第3話 幼馴染とは恋人になれない
「悠真と高田さんはいつちゃんと付き合って、正式な恋人になるんだ?」
「え、あ、そ、それは……アハハ」
お昼休みのがやがやうるさい教室の中で、友達の
付き合ってるとか付き合ってないとか些細な問題でしょ、そう言うのはあんまり気にしなくていいと思うんだ!
だからさ、もっと風花ちゃんの可愛いくて大好きなところを……
「いや、些細じゃないだろ、結構大きい問題だと思うぜ? 登校中も休み時間も、あんだけイチャイチャしてて、こんだけ惚気といて、まだ付き合ってないとかおかしいだろ? 大好きなんだろ、高田さんの事?」
「うぐっ……そ、そうだけどさぁ。風花ちゃんの事は大好きだけどさぁ」
「だろ? で、いつ付き合うんだ、お前たちは?」
「……それは、多分いつでもない、と思う。風花ちゃんとは、付き合うとか、恋人とかそう言うんじゃないから……風花ちゃんは俺の幼馴染だから。風花ちゃんの恋人に、大好きな人に俺はなれない」
俺は大好きで、風花ちゃんとお付き合いしたいし、その……それ以上の関係にも、なりたいと思ってるけど。風花ちゃんとずっと、一緒に居たいと思ってるけど。
でも、俺じゃ無理なんだ。俺じゃ風花ちゃんの大好きな恋人にはなれないんだ。
「はぁ? 何言ってんだ、お前?」
「だって……風花ちゃんは女の子が好きなんだもん」
「え?」
「女の子が好きなの、風花ちゃんは。女の子が好きで、男の人には興味なくて。だから俺も幼馴染以上に見てくれないの、風花ちゃんは。どれだけ大好きって言っても、俺の事をそう言う対象では見てくれないんだ」
―あれは中2の体育祭、俺が事件と呼んでる風花ちゃんと初めて離れ離れになった体育祭の時。
俺と別のチームになった風花ちゃんは、体育祭期間中に男子に大人気になって。
風花ちゃん当時からもちもち天使だったし、て言うか昔からずっと可愛いし、男子にモテるのは当然なんだけど、その予想をはるかに超えるくらいに大人気になって。
俺が他のチームで頑張って、風花ちゃんから目を話してる隙に間に何人ものイケメン先輩とか後輩とかに告白された。
サッカー部のエース先輩、野球部の4番先輩、陸上部のホープの後輩君、わけわからんイケメンの人―同じチームになった、彩り豊かより取り見取りのイケメンたちに告白されて。
俺が嫉妬に狂って、風花ちゃんと毎日遊ぶ! という名目で放課後軟禁(ゲーム、おかし、甘々つき)をしてしまっていたくらいに……風花ちゃんもいっぱい甘えてくれて、喜んでくれてたから良かったけど、割と束縛してたな、あの時。
毎日放課後練習が終わったら直行で威嚇しながら迎えに行って、寝るまで風花ちゃんの事抱きしめて離さなくて……今考えると相当ヤバいや、あの時の俺。
ま、まあ、とにかくそんな感じで色んな将来有望なイケメンさんたちに告白されていたんだけど、風花ちゃんはその告白をきっぱり全部断った。
どんな相手からの告白も、「ドキドキしない」とか「好きじゃない」とか割とストレートな文言で断って。
友達の女の子が「付き合った方が良い!」って言っても、それを意に介さず、全部の告白を断っていて、毎日俺と一緒に居てくれた。毎日束縛気味の俺と遊んで、お昼寝して、寝るまで一緒に居てくれた。
俺と一緒に居る方が好き、って言ってずっと一緒に居てくれて……俺はその時から風花ちゃんの事が大好きだったから、風花ちゃんも俺の事が大好きなんだ、って勘違いしちゃった。
風花ちゃんが告白断ってたのは、俺の事が大好きだったから。俺を大好きだから告白を受けずに待っていてくれてるんだと勘違いしてた。
俺の事が大好きだから、いっぱい甘えてくれて、いっぱい遊んでくれる―そんな風に思ってた。
そんな風に思ってたから、俺はあの時、風花ちゃんに告白した。
「え、告白したの? 悠真、風花ちゃんに告白したことあったの?」
「急に話おるじゃん、太雅。確かにびっくりかもだけど、告白自体は何回かしてるよ、最近も自分の気持ちくらいは、結構伝える。風花ちゃんの事大好きって事は何度も伝えてるよ、大好きだもん……全然相手にしてくれないけど」
「ほえ~、そうなんだ! てっきり悠真がヘタレだから何もしてないんだ思ってた! でも相手にされない? どういう事? そんなことある?」
「そこまでヘタレじゃないよ、俺は……相手にされないってのは、その……あ、一回中2の時の話に戻していい?」
「あ、どうぞ。俺も気になってたし」
「サンキュ。それじゃ、風花ちゃんに告白した時の話に戻るけど、俺ちゃんと告白したんだよね……いや、出来てないや」
あの時、ソファの上で甘えてくる風花ちゃんをぎゅーっと抱きしめて、『風花ちゃん大好き!』って言って。
風花ちゃんはいつも通りの反応だったけど、俺はその続きを言おうとして……そのタイミングで、風花ちゃんに女の子が好き、って告白された。
「? どういう事?」
「大好き、ってのは伝えたんだ。それで風花ちゃんは『ぎゅーってされるの大好き』ってめっちゃ甘えた可愛い声で、ほっぺすりすりしながら答えてくれた。めっちゃ可愛くて、愛おしくてもっと大好きになった。ご飯食べてる姿とか、ゲームに熱中してる姿とか、どんな風花ちゃんも可愛いし大好きなんだけど、やっぱり甘えてる風花ちゃんが一番というか、あんなふうに甘えんぼうのわんちゃんみたいに甘えてくる風花ちゃんが本当に大好きって言うか……ああ、もう大好き、風花ちゃん!!!」
「めっちゃ惚気るやん。フラれた話で惚気るやつ初めて見た。でも、激熱じゃん!」
「えへへ、だって可愛いんだもん、大好きなんだもん、風花ちゃんの事……こほん。とにかく、そう言われて。で、俺はその後に、『俺も大好き! こうやって風花ちゃんとずっとぎゅーってしてたい、一生一緒に居たい! 俺と付き合ってください』―そう言うつもりだったんだ」
「お、重たいな、プロポーズじゃん……って、え? 言えなかったの?」
「風花ちゃんの事は幼稚園の頃から大好きだから重たくもなります。大好きだもん、結婚したいもん。おじいちゃんおばあちゃんになるまで、ずっと一緒に居たいもん。そしてその通りです、言えませんでした。俺がそれ言う前に、風花ちゃんが『風花は女の子が好きみたい!』って言ったから」
あの日、ぎゅーって抱きしめた俺の腕の中で、大好きな幼馴染の風花ちゃんが言った言葉は鮮明に覚えている。
『あとね、風花ね、女の子が好きみたい! 悠真君は特別として、風花は、女の子といるとね、ドキドキするんだ。特別な悠真君以外では、男の子と一緒に居てもドキドキしないけど、女の子だったらドキドキする……えへへ、だからね、風花女の子が好きみたい。風花、女の子が大好きみたいなんだ!!!』―俺の胸に頭をすりすりしながらの風花ちゃんに、甘えた声でそう言われた瞬間、俺の頭は真っ白になった。
風花ちゃんは女の子が好き、女の子じゃないとドキドキしない―それは俺じゃ風花ちゃんの大好きに、風花ちゃんの恋人になれないってことを意味してたから。
風花ちゃんが俺の事、幼馴染以上では見てくれないって事、あの時わかったから。
「え、でも高田さん悠真の事特別って言ってたんだろ? お前と一緒に居る時はドキドキして、お前だけは男の子でも特別で大好き―そう言いたいんじゃないの?」
「つんつん、つーん! ぴょこーん! つーんつん、つん! つん? 悠真君? ぴょぴょん! 悠真君、悠真君!」
「そうだったら良かったんだけどね。でも、それはこの後の話。この後その特別は、ただの幼馴染で確定するんだ」
「ちょんちょん。ちょんちょん。悠真君、悠真君? ぴょこぴょこ? 悠真君、悠真君! ぷ~、ぽんぽん! 悠真君、悠真君!!!」
「風花ちゃんにはね、それからも何度か同じように……ってふ、風花ちゃん!?」
「も~、やっと見てくれた! えへへ、風花ちゃんだよ~」
むにゅむにゅと背中に感じる柔らかい感触に振り向くと、そこには笑顔だけど、少しほっぺをぷくーっと可愛く膨らませた風花ちゃんの姿が。
え、可愛すぎ⋯⋯じゃなくて、なんで風花ちゃんが、難波ちゃんたちとご飯……ていうかさっきまでの話……ふ、風花ちゃん!? いつからいたの、俺の後ろ!? 天使すぎて可愛すぎて気付けなかったよ!?
「えへへ、さっきだよ、悠真君に、会いたくて……ところでところで。悠真君と簑島君、風花の話してたの? 風花の名前聞こえたけど、風花の話してたの、悠真君?」
「え、あ、そ、その……し、してないよ! してないよな、太雅!」
「お、おう! してないよ、高田さん!」
……そんな純粋な目で見ないで、風花ちゃん! してたよ、めっちゃ風花ちゃん可愛いって話してた……けどこんな話するの恥ずかしい! 風花ちゃん本人にその話するの恥ずかしすぎる!
「あれ~? 風花の名前聞こえた気がしたんだけど、きのせいかな? えへへ、悠真君が、風花の話してくれてたらはっぴーだったけど、気のせいだった?」
「あれれ〜の顔可愛い、好き⋯⋯こほん。う、うん、気のせいだよ風花ちゃん! そ、それよりどうしたの、お昼ご飯、食べに行ったよね? 天ちゃんとか青ちゃんと、いつものところ行ったんじゃなかったの? なんかあった?」
「えへへ、行ったけど、帰ってきちゃった。そのね、あのね……えへへ、悠真君を、またチャージしたいから、帰ってきた」
「ちゃ、ちゃーじ?」
「うん、いつものチャージ! 放課後のベッドまで絶対に我慢できないから、悠真君チャージさせてほしいな、って……えへへ、風花、悠真君成分、足りなくなっちゃった。風花の幸せ悠真君ゲージ、お腹ペコペコなの。だから悠真君お願い……ふへへ、風花に悠真君、いっぱい感じさせてください!」
★★★
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