超越する技術

 最初に起きた異変は、周辺気温の急激な上昇だった。

 その場にいた自衛隊や米軍兵士達が、じんわりと汗を掻く。自然と息継ぎが荒くなり、顔が赤らむ者は一人二人ではない。

 気温が高くなる事自体は、そうおかしな話ではない。戦車砲にしろ対戦車ミサイルにしろ、大きなエネルギーを生み出す過程で大量の熱を出す。爆弾などはこれらとは比にならない量の熱を生み、ナパーム弾は正に熱で敵を倒す兵器だ。何よりここには日米が総力を結集させたと言えるほどの大部隊がいる。撒き散らされたエネルギーにより、多少なりと周囲の空気が熱くなるのは仕方ない事だ。

 だから最初は気にしなかった。

 しかし何事にも限度はある。汗がだらだらと流れ出し、息をするのも辛くなり、顔が赤い者はそうでない者の数を上回り、目が虚ろになってくる……いくらなんでもこの暑さはおかしい。熱の逃げ場がない閉鎖空間なら兎も角、開けた野外でこんなにも空気が熱せられるとは考え難い。

 誰もが考えた。何故こんなに暑いのか? 何がこんな熱を出しているのか? 探せば答えはすぐに見付かった。

 地面に倒れ伏している、パンドラだ。


【……………ギ、ギィィィ、ギッ、ギッ、ギッ……!】


 パンドラが音を鳴らす。機械だというのに、まるで笑うかの如く。

 そして立ち上がろうとする。赤熱した身体のまま。周りに熱気をばら撒いて。

 まだ動こうとするパンドラに、この場にいる人間達の多くが硬直した。あれだけの猛攻、地中貫通弾まで受けたにも拘らずまだ動けるのかと驚くあまり。ただしほんの一瞬だけだ。此処にいる者達の目的は、パンドラを完膚なきまでに破壊する事。まだ動くというのであれば、攻撃して粉砕すれば良い。

 何より、誰もが悪寒を感じていた。アイツは何か、とんでもない事をやろうとしていると。

 現場だけでなく上層部も同じ考えを持っていた。故に攻撃続行の指示を出し、現場は砲撃を続ける。戦車も迫撃砲も、そろそろ弾薬が尽きそうな事など一切構わず発射。米軍機もパンドラの頭上に到達し、次々と爆弾を落としていく。一際大きな爆発が、パンドラを包み込んだ。

 これで今度こそ止めを刺せる――――誰もがそう願った。

 だが。


【ギギカカギギギギィ……】


 パンドラは壊れず、爆炎の中から悠々と顔を出す。

 未だパンドラの装甲は赤く輝いている。熱した鉄と同じ状態であれば、今のパンドラは人間の力でも変形するぐらい柔らかい筈だ。

 ところが何度砲撃を受けても、パンドラは傷すら負わない。

 見間違いだ、こんな事はあり得ない……そう言わんばかりに攻撃は続けられたが、やはりパンドラは無傷。戦車砲どころか、追加で落とされた地中貫通弾を受けても破片一つ飛ばない有り様。

 そしてこの状況が強がりでもなんでもないと言わんばかりに、パンドラはついに大穴から這い出し立ち上がる。


【ギギギギギギャギャギャアアアアアアアッ!】


 勝ち誇るような、パンドラの雄叫び。勇ましさすら感じさせる力強い叫びに、日米の兵達は手を止めてしまう。

 しかし雄叫びが届かない者達までは止まらない。ましてや機械であれば当然怯みもしない。

 海上の艦船から放たれたミサイルの第二陣が、パンドラの頭上まで来ていた。超音速で空気を切り裂いた名残が一筋の白線となって空に残り、強力な支援の接近を人間達に示す。パンドラに狙いを定めているそれは、やがて一直線にパンドラ向けて落ちていく。

 パンドラは雄叫びを止めない。ミサイルなど気に留めていないかのように。対策をしなければ命中するのは必然。その必然通りミサイルは次々とパンドラに『命中』した。

 命中は、した。

 ところがどうした事か。ミサイルが爆発したのはだった。高速で飛ぶミサイルが正確に何処で爆発したか視認出来る人間などいないが、爆発の中心点が何処にあるかで見れば凡その位置は掴める。決して遠く離れている訳ではないが、パンドラの巨体から見ればかなり近い……二~三メートルほどの位置が爆発地点か。地上部隊や空爆の時はあまりの激しさ故確認が困難だったが、ミサイル攻撃は比較的間隔の開いた攻撃。このため戦場にいた人間達は、ハッキリと何が起きたかを目にする事が出来た。

 目にしても、それをすんなり受け入れるかどうかは別問題だが。

 誰もが、見間違いだと思った。パンドラに命中する前にミサイルが爆発した? そんな事はあり得ない。あり得るとすればミサイルが整備不良で、偶々命中直前に事故を起こした……そう合理的に説明しようとするも、また飛んできたミサイルが、やはり離れた位置で爆発する。まるで人間達に『現実』を突きつけるかの如く。

 そして注意深く観察すれば、その絡繰りも見えてくるだろう。

 パンドラの装甲から僅かに離れた位置に、パチパチと明滅する光の領域があった。明滅する光の壁に触れたミサイルは、その瞬間に爆発している。これがパンドラの身体を守っている事は明白だった。

 更に異常は続く。パンドラの装甲が、少しずつだが赤さを薄めていき、元の白銀へと戻り始めたのだ。今もパンドラの周りには一千度以上の高熱を放つナパームの炎が燃え盛っている。にも拘わらずパンドラの身体は、まるで冷却されているかのように鋼の色合いを取り戻す。

 大慌てといった様子で駆け付けてきた戦闘機が、追加のナパーム弾と地中貫通弾を投下。全て直撃するが……ナパーム弾の炎はやはり通じず。地中貫通弾もパンドラが纏う光の壁は貫けないらしく、パンドラに大穴を開けるどころか自身が砕け散っていた。

 もう、パンドラに攻撃は通じていない。

 パンドラが光の壁を纏った時から状況が一変する。あれは一体なんなのか。誰も答えを知らないが、誰かがぽつりと呟いた。

 バリアだ、と。

 ロボットアニメだと必ずと言っていいほど出てきて、けれども今の人類には真似すら困難な超技術――――それがパンドラを守っているのだ。


【ギャギャアアアギャアアア!】


 楽し気に、誇るように。パンドラは両腕を広げながら咆哮を上げた。

 恐怖を呼び起こす叫びは呆けていた人間達を我に返す。このままではいけない。誰もがそう思い、手元にある武器でパンドラを攻撃する。しかしもうその攻撃は届かない。パンドラが纏うバリアは全ての攻撃を遮断する。仮にバリアを突破したところで、奥に控えているのは冷え切った装甲だ。今やどの攻撃でも傷一つ与えられない。

 物理攻撃も、熱も、パンドラを倒すには足りない。

 まるでその事実を見せ付けるかのように、パンドラはしばし両腕を広げたまま攻撃を受け続けた。金属を軋ませる音で楽しそうな『笑い声』まで出す。ただし何もしてこなかったのは、ほんの一分足らず。戦車も迫撃砲も地中貫通弾も艦対地ミサイルも全て受けきった後、静かに両腕を下ろし……


【ギャギアアアアア!】


 吼えるのと同時に、パンドラの両手両足からハッチが出現。中に装填されていた数百ものミサイルが撃ち出される!

 ミサイルは全て長さ一メートルもない小型のもの。それらは超音速で上空へと飛び上がり、執拗に爆撃を繰り返していた戦闘機を追う。

 脅威を認識した戦闘機達はそれぞれ逃げていくが、ミサイルは圧倒的な速さで追い駆けてくる。戦闘機達がエンジンを最大出力で動かし、機体が空中崩壊するリスクも恐れず加速しても、嘲笑うような速度と機動性でミサイルは迫った。そして直前で大きく旋回して振り切ろうとしても、一機当たり何十と向かってきては避けきれない。

 航空部隊は一瞬で撃ち抜かれ、何十という数の爆発が花火のように青空を飾った。


【ギョォオギィガガァ!】


 航空機を全滅させてもパンドラは止まらない。まだまだ攻勢は終わっていないとばかりに、両腕を前に突き出す。

 正面に向けられたパンドラの手。恐竜よりも人間に近い造形をしたその手の中心には、真っ赤に輝くレンズが煌めく。放つ煌めきは決して眩いものではなく、しかし朝日が照らす中でもハッキリ分かる程度には強い。目が眩む者はいなくとも大勢の人間がその手を見つめてしまう。

 故に、誰もが目にした。

 パンドラの手から。砲弾やミサイルのような、質量を感じさせるものではない。煌々と輝く光の玉であり、それが弾丸のように飛び出したのだ。速度は速く、数キロ離れた地点にも瞬く間に着弾する。

 次の瞬間、着弾地点で起きたのは巨大な爆発。

 半径数百メートルを吹き飛ばすような大爆炎だ。着弾地点には数両の戦車と装甲車、近くのビルには自衛隊や米軍兵士もいたが、全て爆炎に飲まれて消える。ビルは爆風によって粉砕され、炎の外に建つ建造物も吹き付ける衝撃波によって粉々に砕かれた。無論その建物の屋上や屋内にいた人間を巻き込みながら。

 一発でこの破壊力。しかしパンドラの攻勢は終わらない。

 手から放たれるエネルギーの塊は、律儀に一秒一発ずつ撃ち出された。両手で交互に発射し、腕と身体を動かす事で広範囲を焼き尽くす。楽し気に笑いながら人間を虐殺する様子は極めて『感情豊か』でありながら、狙いは正に機械が如く正確。爆発範囲が重ならない位置に撃ち込み、跡形もなく人間の命と文明を吹き飛ばしていく。

 周囲一帯を全て焼き払うのに、数十秒も掛からない。

 展開した部隊の大半が爆発に巻き込まれ消滅した。日本の自衛隊は実戦経験豊富という訳ではない。だが隣国である中国の台頭と野心に備え、ここ十年は最先端の装備へと積極的に更新している。同盟国である米軍との訓練も頻繁に行い、少なくともスペック上は決して脆弱な軍隊ではない。何より世界最強と名高い米軍も今回の作戦には参加しているのだ。これをものの数十秒で壊滅させる事が出来たのは、それだけパンドラの戦闘能力が優れているという証明である。

 それでも、射程距離の限界はある。

 エネルギー弾はあまり遠くまで飛ばないようで、十キロも離れた位置にいる部隊は無事だった。この位置には対戦車ミサイルを積んだ車両が数多く配備されており、これらの車両が装備しているミサイルは有効射程十キロを超えている。パンドラの攻撃範囲外だ。

 とはいえパンドラは戦車砲どころか地中貫通弾も通じない相手。対戦車ミサイル程度の威力ではろくな傷を与えられない。しかしそれでも攻撃を止める訳にはいかない。パンドラを野放しにする事がどれだけ危険か、今正にパンドラ自身が見せたのだ。尤も、最早ただの悪足掻きに過ぎないが。

 パンドラもそう思っているのか。身体で受け止める攻撃に対し、頭を左右に揺らしながらガチャガチャと金属音を鳴らす。まるで嘲笑うかのように。


【ンギギィー】


 そして人間達に見せ付けるような、大袈裟な動作で『口』を開く。

 口と言ってもパンドラはロボットだ。その中に、体内へと通じる穴はない。ところがよく観察してみれば『舌』があると分かる。赤々と不気味に輝く、水晶のようにも見える巨大な構造物だ。

 更に注意深く観察すれば、舌の放つ輝きが太陽光の反射ではなく、自らの発光現象によるものだと分かるだろう。さながら、今し方エネルギー弾を撃ってきた掌のように。

 開いた口が向いていたのは、遥か十キロ彼方に展開しているミサイル車両部隊。日米軍が共に作戦行動中であり、そこにいる兵士は人種も宗教も言語も違う者達だが……この瞬間、彼等の心は一つになる。

 ヤバい、という意味合いの気持ちで。

 そこで逃げようとせず、すかさずミサイルを撃とうとするのは流石軍人と言うべきか。パンドラは人間達の抵抗を許す。放たれたミサイルはいずれもパンドラの顔面、特に開かれた口の中目掛けて飛んでいき命中。しかし、やはりダメージは見られない。

 今度はこちらの番だ。そう言わんばかりに、パンドラはついに攻撃を放つ。

 舌のような構造物は砲台だった。真っ赤に輝く結晶全体から、紅蓮色の『レーザー』が放たれたのである。

 否、レーザーと言うのは正確ではないだろう。レーザーとは光線であり、光の速さで飛んでいくもの。パンドラの口から放たれた光は、肉眼でも『軌跡』が見える程度には遅い。厳密に言うならば高速の粒子を撃ち出す現象、ビームと呼ぶべきか。ビームの直径は数メートルもあり、放つ輝きは周辺を赤く染め上げる。

 しかしこの場で戦っている人間達にそれを意識する暇はない。

 ビームは十キロ彼方にいる自衛隊・米軍の陣地に着弾。その瞬間、爆発が起きる。爆発範囲は精々百メートル。これでも装甲車やミサイル車両、随伴していた大勢の歩兵を吹き飛ばすが全滅には程遠い。だがパンドラは顔を左右に動かし、ビームも大きく振るう。薙ぎ払うようにビームは何千メートルと動き、その全ての範囲で爆発を引き起こす。

 一瞬だ。瞬きする暇もなく、数キロの範囲に展開していた部隊が吹き飛んだ。


【ギャギャアア! キィャアアアアアアアア!】


 それでもパンドラは満足しない。笑いながら再び口からビームを撃つ。しかも今度は頭が壊れたブリキの玩具のようにぐるんと一回転。一秒もしないで全方位を攻撃し、直線距離にして三十キロ以上を焼き払う。

 これでも攻撃は終わらない。

 身長百メートル近いパンドラは、地平線までの距離も遠い。パンドラの頭部に視覚カメラがあると仮定した場合、その目には三十五キロ先の景色まで見えている。その位置には前線で戦う部隊の支援をしていたトラックなどの車両、更には前線が壊滅した時のバックアップ部隊などが控えていた。


【ギャア!】


 パンドラは支援部隊目掛けてビームを発射。三十キロ以上彼方の対象を撃ち抜き、爆炎により焼き払う。

 更にパンドラは駆け出した。動きは人間と比べやや緩慢に見えるが、百メートルを超える巨体だ。実際の移動速度は時速四百キロを優に超え、最高速で走る新幹線さえも追い抜く。ましてや戦車や人間の足で逃げられるものではない。

 瞬く間に今までの戦闘範囲を抜けると、走ったまま両腕を左右に広げ、掌からエネルギー弾を発射。今度は狙いなど定めていない乱雑な撃ち方で辺りを吹き飛ばす。エネルギー弾が届かない場所には口から放つビームで大雑把に狙い、全てを薙ぎ払って消し去っていく。主力である地上戦力はもう逃げる事しか出来ないが、パンドラの動きとエネルギー弾は高速だ。エンジンが焼けるほどの速さを出しても、逃げきれず吹き飛ばされてしまう。

 そしてこれらの武装でも届かない、遥か遠方の海上戦力には別の武器をお見舞いする。

 パンドラの背中に生えている二列の背ビレ。それらが不意に動き出す。最初は震えるような動きをし、段々と浮かび上がり……ついには完全に抜ける。背ビレは埋まっていた側も同じ『背ビレ型』をしており、少々形が歪であるがブーメランのような形態をしていた。

 抜けた背ビレはそのまま落ちるが、地面に付く前に側面にある小さな穴から青白いジェットが噴き出す。ジェットの推進力は背ビレに横回転の力を与え、回転により生まれた空気の流れを浮力にして背ビレは浮かび上がる。

 自力で飛んだ背ビレは空高く浮かび、走るパンドラよりも速い時速一千キロ以上ものスピードで飛んでいく。背ビレは大きさ四~二十メートルと大型なため人間達が使うレーダーに映り、戦闘機達が即座に迎撃に浮かうが、しかしそれはパンドラが許さない。背ビレが抜けた後の背中に無数の発射口が開き、長さ五十センチほどの小さなミサイルが無数に飛んでいく。

 ミサイルは飛行する背ビレは避け、正確に戦闘機を狙う。自分達が攻撃される状況では標的を狙う余裕はなく、そもそもミサイルの追尾性能の高さから回避も困難。攻撃する暇もなく、迎撃に向かった戦闘機の多くが撃ち落とされてしまう。自分の命を投げ打つ覚悟で、回避せずに空対空ミサイルを撃つ戦闘機もあったが……パンドラが放った小型ミサイルは背ビレに迫るミサイルを優先して追尾。背ビレに届く前に迎撃した。これを見た一部機体による機銃攻撃も敢行されたが、背ビレは頑強で機銃程度は弾いてしまう。

 背ビレは止まらず、ついに海上まで到達。一直線に沿岸の向こう側――――そこに浮かぶ日米の艦船に迫る。

 自衛隊の護衛艦、アメリカ海軍のミサイル巡洋艦は迫る背ビレに対し機銃や艦砲で応戦。小さな機銃は効果が殆どなかったものの、十二センチを超える口径の砲弾は当たれば装甲が大きく破損し背ビレはバランスを崩す。しかし一発では、煙を吹きながらも飛び続ける。二発三発と当てれば撃破出来たが、機動力の高い背ビレに何発も撃ち込むのは、艦砲の連射性能と正確さを鑑みれば極めて困難。

 大半の背ビレは撃墜されず、一直線に甲板に突っ込んだ。極めて鋭利な構造をしている事もあってか、背ビレは甲板を抜いて艦船の深い位置まで貫通する。道中にいた人間は当然容赦なく轢き殺した。とはいえ船員の全滅には程遠く、エンジンやミサイル格納庫までは届かず。艦船が沈むほどではない。

 時間が経てば人間達も冷静さを取り戻す。艦長達は応急処置の指示を出しつつ、反撃の用意を進めた

 直後、背ビレが膨張。

 膨らんでから一秒と経たずに、背ビレは巨大な爆発を起こした。背ビレ内部には多量の爆薬が搭載されていたらしい。爆発は近くにいた人間や機材のみならず、更に奥深くの配管や部屋までも粉砕。更に通路を駆け抜け、炎は艦の深部まで浸透していき……

 最後に機関室やミサイル格納庫に到達する。

 円陣やミサイルの爆発は、背ビレの比ではない。艦全体に火が回り、艦自体が爆弾であるかのような大爆発を起こす。こうなれば乗組員は勿論、艦も跡形も残らずに吹き飛ぶ。一発では沈まなかった艦船もあったが……ミサイルやエンジンが誘爆してはもうまともに戦えない。挙句飛んできた背ビレは何十と存在し、この場に集まった艦船のどれにも一枚は突き刺さっている状態だ。無傷の船はなく、海上戦力は瞬く間に全滅する。

 地上は満遍なく焼き払われた。海の戦力は全て砕け散った。航空機は余さず落とされた。

 もう、パンドラを攻撃する戦力はない。


【ギャキャキキギャァァ!】


 勝ち誇る、パンドラの雄叫び。

 勝者であるパンドラを囲うのは、ビームとエネルギー弾で焼き尽くされた住宅地。何もかも焼き尽くされた大地が、何十キロもの範囲に広がっている。

 地上にパンドラを敵視するものはいない。

 空にパンドラを見下ろすものはいない。

 海にパンドラを眺めるものはいない。

 今やパンドラは世界を制していた。地球の支配者ぶっていた人類が、自らの造り上げた機械によりその地位を下されたのだと、壊れた街並みが証明していた。しかし生き延びた人類はその敗北を認められるほど謙虚ではない。まだ自分達は本気を出していないだけであり、真の力を用いれば必ずあの怪獣を仕留められると考える。

 そして確かに、人類は奥の手を隠し持っていた。世界の一部を破滅に向かわせる力であるが、このまま世界の全てが屈したままよりはマシだ。だからそれを使おうとするのは、自然であり道理。

 一つ、多くの人間が失念している事があるとすれば。

 人間の『英知』を長く学んできたパンドラも、人間がその選択肢を選ぶ可能性があると理解している事だ――――

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