ep16/灼熱の野望(ゲルト)


 帝都の外れの丘陵地きゅうりょうち空猫ノ絆スカイキャッツの本拠地のそばにある雑木林ぞうきばやしの中。

 双剣を握るリゼータが、兄弟子であり親友でもあるゲルトと模擬戦を行っていた。


「ははははははッ! 腕を上げたじゃないか、リゼータ!」


 笑い声を上げながら、黄金の大剣を振るうのはゲルト・ドライガー。

 まるで絵画から飛び出してきたような、金髪碧眼きんぱつへきがん美丈夫びじょうふ。それでいて圧倒的な剣才にも恵まれており、その強さは帝国最強の霊刃士ブレイダーと賞賛されるほどだ。かつて剣術界で最強と呼ばれた『極斬流霊剣術』の正当後継者でもある。


「そっちもな。相変わらず見事な剣筋だ」


 うなるように呟いたリゼータは、懸命にゲルトの剣撃をさばく。

 リゼータは極斬流の中伝留ちゅうでんどまりだったが、単純な剣の技術だけを競うならば、免許皆伝のゲルトと匹敵すると評する者も少なくない。

 リゼータは激しく動き回りながらも、隙あらば打ち込もうと静かに機をうかがっていた。


「悪いけど……そろそろ決めさせてもらうよ!」


 しかし、先に勝負に出たのはゲルトだった。

 疾風のごとき踏み込みで、まるで大剣をナイフのように光速で振るう。

 切り落し。切り上げ。突き。払い。回し切り。上段。下段。中段。

 暴風のごとき剣戟けんげきさらされて、苦悶くもんの表情を浮かべるリゼータ。


「このまま押し切らせてもらう!」


 防戦一方のリゼータを崩そうと、ゲルトが得意技の水平斬りを放つ。

 だがその瞬間に、リゼータは交差させた双剣を、渾身こんしんの力で振り上げた。


「……その一撃を待っていた」


 ――――ガキイィィィン! 

 凄まじい金属破音と供に、赤々と火花が舞い散る。

 リゼータの狙い澄ました強振きょうしんが、ゲルトの大剣を弾き飛ばしたのだ。


 「なっ!?」ゲルトの眼が、驚愕きょうがくに見開かれた。

 ゲルトの態勢がぐらりと崩れる。むろん、そんな機を見逃すリゼータではない。

 ここぞとばかりに、ゲルトの頭頂に向かって必殺の右剣を振り下ろす。


「ぐっ……舐めるなよ、リゼータあああああッッッ!」


 しかしゲルトは天性の敏捷性びんしょうせいで態勢を立て直すと、目にも留まらぬ速さで、リゼータの喉元のどもとに剣先を突き放った。


 ――――かくして。

 にらみ合う二人の急所には、全く同時に寸止めの刃がえられ。

 定期的に行われる模擬戦は、両者ゆずらずに引き分けとなったのだった。




 模擬戦を終えた二人は、空猫ノ絆スカイキャッツの本拠地へと戻って来ていた。

 それから晩飯を終えて風呂に入った後、リゼータの部屋で合流すると、今日の模擬戦についての反省会を行っていた。

 

「正直、今日の結果には納得いかないね! 明日もう一回やるべきだ!」


 修復痕しゅうふくこんだらけの木造部屋。座布団の上で浴衣姿ゆかたすがたのゲルトが不服を申し立てる。

 すでに一時間ほど酒を入れているせいか、顔は赤くなり呂律ろれつは怪しい。そんな酔っ払いを、同じく浴衣姿のリゼータが慣れた様子であしらっていた。


「少なくとも三日は空ける約束だ。お前が決めたルールだぞ」


 リゼータの言う通りで、『模擬戦も実戦のように緊張感をもって戦うべきで、闇雲に戦っても得られるものは少ないから、せめて三日以上の間隔は空けよう』と、初めに提案したのはゲルトだった。

 その事を思い出し頭を抱えるゲルト。それでもどうにか再戦をしたいようで、何だかんだと屁理屈へりくつを並べていくが、リゼータはまるで相手にしない。

 ゲルトは悔しそうに顔をゆがめると、せめてもの負け惜しみを口にした。


「ふん……あまり調子に乗らない事だね! 僕はまだまだ本気を出してないんだから。勝ち星もトータルでは僕の方が上なのを忘れちゃ困るよ!」


 ゲルトが全力を出していないのは真実だ。

 あくまでも先ほどまでの戦いは練習に過ぎず、もしもゲルトが本気になって奥義を出したら、リゼータに勝ち目は無いだろう。


 だが本気で勝負をすると言うならば、リゼータも今回のように立ち回るつもりは無かったし、そもそも定めたルールに文句を付ける方がおかしい話だ。

 普段から揉め事は避けるたちのリゼータだったが、兄弟子で親友のゲルトにだけは、簡単に勝ちをゆずりたくないという対抗心があった。


「今さら見苦しいぞゲルト。ルールに文句があるなら、初めからやらなければいい。ちなみに忘れるなよ。ここ十戦では五勝四敗一分で俺の方が優勢だからな」

「ふんっ、十戦の戦績なんて大した問題じゃないね! 直近の百戦で計算したら、五十勝四十五敗五引き分けで、僕の方が優勢だし!」

「おいおい、嘘はよくないぞ。俺の五十一勝四十六敗三引き分けだ。記録を見せるか?」


 たまにゲルトはハッタリを使うので、対策としてリゼータは日記を付けていた。

 ぐうの音も出なくなったゲルトは、顔を真っ赤して駄々っ子のようにわめき始める。


「むぎぎぎぎ~~! 日記を書いてるなんて卑怯だぞ~~!」

「いやいや、それは無茶苦茶だろ」

「ちくしょー、酒だ酒だーっ! もう飲まなきゃやってられないよ!」


 癇癪かんしゃくを起こし、勢いよく自棄酒やけざけあおるゲルト。その他人には見せられぬ無様な姿に、リゼータは大きく長い溜息ためいきいた。

 このワガママな酒乱が、世界中から英雄のかがみと賛美される【天剣のゲルト】なのだと――むろん、こんな姿をさらせるのは、心を許した仲間にだけなのだが――世間は絶対に信じないだろうと思いながら。



 ぐびぐびぐびぐびぐびぐび…………!

 木製ジョッキ一杯に注いだ米酒を、水のように一気飲みするゲルト。

 いよいよ本格的に酔いが回ってきたようで、茹蛸ゆでだこのように真っ赤になりながら、浴衣をはだけて騒ぐ彼の周りには、すでに一升瓶いっしょうびんが三本ほど転がっていた。


「ゲルト……流石に飲み過ぎだ。身体を壊すぞ?」

「なんだよ~まだ全然大丈夫だって~~! ボカぁ英雄なんだよ~~?」


 酒量が増えるにつれて、意味不明な発言が増えていくゲルト。

 それを残念そうに見詰めながら、リゼータは出来る限り優しくたしなめる。

 するとゲルトが口から酒気を漂わせながら、ぐいとリゼータの肩に腕を回した。


「ところでリゼータさぁ、先週の緑曜日りょくようびのことなんだけどさぁ」

「…………緑曜日が……どうかしたのか?」


 ねずみを追い詰めた猫のようなゲルトの視線に、嫌な予感がするリゼータ。

 恐る恐る問い返すと、卑猥ひわいな笑みを浮かべてゲルトが言い放った。


「その時さぁ~、アローゼとエッチしただろ?」

「――ぶはあああぁっ!」


 ちびちび飲んでいた酒を、盛大に噴き出すリゼータ。


「家に帰ったらさぁ。君から微かに香水の匂いがしていてねぇ。あれはアローゼがよく付けているものだった。それと晩飯の時に、スキンシップがやたらと多かったよねぇ~?」

「げほ、げほっ、げほっ! お、おい待てゲルト!」


 激しくせ返りながら、どうにかゲルトの口をふさごうとするリゼータ。

 しかしゲルトは止まらず、不都合な真実があばき立てられていく。


「それと、ジルとラピアとも何かあっただろ? 最近二人とも熱い眼差しで君を見てるし、他の女性がリゼータに近付くと、明らかに不機嫌になるんだよねぇ~~?」

「…………俺は今、お前に恐怖を覚えている」


 ゲルトの推理は完全に的中しており、その女性に対しての並外れた洞察力の前には、リゼータとしてもひざを屈するしかなかった。


「それで君は、三人のうちの誰を選ぶわけ? いちおう空猫ノ絆のリーダとして、しっかりと君の考えを聞いておきたくてね」


 愉快そうに酔っていたゲルトは、すでに真剣な顔付きに戻っている。

 これまでも彼は、リゼータ・ジルミード・ラピア・アローゼの四角関係に、出来る限り気を配ってきたのだ。痴情ちじょうのもつれによるパーティ分裂の危機という、ありがちな結末を危惧きぐしながら。


「前々から、彼女たちが少なからず君を想っていたのは知っていたけど……この前の獣災で君が死にかけてから、明らかに様子が変わったよね。

 恐らく君への想いを再認識したんだろう。たまに君がいない時とか、三人がにらみ合って火花を散らしてる時もあるんだから。まるで生きた心地がしないよ」


「すまん……迷惑をかけた。だがしかし……俺は一体どうすればいいんだ?」

「いや、知らないけど。でもまぁ……そうだねぇ……」


 消沈するリゼータに、呆れたような口振りで、それでも相談に乗るゲルト。

 何だかんだ言っても面倒見が良く、特にリゼータに対しては、不器用な弟に世話を焼いているような気配があった。


「このままいくと修羅場しゅらばまっしぐら。考えただけで恐ろしいよ」

「……その未来は、出来る限り避けたいんだが……」

「そもそも、君としてはどうなの? あの三人の誰に一番魅力を感じてるわけ?」

「い、いや。そういう目であいつらを見るのは良くないだろう……」

「そういうのいいから。君の本音が聞きたいのよボカぁ。ほら、正直に言ってみなよ」


 司祭が罪人の懺悔ざんげうながすように、優しく問うゲルト。

 しばらくリゼータは躊躇ちゅうちょしていたが、ついに秘めていた想いを吐き出していく。


「ラピアは……妹のようになついてくれるのを嬉しく思っている。いつも強がってはいるが、根は純粋で、仲間想いで明るくて……とてもいい娘だ。今は異性として意識するのは難しいが、彼女が成長したらどうなるか分からない。もしも真正面から好意を向けられ続けたら……いつかほだされてしまう気がするな。


 アローゼは……気まぐれで、だらしないのが玉にきずだが、実は気配りが出来るし、思いやりがあって、姉御肌あねごはだで面倒見の良い所もある。

 女性としては問答無用で魅力的だ。あれほど色香を持った美女は、そうはいないだろう。

 いつか……あいつの復讐に囚われた心を解き放つ手伝いがしたいと思っている。


 ジルは……可憐かれんで、努力家で、品があって……知的なのも魅力的だ。時々、思い出したように甘えん坊になるのも可愛い所だな。

 だが時折、意地を張って無理をしすぎる所が、見ていて不安になってしまう。俺たちの中で一番、身体が弱いのに。まるで、娘を持った父親のような気持ちにさせられる。

 ただ最近は、少しずつ他人を頼る方法を覚えてきたようで、嬉しく思っている」



 こうして、三人への偽りの無い気持ちを語り終えるリゼータ。

 すると長く沈黙を守っていたゲルトが、げんなりとした様子で口を開いた。


「……三人への愛が嫌ってほど伝わってきたよ。もうハーレムでも作れば?」


 投げやりなゲルトの言葉に、リゼータがむっと顔をしかめる。


「馬鹿を言うな。あいつらは俺にとって、大切な義家族かぞくなんだぞ。ハーレムなんてもっての他だし……たとえ異性としての魅力を感じていようが、三人のうちの誰かと個人的に関係を深めようとは思えない」

「いやいやいや……君がそうしたくても、三人が納得できるかは分からないだろう。恋愛感情って、そう簡単に割り切れるものじゃないからね? 君ってそういう所が融通ゆうずうが利かないって言うか……頑固って言うか。

 っていうかそもそも、リゼータって誰かと本気で付き合いたい願望ってあるの?」

「…………無いな。今の俺にそんな余裕は無い」


 リゼータの口振りに『今は空猫ノ絆スカイキャッツが何よりも大切だから』と読み取ったゲルトは、悩ましそうに溜息を吐くと、優しい眼差しでさとした。


「……あのねぇ。君の気持ちは嬉しいよ。でも君が僕たちの幸福を願うように、僕たちも君の幸せを願っているんだ。僕たちが神還騎士団アルムセイバーズになるのは確実なんだし、君もそろそろ自分の幸せを考えても良い頃じゃない?

 三人のうちの誰かと付き合うのも良いだろうし、他の女性でも……あっ、獣災の時に居た赤髪あかがみの娘とはあれからどうなのさ? 個人的には良い雰囲気だと思ったけど?」


 ゲルトに問い掛けられて、リゼータの脳裏にメルティアの顔が浮かんだ。まるで太陽のような、眩しくて力強い笑顔が。

 獣災後に別れて一月、彼女とは音沙汰おとさたが無い。しかしリゼータとしては、どうしてかメルティアとは再び会えるだろうという予感があった。


「……ふぅん。なるほどね」


 沈黙するリゼータの表情から何かを読み取ったのか、ゲルトはどこか満足そうに笑うと、最後の酒瓶さかびんの封を切った。



 夜も深まり、男二人の宴会もそろそろ終幕となった頃――少しだけ酔いがめたのか、ゲルトがしみじみと呟いた。


「…………それにしても、ついに僕たちも神還騎士団アルムセイバーズか。流石に感慨深かんがいぶかいね」


 「そうだな」とうなずくリゼータ。ゲルトが仕入れた情報によれば、空猫ノ絆に神還騎士爵が与えられるのは確実で、近日中に発表されるとのことだった。


「あの忌々しい屋敷やしきからゴミみたいに追放されて。どうにか廃棄域スラムに辿り着いて。泥水をすすって生きていた日々が……遠い昔のようだよ」


 ゲルトは遠い目をして、過酷だった幼少時代を語り始める。

 とある子爵のめかけの子だったゲルトは、母親が亡くなると同時に領地を追放された。それから廃棄域に流れ着き、剣師となるガランと出会い、やがてリゼータとも出会う。

 後にアローゼとラピアとジルミードも合流し、弱肉強食の廃棄域を皆で生き抜いて来た。


「覚えてるかい? 初めて僕の夢を君に聞かせた日のこと」


 尋ねられたリゼータは「もちろんだ」と力強く答えた。

 剣師ガラン亡き後は、その愛弟子だったリゼータとゲルトは――最初のうちは対立していたが――協力して生きることを決め、やがて二人には固い絆が芽生えるようになる。

 そしてある日――ゲルトは心の内に秘めていた野望を、リゼータに告げたのだった。


『僕はいつか絶対に、神還騎士団アルムセイバーズに入ってみせる! この貧しくて劣悪な廃棄域ソゴルを抜け出して、僕を捨てた子爵家なんて比べものにならないほど偉くなって、今まで見下している人間たち全てを見返してみせるんだ!

 そのためにリゼータ……君の力を貸してくれないか?』


 それはまさに――灼熱の野望だった。

 奈落から這い上がろうとする、燃えるような意志と生命の力。

 夢も無く希望も無く、ただ剣だけを振るって生きていたゼータにとって、そんなゲルトの夢を語る姿は、黄金のように眩しかった。

 そしてその時、ゲルトの夢を叶える為に尽力しようと――ずっとその隣を並んで歩いていきたいと、子供心に強く願ったのだった。


(……あの時から、空猫ノ絆スカイキャッツが始まったんだ。ゲルトがいたからここまで来れた)


 ゲルトが始めた夢物語。彼がいなければリゼータの道は閉ざされる。

 後に入った三人娘は、時にゲルト以上に自分を頼りにしてくれる。しかし結局自分はゲルトの夢を運ぶ車輪なのだと、リゼータは己の役割を理解していた。


 そして今をもリゼータは、ゲルトを支えるのに喜びを感じている。

 ゲルトと一緒にいれば、いつまでも黄金の夢を見せてくれる気がして。

 しかしその長かった夢は――ついに終着駅に至ろうとしていた。


「……そうだな。神還騎士か。ついに俺たちはゴールに辿り着いたんだな」


 リゼータが我知れず、哀愁あいしゅうもった声音を上げる。


「…………くっくっく。いやいやリゼータ。僕の野望はまだまだ終わらないよ」


 しかしゲルトは同意せず、不敵な笑みを浮かべながら否定する。

 その胡座あぐらをかいた飲み姿に、嵐の前のような静けさをまといながら。


 その時、リゼータはゲルトの瞳に、野望の炎がともっているのを見た。

 それはかつてゲルトが己に示したもの。廃棄域で這うように生きていた自分たちを、まだ見ぬ新世界へといざなった黄金の輝き。

 なつかかしい胸の高鳴りを覚えながら、リゼータが恐る恐る問い掛ける。


「……ゲルト。お前、また何かを企んでるのか?」

「くくくっ……ああ。絶対に口外はしないでくれよ?」

「ああ。約束する」


 重々しいリゼータの返答に満足したのか、ゲルトはいったん酒で唇を湿らせると、湧き上がる激情を抑えるように語り始めた。


「もうすぐ僕らは神還騎士になるよね。そうすれば、晴れて貴族の仲間入りをするわけだ。だが僕からすれば、神還騎士なんて夢の序の口に過ぎない」

「……どういうことだ?」

「僕はもっと上に行くよ。必ずや帝国騎士団長に昇り詰め、強大な権力を手に入れる」

「驚いたな……ゲルトは騎士団長の座を狙っていたのか。いや……その口ぶりだと、それ以上の地位を望んでいるのか?」


 そう問われて、ゲルトの野望の炎が一段と激しく燃え上がった。


「もちろんさ。騎士団長となって盤石ばんじゃくの地位を築いた後は、皇族の姫君と婚姻を結んで子を成して――やがては摂政せっしょうとなり、僕が皇帝に成り代わってやるのさッ!」


 「なっ……!?」リゼータの脳髄のうずいに稲妻のような衝撃が走った。


「皇帝になったら、もう僕を馬鹿にする奴はいない。どんな理不尽な暴力にも権力にも屈する必要はない。誰かのくだらない都合つごうで、虫ケラみたい命を奪われる事も無い。僕は絶対的な皇帝という存在になって、僕が思う最高の国と世界を作りたいんだ。

 そのためにリゼータ……また君の力を貸してくれないか?」


 それはリゼータからすれば、あまりにも荒唐無稽こうとうむけいな野望だった。

 一瞬たりとも想像をしたことが無い未来。そして冷静に考える程、不可能に限りなく近い子供の絵空事に思える。しかしゲルトは、そんな有り得ない未来を、本気で手に入れようとしているようだった。


 人間の尊厳や命などゴミ同然の廃棄域ソゴル。その地獄の中でリゼータが見付けた光。

 その黄金のような眩しい生命の輝きに――今も昔もリゼータは憧れていた。


 放心するリゼータを見て、ゲルトはぷっと噴き出すと、愉快そうに高笑いを上げた。


「あはははははははははははっ! 冗談に決まってるだろリゼータ!

 でもそれくらいの夢を持った方が、人生は面白いと思わないかい?」


 ゲルトは悪戯いたずらじみた笑みで酒瓶を傾け、残った酒をリゼータのジョッキに注ぐ。

 それを有難く受けながら、脳裏に焼き付いた言葉を思い返すリゼータ。

 しょせん酒の席での戯言ざれごとだ。明日になったらゲルトも忘れているに違いない。


(だがひょっとして、ゲルトなら――――)


 ふと一瞬だけ考えて頭を振ると、リゼータは苦笑しながら酒を飲み干した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


〈作者コメント〉

どうも。クレボシと申します。

ゲルトというキャラクターは複雑で、表現するのが難しいのです。

応援・感想・評価などを貰えるとありがたいです。誤字脱字の報告もしていただけると助かります。レビューから星を付けてくれると歓喜のあまり昇天します。

※タイトル(ABYSS×BLAZER)はアビスブレイザーと読みます。ブレザーじゃないですよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る