第9話 痛いくらい青春している

 以前、歩きながら本を読んでた廊下を、勢いよく駆け抜けて風間かざまくんを探す。

 教室に1人の風間くんを見つけた私は、何から話そうか考える前に勝手に言葉が溢れた。



「ねぇなんで、なんで楽しかったって終わらせるの?

 なんで幸せだったっていうの? 私も幸せだったんだよ、風間くんと一緒に脚本が書けて。これで終わりなんかにしたくない!」



 私の声に気づいた風間くんはびっくりした顔で停止している。でもそんなのお構い無しだ。彼は私の心に今までさんざん踏み込んできたんだから、それの仕返し。

 今の勢いじゃなきゃきっと言えない。



「好き、私は風間くんが好きです」



 気持ちを零した。なのに彼は少し呆れた顔を見せる。



河合かわいさん、ちゃんと読んでないでしょ」


「え?」


「メモのうしろ」



 そう言われて本を開いて私はメモを手に取って裏返した。



『〝一緒にいるだけで沢山なんてなんで思えたんだろう。永遠に隣にいて欲しい〟

 河合さんが考えたこの、ロミオが王家を捨てると決めたセリフに俺は痛いくらい共感した。

 だから伝えさせてください。ずっと河合さんが好きでした。

 この日々をちゃんと思い出にするよ』



 私は私の目を何度も疑った。何度読んでもピンと来なくて私は風間くんの顔を上手く見れなかった。



「栞、ユーカリの葉なんだ。花言葉は思い出。

 すごい充実した日々だったから失恋だとしても思い出にしようと思って。河合さんの隣にもういれないと思ってたし。

 だから今、会いに来てくれて本当に嬉しい。


 ……俺も河合さんが好きです。よければ付き合ってください」



 迷わず「はい」と答えた時、私は幸せになったロミオとジュリエットが思い浮かんで、結ばれるその幸せに少し涙した。




 ────



 それから私は、あなたが選んだ本を読むのさえ痛い。表紙を見るだけで胸がいっぱいになって、好きだなって感じて風間くんのことを思い出してしまうから。



「私がこの本を読む時は隣にいて」



 そう彼と約束したのは、大きくなりすぎた〝好き〟の感情を分け合うため。ただ隣にいて欲しかったのもあるけど。


 この本を開く度私はこう思うのだ。

 私の青春ものがたりは思っていた以上に輝いていた、と。

 そしてユーカリの栞を見る度、この物語しあわせを忘れないと私は強く誓った──。



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あなたが選んだ本を読むのさえ痛い 雨宮 苺香 @ichika__ama

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