華な絵画だった。


「地下に仲間がいるかもしれないんですよ」

「それ以上足を下ろしたら大変なことになります」

「何を言ってるんですか」


 頭がおかしいヤツだと思って右足を階段の先に向ける。

 すると、女がザッと音を立てて距離を詰めてきた。


「やめた方がいいですよ」

「うるさいんじゃ。親方がいないと仕事が進まんわ」


 懲りずにまた右足をそっと下の段に下ろそうとする。

 女が階段の下、マダユキの右足の前にまで下りてきた。


「な、なんじゃお前!」

「警告は二度」


 赤い唇の横に筋が入る。それは口裂け女のように。

 女はマダユキの右足をひざ下まで呑み込むと思い切り噛みつき、

 そのまま食いちぎってしまった。

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